第001話





何も無い空間――――――



その中で時々光が零れる。

「どうするどうするどうする・・・・・・聞いてないぞこんなやつがいるなんて・・・っ!!」

そういいながらも紅い目をした腰まで伸びた美しい漆黒の髪を赤いバンダナで結んだ 男が愚痴る。

「ああ、大丈夫だタマモ。これが終わったらあいつに言って休暇を貰おう。 だから今は俺の中で安心して眠っていてくれ」

男―――君影鏡耶は自分の中で力を貸してくれる最愛の女性・・・タマモが意識を眠らせるのを 確認すると、何も見えない空間のどこかにいるであろうソイツに話しかけた。

「おい。俺のことがお前は見えているんだろう?・・・・・・答えてもらおうか。お前は何者だ? ・・・・・・・・・いや、お前は何だ?」

すると何処からとも無く声が響く。

「ほう?私とここまで戦えるのですから私のことなど知っている物とばかり思いましたが・・・ いいでしょう。私とここまで戦えた相手は実に久しぶりですからお答えしましょう。」

自分の姿すら視認出来なかった闇に閉ざされた空間にぽっかりと白い空間が現れた。

「私の名前を言えればいいのですが、残念ながら私という存在が私にとって認識できてから ここまで名乗るような機会が無かったため名前は無いのです。 ・・・しかし私がどういう存在なのかははっきりと認識しています」

「・・・・・・続きを」

「はい。鏡耶さん・・・おっと名前を私が知っているのは私のことを知れば分かると思いますので 今はその殺気は抑えてください。・・・・・・ありがとうございます。話を続けますと、私は影なのですよ。 ええ、影。中国という国が存在する世界書の世界で言うところの陰陽の関係ですね。 私はある存在にとって対となる存在です。まぁ初めはいろいろと思うところもあったのですが、 いまではそのある存在と同じく世界書を楽しむのに時間を費やしています。 そして時々こうして世界書に入り、気ままに弄ったりして遊んでいるというわけです。 まぁ私が弄ってしまった世界書を修復する作業を鏡耶さんや、コゲさんにやってもらっているわけ ですが・・・ってもうここまで言ってしまえば私が誰の ・・・何の対の存在なのか分かってくれたと思います」

鏡耶は天を仰ぎたい気持ちになった。 といってもこの空間ではどっちの方向に天があるのか分からなかったが。 しかしいつまでもこうしている訳には行かないと思い直し意識を相手に向けた。

「そうですねぇ・・・鏡耶さんには私の後始末ですが、いろいろとお世話になっているので あまり手荒なことはしたくないのです。そしてここは私が身を隠すのにはこれ以上ないと 言っていいほどの空間です。ですので強制退場して頂きます」

そういうと今まで戦ってきたのとは比べようのない強力な力が目の前の相手から感じ始めた。

「――――――!!!」

鏡耶が何かを叫んだが、声は振動することなく無駄に終わってしまう。
そして鏡耶が相手の一撃を受けたとき、一瞬だが相手の顔を見ることが出来た。

・・・・・・あのやろう・・・次に会ったときこいつのこと洗いざらい話してもらうからな・・・!

相手の顔を見てそんな風に考えながら鏡耶は自分が何処か違う世界書に飛ばされるのを感じていた。







「ひょっひょっひょ。次に景太郎達に会うのが楽しみじゃな」

ひなた荘から数キロ離れた上空。ヘリコプターの中にその老婆はいた。

「誰を選ぶか・・・やはり本命のなる・・・いやいや色気で責めてキツネも捨てがたい・・・ しのぶやスゥもまんざらでもないようじゃしな。ふむ、加奈子も好いておったし・・・ そうじゃ!ここは全てを取ってハーレムを目指すようにするかの・・・ ひょっひょっひょ・・・・・・・・・むっ!?」

なにやらとんでもない思考をダダ漏れにする老婆は突如現れた気配に一瞬でその顔を まじめな物にする。

「運転手よ。少し寄ってもらいたい場所があるのじゃがいいかの?」





自分のいる空間が普通の空間に戻ったことを知った鏡耶は辺りを見渡す。

「すごいな・・・一つの街を完全に結界で覆い尽くすとは」

しかしそこで鏡耶はあることに気付く。

「タマモっ!?・・・おい!返事をしてくれ!!」

しかしいくら呼びかけてもタマモからの返答は無い。
自分の状態をすぐさま真眼で走査する。 その結果返ってきたのはタマモは確かにいるが、極めて同期が進んでおり、 分離するにはこの世界では無理というモノだった。
幸いと言うか、現在の鏡耶の能力は所謂最強モードというものになっており、 本気になれば四色文珠でこの世界から出ることも出来たのだが、それを行うと タマモに与える影響が大きすぎるということで、鏡耶は自力で他の方法を探すことにした。

