第002話





「ふむ、なるほどのぅ」

学園長はそうしばらく考え込むが、名案を思いついたとばかりに手を叩いた。

「まぁ、もともとひなた老からの紹介じゃ。儂には拒否権もなかったりするわけじゃが・・・ それでもお主の正体が分からないのは問題じゃ」

「まぁそうだろうな」

それは当然のことだろうと鏡耶は特に気にするでもなく肯定する。

「当然、一人暮らしをさせるわけにもいかん。監視の意味も込めて誰かと一緒に住んでもらうことになるが よろしいか?」

「構わんが・・・できればあまり人目に付かないようなところがいい」

さりげなく希望を言う鏡耶。

「ふむ。なぜじゃ?」

「俺自身が目立つのが嫌いだからだ。やっかい事は少ないに越したことはないからな」

「そうか・・・じゃがおぬしのその雰囲気ははっきり言って常軌を逸しておる。 力自体はさほど感じられないことから、何かしら隠しているのじゃろうがの」

学園長の言葉に何かを思い出した鏡耶。

「すまない、忘れていた」

この世界に飛ばされたとき無意識に力の出力は抑えていた鏡耶だったが、 「旅人」としての存在感を隠すことを忘れていた。
そして鏡耶は懐から一対のピアスを耳に着け、計10個からなる細いリングを左手にはめた。
すると先ほどまで感じていた凶悪なまでの存在感は影を潜め、部屋の空気が軽くなった気がした。

「それは・・・?よろしければ教えてくれんかの?」

見慣れぬアイテムに学園長は興味を堪えきれず聞いてみた。

「これか?これは簡単に言えば力の最大出力を封印する道具だな。身体的なことは変わらないが、 所謂気や魔力といった力を抑える働きがある」

「ほぅ・・・そんな魔具があるとは・・・世界は広いのぅ」

実際は鏡耶が創ったものだがそれは口にしない。

「で、じゃ。鏡耶君に住んでもらう場所はこれからここに来る者と同じ場所になる・・・っと来たようじゃな」

学園長がそういうとノックも無しに扉を開き、その人物は入ってくるなり口を開いた。

「何だじじい。こんな真昼間から呼び出すんじゃない」

「失礼します」

入ってきたのは金髪の少女とガイノイドの女性だった。

「おお、エヴァに茶々丸くん。急に呼び出してすまんの」

「前置きはいい。私を呼ぶからにはそれなりの理由があるんだろうな」

金髪の少女は何かを見定めるように鏡耶に視線を運ぶ。
鏡耶も鏡耶で今の学園長の言葉からおそらく彼女達が一緒に住むことになるのだろうと 予想を立てた。

「それなんじゃがな。そこにいる彼をエヴァの家に住まわせて欲しいのじゃ」

一瞬漂う沈黙の空気。その静寂から帰ってきたエヴァは明らかに不機嫌そうに返した。

「何を言うかと思えば・・・この何処の誰とも分からん奴を人に家に住まわせるはずが 無いだろう。行くぞ茶々丸」

「Yes.マスター」

すぐさま踵を返し、部屋から退出しようとする彼女達を学園長は慌てて引き止めた。

「待つんじゃエヴァ。これに関してはお主に拒否権は無い。儂からの命令じゃ」

命令・・・その言葉に魔力を全身に滾らせながらエヴァは言う。

「命令。命令だと言ったのか近衛近衛門。この私に向かって・・・ ついにその頭がいかれたみたいだな。どうやら無駄に長いその頭は飾りだったということか」

「ああ、命令じゃ。それにお主には逆らえない理由もあるじゃろう? そんな殺気を放たれても無意味じゃよ。もう決定したことじゃ。あきらめい」

エヴァも久しぶりに見る学園長の本気の態度に多少の冷静さを取り戻した。 そして鏡耶を指差しながら質問したいことをする。

「くっ。まぁいい。その話は一旦おいておくぞ。それでこいつは一体誰なんだ?」

「おいておくも何も決定事項なのじゃが「やかましい」・・・して、彼のことじゃったな。 彼は君影鏡耶君という。今夜からこの学園の警備員をしてもらうことになった。 経歴などについてはなにぶん急だったのでのぅ・・・残念ながらまだ分かっておらん」