そこまで考えがまとまると、鏡耶は自分に一直線に向かってくる力を感じた。

「この力は・・・この結界を張っている力と同じか・・・ここのことを聞くのにもってこいかもな」



ヘリコプターが自分の目の前に降り、そこから自分の腰ほどしかない老婆が降りてくるのを 鏡耶はやや驚いた表情で見ていた。

「驚いたな。ここまで完璧な世界を維持する化け物がこんなに小さなご老体とは・・・」

「ひょひょ・・・儂に言わせるならそれに気付いたお主こそ化け物じゃと思うがの。 さて、一体どうやってここに来た?」

その言葉に虚言は許さぬというものが含まれているのを感じ取った鏡耶は、 自分の現状を言っていい範囲内で伝えることにした。

「・・・・・・なるほど、平行世界のう。全部は言っておらぬようじゃが嘘ではないじゃな。 よかろうお主が元の世界に戻れるようになるまで世話を焼いてしんぜよう」

思わぬ発言に鏡耶は驚く。

「しかしご老体。それでは迷惑が掛かります・・・」

「そんなことは気にする出ない。好きでやることじゃ。年寄りの好意は素直に受け取るもんじゃぞ?」

しばらく考えるが、この老婆の意思を変えるのは無理と判断した鏡耶は結局折れた。

「すまないな、世話になる。だが、世話になりっぱなしは勘弁してもらいたい」

すると老婆はにやりと哂った。

「当然じゃ。実は前々から力のあるものが足りなくて良さそうなのがいたら送って欲しいと 言っていた爺がいての。そこで働いてはくれんか?何、仕事内容は所謂化け物退治じゃな。 儂の結界に気付けた程のお主なら余裕じゃろうて」

「初めからそれが狙いか?まぁこちらとしては文句はないな。 それで俺はいつからそこへ行けばいい?」
しかし老婆はそれを口にせず違うことを言った。

「おそらくお主と会うのはこれっきりになるじゃろう。 鏡耶殿、最後に興味本位じゃが本当の年齢を教えて頂けないじゃろうか? 鏡耶殿の眼からは儂や先ほど紹介するといったところの雇い主の爺いよりも 年を重ねた重みがある。・・・・・・嫌ならいいのじゃがな。気になっての。 ・・・・・・ほれ、これが先方の場所と行き方じゃ。連絡はこちらでしておくから鏡耶殿は 行くだけでOKじゃ」

お主ではなく鏡耶殿と呼ぶ老婆は何処か尊敬の念をもって鏡耶に一枚の紙を渡した。
鏡耶はじっと考えていたが、老婆に言った。

「俺もはっきりとは覚えていないが・・・もう万に近い時を過ごしている。 それでは俺からもいいか?最後にご老体の名前を聞きたいのだが?」

すると突然老婆は笑い出した。

「ひょっひょっひょ・・・!長生きはするものじゃな。儂の名前はひなたじゃ。 浦島ひなた。では鏡耶殿、達者でな」

老婆・・・ひなたはそう言うと来た時と同様に颯爽とヘリコプターに乗り込み どこかへ飛んでいってしまった。
それを見送った鏡耶はひなたに渡されたメモを見て目的地に向け足を進めた。

「麻帆良学園か・・・まぁとりあえず行ってみるとするか」







――――――麻帆良学園 学園長室

奇怪な頭の形をした老人が書類の整理をしていた。

ジリリリリリィィン

「ふむ、誰かのう?ここ最近は特に電話を通してまで話すようなことは無いと思っていたのじゃが」

ま、出てみれば分かることだのう。と考えながらその老人は電話を取った。

「ほいほい、近衛じゃ。どなたかのー」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「おお!久しぶりじゃな。してなんじゃ?・・・・・・なんと!お主にそこまで言わせる者じゃと!? ふむ、そんな人物なら万事OKじゃ。なに、ワケありだろうがお主が保障するんじゃ。 それ以上の証明など必要ないはずじゃて。・・・・・・ふむ、それならそろそろ駅に着くころじゃな。 ・・・・・・・・・今は春休み中じゃ。当番制で警戒しておるのじゃが・・・ふむ、今日は高音君と佐倉君か。 よし、二人に言って迎えを頼むことにしよう。それでどうじゃな?」

その後老人・・・近衛近右衛門は数分ほど電話の相手と話した後電話を切り、違うところへ掛け直した。

「・・・・・・おぉ、高音君か?そこに佐倉君もいるかの?・・・実は用を頼まれてはくれんか?」

そしてその電話も終わり電話を切った近右衛門は椅子を回転させ、窓の外を見た。

「今年はネギ君も正式な教員として働くことになり、今度はあのひなた殿が紹介する 人物が来るとはのー。いやはや今年は一段と賑やかになる気がしてきたの」







麻帆良学園中央駅改札口前――――――
協会のシスターのような衣装を身につけた金髪の美少女が五メートル程の間隔を かつかつと心地よい音を立てて行ったり来たりしている。
そしてその女性をおろおろとしながら声を掛けようかどうしようか迷っている女性がいた。
こちらは麻帆良学園女子中等部の制服を着ているが、どちらかといえば美人より可愛い女の子 といった面持ちの女の子だった。

「ちょっとメイ!いつになったらその人は来るというんですか!?」

「すみませんお姉様!!さっぱり分かりません!!」

「そんなに潔く肯定するんじゃありません!!っとにもう、学園長は何を考えていらっしゃるのか・・・ 何が「会えばすぐわかるはずじゃ・・・と言っておったから大丈夫じゃろう」よ!・・・私達だって 巡回とかあって暇じゃないですのに・・・」

「お、お姉様落ち着いてくださいよ〜。・・・あ、電車が入ってきましたよ。もしかしたら乗ってるかも 知れませんからちゃんと探しましょう〜〜」

言われの無い事を言われて半分泣きながら高音の意識を別の方へと持っていく。
休日といえど麻帆良学園にやってくる人は多い。バイトであったり大学の研究だったりと 理由は様々だが、電車から降りてくる自分物は多く、佐倉はこれでは見つからないのでは?と 本気で思い始めた。



しかし、その降りてくる人を観察していると突然ざわざわしていたホームがしん・・・っと静まり返った。
高音と顔を見合わせる佐倉は次の瞬間それを見た。
改札口を通るために今まで曲がっていて見えなかったホームの影から現れた一人の男性。 髪は腰まであるのが数十メートル離れた場所からでも確認できるが、その顔立ちもかなり整っている。
体つきが鍛え上げられたモノでなかったらおそらく佐倉は女性と間違えてしまっただろうと思った。
その男性が放つ雰囲気はあまりにも辺りを圧倒していた。
そして佐倉はその存在が放つ圧力に恐怖を感じ、半ば金縛りにあったように動きが止まってしまった。
だが、そんな佐倉とは違い高音は違うことで動けなくなってしまった。

(・・・・・・な、なんて存在感・・・そしてなんて強大で力強く、温もりに満ちた気配を持っているのでしょう・・・・・・)

それは高音が今まで生きてきた中で初めて出会う絶対的強者だった。それは高音の最も深いところに ストンと落ち、一瞬にして高音の根底に住み付いてしまった。

その男性からきっかり二メートルの間隔で円を描くように人垣が出来ていたが、本人は全く気に することなく普通に高音と佐倉が固まっている場所にやってきた。

「あんたらが案内の者か?」

その言葉に正気を取り戻した高音は平静をなんとか保ちながら答えた。

「ええ、貴方が君影鏡耶さんですね。私は高音・D・グッドマンといいます。 本日は私の従者佐倉メイと共に貴方を学園長室まで案内するよう申し付かっております」

「俺のことは好きに呼んでくれて構わない。それと、案内の方は迷惑をかけるな」

「いいえ構いません。これも仕事のうちですから。・・・・・・メイ!行きますよ」

「ああっ!!はい!!お姉様。・・・あ、と、えと・・・佐倉メイです。今日はよろしくお願いします」

勢いよく腰が直角に曲がるほどのお辞儀をしたあと、佐倉は急いで高音の元へ駆け寄る。
そして高音はそれを待ち、学園長室まで鏡耶の一メートルほど前方を歩き始めた。

「あの、君影さん。質問をしてもよろしいでしょうか?」

簡単に学園長室までの道のりを説明しながら、高音はふと思ったことを鏡耶に聞くことにした。

「何だ?・・・それと俺のことは名前でいい」

「わかりました。それでは鏡耶さんと・・・私のことも名前で構いません」

二人の会話に挟み込むように佐倉も私もメイでいいです。と言っているが、別段気にすることなく 高音は続けた。「あうっ・・・・・・無視!?無視ですかお二人とも・・・・・・」