「なっ!じじい、貴様はそんなことすら調べないままにこの学園に招き入れたのか!」

「しょうがないじゃろう?浦島の当代に頼まれたんじゃから」

「浦島の!?・・・あのばばあが絡んでくるのか」

そう呟くとエヴァは考え込んでしまった。





「ふん。鏡耶と言ったか。お前は案内に茶々丸を付けるから先に家に帰っていろ。 私はじじいに聞きたいことがまだ少しある」

「了解しました。・・・君影様、ご案内いたします」

しばらくしてエヴァは唐突にそういい、あとはもうどうでもいいのか学園長と向かい合った。

「君影君。詳しい話はエヴァに話しておくから今日はもういいぞ。ああ、高音君も愛衣君 も案内ご苦労じゃった。二人も席を外して通常任務に戻ってくれ」

学園長も今はエヴァと話す必要があると感じたのかそのように彼らに言うと、 エヴァに側にあるソファあに座るように言った。

茶々丸を先頭にして鏡耶が続き、その一歩後ろを高音とメイが続く。
茶々丸が学園長室の扉を開け、鏡耶たちを先に退出させようとしたところで鏡耶が 口を開いた。

「・・・・・・ああそうだ。二つほど言い忘れていた」

「なんじゃ?言ってみぃ」

学園長のOKを貰ってからぐるりと鏡耶は学園長室を見渡したあと言った。

「あまり人の心を読むのは感心しない、というのが一つ目。 そして・・・」

一旦言葉を区切り、高音とメイの肩に手を置きながら続ける。

「・・・・・・次は無いぞ」

そして今度こそ鏡耶は茶々丸の案内されるがまま学園長室を去っていった。







鏡耶たちがいなくなった学園長室では学園長とエヴァ以外に数人の人の姿があった。
その誰もが手に汗を握り、顔面は蒼白でその目にはあきらかな恐怖が浮かんでいた。

「成程な。突然私にあの男を住まわせるように言ったのはこういうことか」

恐怖で震えている者達を侮蔑するように見やりながらエヴァは学園長と話す。

「当代の結界に気付いたくらいじゃから当然気付くじゃろうと思っておったが・・・ 少々甘く見ておったようじゃのぅ」

「つまり・・・・・・監視しろということか」

「そういうことじゃ。おぬしは魔力がほとんど無くても数百年という年月の中で 学んだ闘う術があるのは知っておる。そして生半可な腕では彼を監視するというのは 不可能じゃろうて。おそらく彼はお主が監視の役目だということも考慮した上で 何も言わなかったじゃと考えられる」