「鏡耶さんはどうやってこの麻帆良学園に?こういってはなんですが、ここに来るには かなり細かなところまで経歴を調べ上げられ、それをパスしなければならないのですが」

「さあな。確かに俺は怪しいだろうし、自分でも自覚している。っとここには紹介されたから 来ただけだ」

「紹介・・・ですか?もしよろしかったらその方のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「浦島ひなた。そう彼女は名乗っていたな」

「!!??なるほど・・・それならば納得します。かの浦島家当主が認めた人ならばそれだけで 十分な証明となるでしょうね」

その言葉に反応したのは鏡耶だ。

「ほう、そんなにすごいのか。確かにかなりな実力者なのは見て分かったが・・・・・・」

佐倉は今しかないと思い、口を開きかけた高音の台詞を奪った。

「すごいなんてものじゃないですよ!!浦島ひなたと言ったら、裏の世界では手を出しては ならない人物の堂々一位をここ数十年キープし続けてるお方なんですから! あの方がその気になればそれこそ世界中が敵になると思ったほうがいいくらいの人望とコネが あるんですよ〜」

「なるほど。説明ありがとうな。メイ」

どこか納得した顔で鏡耶は数度うなづくと佐倉の頭をぐりぐりと撫でる。

「あうあう〜〜〜」

おかしな声を上げて顔を真っ赤にする佐倉を高音は注意し、佐倉の腕を掴んでぐいぐいと先へ歩き出す。

「ほらメイ!いつまでもとろけた顔してないで行きますよ。唯でさえ少し遅れているというのに これ以上遅くなるのは許しません!」

「ご、ごめんなさいお姉様〜〜」

「鏡耶さんももうそこですからちゃんと着いて来てくださいね!」

「何をそんなに怒ってるんですか〜〜お姉様〜〜〜」

「うるさいわよ!」

「はう〜〜」

ぴしゃりと佐倉の小言をシャットダウンし、どこかイライラした感じでどんどんと先を歩く高音。 佐倉はというと高音に引き摺られ唯一地面と接している踵から土煙を上げていた。



「さて、鏡耶さん。ここが学園長室です」

あれから十分弱歩くと学園長室と書かれたプレートの前に鏡耶たちは立っていた。
扉を数度叩くと高音は中にいるであろう学園長に声を掛けた。

「学園長。君影鏡耶さんをお連れしました」

「おー来たか。待っておったぞ。それでは高音君達も一緒に入ってきてくれんか」

「分かりました。・・・・・・・・・それではこれから学園長室に入りますので私の後に付いて来てください」

そして高音は学園長室の扉を開け、入っていった。それに続くように佐倉が入り、そして 鏡耶もゆっくりと学園長室へ足を踏み入れた。







「さて、ここはどんなことが起こるのか・・・楽しませてもらおうか」

そして規格外の存在が麻帆良の地に降り立った・・・・・・・・・







つづく
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あとがきのようなもの

どもども、無謀な連載3作目です。
今回はちょっと短めですが、許してやってください。
もう殆んどオリキャラと化した鏡耶がネギまの世界にやってきました。しかも今度はタマモ無し!
いけいけ鏡耶!やりたい放題できるぞ鏡耶!!でもでも実はコミックを持っているMirrorですが、 いまいちキャラの性格やら名前やら外見を把握し切れていません。どうしましょう・・・
メインに出すのはネギ、明日菜、このか、刹那、高音(え?)、エヴァ、茶々丸、しずな、といったところでしょうか? 場合によっては朝倉や龍宮なんかも出てくるかもです。
一応今はネギ君が何とか2年生をクリアして春から3年を教えよう!ってところから始まります。
つまりエヴァとの対決辺りからになる予定です。ですが、そのまえにネギ達との顔合わせがあったりと いろいろありますので初顔合わせは早くて二話の終わり、三話、四話になる予定となっています。

また、これは原作自体が終了していないため、適当なところでどうやって終わらそうかかなり 悩んでいまして、まぁ今のところそれなりにラストを考えてはいますのでそこまでちゃんと持っていくのが 目標となりそうです。
頑張れ俺!負けるな俺!



・・・・・・BGM「倒凶十将伝 OVAオープニングテーマ『もうちょっと強く』」を聞きながら・・・・・・・・・



それでは次回のあとがきのようなもので会いましょう。





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