「ふん。気に入らんがしょうがない。ああ、それとあの男は私預かりということで いいんだな?」

その言葉に含まれたことを正確に把握しながら学園長は答える。

「好きにせい。契約を結ぼうがそれはお主と彼との問題じゃ。 儂としてはきちんと仕事さえしてもらえればそれ以上は構わんよ」

言質はとったぞ。というともう用はないとばかりにエヴァは席を立とうとする。

「まぁ、そう急ぐこともないじゃろうて。それよりも一局指していかんかの?」

学園長も先ほどまでの雰囲気を一掃してフォッフォッフォと笑いながら 何処からとも無く将棋盤を取り出した。

「ふん。まぁいいだろう。・・・待ったはなしだからな」

「ふぉっ!?むぅ・・・しょうがないのぅ。・・・・・・・・・ああ、そうじゃ」

何かを思い出したかのように学園長はエヴァに言う。

「ん?なんだじじぃ」

「家に戻ったら君影君に明日朝8時に此処に来るように言っておいてくれんか? さっき言うのをすっかり忘れておった」

「貸し一だな」

「この程度の頼みごとでも貸し作る気かの!?」

額に汗を垂らしながら学園長は頬を引き攣りながら呟いた。

「当然だ」

エヴァはニヤリと口を歪ませてきっぱりと言い放った。





一方鏡耶を連れて案内する茶々丸は・・・

「ところで、いつまで高音様と佐倉様は付いて来るのでしょうか?」

いたってマイペースに自分とエヴァが住んでいるログハウスに向かって歩いていた。

「それもそうですわね。時間が許すのならもう少し鏡耶さんと話をしたかったのですが、 それはまた今度の楽しみにしておきますわ」

「え〜そうだったんですか?私はてっきり前半に台詞が無かったから、無理やりにでも 話したかったのだとばかり・・・」

茶々丸の問いに優雅に返そうとした高音にメイがそう切替す。 そんなメイに対してこめかみをピクピクさせながら高音はメイの頬を引っ張り、 にこやかな笑みを浮かべながら語りかける。

「ねぇ、メイ。貴方は口は災いの元という言葉を知っているかしら? ・・・そう、知らないのね。いい機会だわ、私がこれを機に身体に教え込んであげますわ。 ・・・・・・・・・というわけなので、鏡耶さんこれからは学内で会うこともあるでしょうから 今日はこれで失礼いたしますわ。それと茶々丸さん、私はこれで失礼します。 貴方のご主人様にも一応よろしくとお伝えくださいな。・・・ほらメイ!いきますわよ」

「ほぁ〜〜っ!いらいれすぅおれぇさま〜〜〜!!ひょうやはん、たたまふはん ほれへあひふれひひあふ〜〜〜!!(は〜〜っ!痛いですお姉様〜〜〜!!鏡耶さん、茶々丸さん それでは失礼します〜〜〜!!)」

どこどなくドナドナが聞こえてきそうな雰囲気を出しながらメイは高音に引き摺られていった。

「大丈夫でしょうか佐倉様は・・・」

「まぁあの二人は仲がいいみたいだから大丈夫だろう?」

茶々丸の呟きに律儀にも鏡耶は返す。

「お二人は契約をしている程ですので、君影様の仰るとおりかもしれませんね」

「パ、クティオー?何だそれは」

茶々丸の言葉の中に聞きなれない言葉のあった鏡耶は聞いてみた。

「その質問に対する答えはここではできません。ここでは少々人目に着きすぎてしまいます。 家に戻ってからでもよろしいでしょうか?」

その茶々丸にああ、魔法関係なのか。と当たりをつけた鏡耶は素直に従うことにした。

「ああ、それじゃあ道案内の続きをお願いしてもいいか?」

「かしこまりました。それでは引き続き私に着いて来て下さい」

そう言うと再び茶々丸は鏡耶に背を向け、雑木林の中に足を踏み入れていった。



まだお昼過ぎということもあってか雑木林には程よく光が差し込んでいる。
今歩いているところには草が生えていないことから、一応の道はあるらしいことが分かる。
しかし、この道に入るときに多少の違和感を感じたことから簡易的な認識障害の術でも かけているのだろうと鏡耶は推測する。
雑木林の奥に進むにつれ、より自然は色濃くなっていき鳥や獣の姿もちらほらと目に付くようになった。
そしてだんだんとマナが濃くなっていく。しかし嫌な感じのマナではなく、 この自然を慈しむ感じのするマナだ。似たような気配をエヴァから感じたと思った鏡耶は 彼女が学園長室で見せた態度より、今此処で感じ取ったものが彼女の本質なのだろうと識った。

「茶々丸・・・と呼んでもいいか?」

おもむろに口を開いた鏡耶はそう茶々丸に聞く。

「はい、構いません。何か御用でしょうか?」

茶々丸は振り返ることもなく足を進めながら鏡耶に返す。

「いや、この雑木林を見て思ったんだが・・・君のご主人様は根はいい奴みたいだな」

その言葉に意表を突かれたのか、茶々丸は驚いたように足を止めた。 そして振り向き、鏡耶に目を合わせて言った。

「マスターはとても心優しい方です。普段はご自身の信念に基づく行動をされているため 周囲の方からは誤解をされてしまうのですが。君影様がマスターのことをそう思ってくれる ことはとても嬉しいことだと私は思います」

「まぁ、普段からあんな感じではそうなのかも知れないな。監視役とはいえどうせなら 付き合いやすい方が良かったし・・・まぁあまり嫌な思いをしないで此処での日常を過ごせそうで良かった」

「一部よく分からないところがありましたが・・・間もなく今後君影様が住まわれる私達の家に着きます」

「ああ、見えてきたな。あのログハウスか?」

「はい。仰るとおりです」

前方に雑木林の雰囲気にとてもマッチした木造の建物が見えてきた。
一層強いマナの濃度にそのログハウスがこの結界の中心点であることに鏡耶は気付いた。
鏡耶は一定の速度で歩みを進める茶々丸のことを何処か懐かしく思いながら ログハウスの扉に手を掛ける茶々丸に話しかける。

「そうだ。これからしばらく一緒に生活をするのだから俺のことは名前で呼んでくれないか?」

「いえ、君影様はお客様ですからそういうわけにはいきません」

「あまり名字で呼ばれなれていないんだ。それに俺としてはお客というよりは出来れば家族感覚で 茶々丸とは付き合っていきたい。もちろん茶々丸のご主人様とも・・・だけどな」

しばらく考えていたようだった茶々丸だが、ログハウスの扉を開け鏡耶に入るよう促した。

「・・・・・・お帰りなさいませ。鏡耶さん・・・・・・で、よろしいのでしょうか?なにか不思議な感じがします」

「ああ、ただいま。・・・でも嫌な感じはしないだろう?」

そう言って茶々丸の頭をくしゃくしゃっと撫でた鏡耶はゆっくりとログハウス、通称エヴァハウス に入っていった。

「・・・・・・・・・どうしたのでしょうか・・・胸部のモーターの回転数が微量ながら多くなった気がします―――」







ガイノイドはその変化に違和感を覚えたがやはり嫌な感じはしなく、また自身の製作者の葉加瀬にも 、エヴァにも何故か報告しようとは思わなかった。

鏡耶が来たことによる変化・・・今はまだ些細なことで、暖かい風が吹いている。
しかし、強すぎる力は簡単に全てを壊してしまう。



鏡耶はその己の持つ力をどう振るうのだろうか・・・・・・その腕には数多の腕輪。
今はただ、かつての錬金術師が連れていた自動人形のことを思い出していた。










つづく
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あとがきのようなもの

ものっそおそくなりました!ごめんなさい!!
いいわけはしません。ちょっとMMORPGにはまってしまい・・・あぁ!石を投げないで・・・!!!
さて、私は時間を進めるのはとても苦手なのだということが分かり、うーんぜんぜん先に行かないと 悩む次第です。
今回は結局何が進んだんだろうか?あんまり自分でも分かっていないところにそこはかとなく 危険な香りがします(泣

次回は顔見せPartUってところでしょうか?学園長室で契約を結びます! そこに現れる魔法先生達・・・さらに初仕事!そこで出会う人は・・・!!

とまぁ予告的な物を言っていますが、そこまで持っていけるかは甚だ疑問です。
ですが、徐々に更新スピードを上げていけたらと思っています。
ですのでこれからもぬるい目で見守っていてください。



・・・・・・BGM「SoundHorizon 5thStoryCD Roman "11文字の伝言"」を聞きながら・・・・・・・・・



それでは次回のあとがきのようなもので会いましょう。





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