GS二次小説 「せめて絶望のない世界をあなたに〜外伝〜」



第004話

ヒャクメがカオスの家に入るとそこには誰もいなかった。
しかしヒャクメは部屋の中心に描かれている直径三メートルほどの魔法陣を見ると迷うことなくその中心に足を運んだ。
そして魔方陣に霊力を流すを次の瞬間にはヒャクメの姿はなく、後に残ったのはほとんど何もない部屋と魔方陣だけだった。







「そういえばタマモは何処にいるか知りませんか?」

横島はいつもは着かず離れず微妙な距離を取って着いて来ているタマモがいないことに気付いて猿神に尋ねた。

「タマモの嬢ちゃんか?さっきも言ったがワシはしらんぞ」

猿神は今なお過去の自分達に自分という存在を消されないように、そして逆に自分以外の過去の自分を取り込もうとしているタマモのことが脳裏に浮かんだが、横島にはなんでもないように答えた。

「そっすか、小竜姫様は知ってます?」

「いえ、私も知りません。ですが、もしかしたらいつものように修行を行っているのではないでしょうか?」

横島はその考えにいたらなかったのか、「あ、そうか」と一人で納得してタマモに話をしてこようと修練場に向かおうとしたが、見知った霊圧を感じてそっちの方に向き直った。

「ほう、他人の霊圧を見分けられるようになったのか。流石は私が認めた戦友だ」

「どうしたんだ?いつもなら前もって連絡くらいよこすだろ?」

横島の普段と変わらない感じに何故か軍服ではなく少々変わった鎧を着込んだワルキューレは自分が来た用件を話し出した。

「横島、お前は今自分が置かれている状況を知っているか?」

「それは・・・神界が下した横島さんの抹殺命令のことですか?」

「ああそうだ。この様子を見ると老師と小竜姫は横島に着くのか」

「まぁ、不出来な弟子は放ってはおけんしの」

「そういうことです」

そういう小竜姫にワルキューレは何かを感じたのか口元を緩ませた。

「意外と小竜姫は恋する乙女だったのだな」

「なっ!?何をいっているんですか!ワルキューレ!!」

ワルキューレの突然の発言に小竜姫は顔を真っ赤にして怒った。

「気にすることでもないだろ?まぁ、雑談はこの辺にしてそろそろ本題に入るぞ」

「横道にそらしたのはそっちなのに・・・」

なにやらぶつぶつといじけている小竜姫を無視する形でワルキューレは切り出した。

「どうやら神界側の決定は既に知っているようなので、今度は魔界側の決定を伝える」

その言葉に小竜姫は先程までの状態からすぐに真面目に戻った。

「魔界側も横島の状態をどうやってかは分からんが、おそらく裏取引だろうが・・・、知っている。そこで半分以上が魔族で、しかも神界から狙われるのならこっちで保護しよう。ということになった」

「保護・・・?」

「そうだ。なんとなくだが、どうしてそういう結論になったかは想像できるがな・・・」

ワルキューレはそう言って今度は横島に向き直る。

「まぁそういうわけなのだが、横島はどうする?」

「どうするっていわれてもな・・・正直俺はあまり皆を巻き込みたくないんだけど・・・」

表情を暗くしてあいまいなことしか言うことの出来ない横島にワルキューレは続けた。

「なんか勘違いをしているようだな。この決定には横島個人の主張は介入されない。つまり勝手にこっちで保護するから遣いにやった者・・・まぁ私のことなんだが、について来いということだ」

「待ってください、ワルキューレ。なんで横島さんの行動を魔界に強制されなければならないのですか!?」

「小竜姫よ、もう少し冷静にならんか。ワルキューレ、ワシの考えを聞いてくれるか?」

猿神の横からの発言に小竜姫は黙り込むしかなく、ワルキューレも特に気にすることなくどうぞと進めた。

「魔界の方の勢力はよく知らんが、恐らく小僧の保護を進めたのはデタントに反対していた連中じゃろう。案外本当に半分以上が魔族だから同族が狙われるなら保護したい、というのもあるのかもしれんが・・・つまりじゃ、保護をすると決めた対象が攻撃される、それも神族にとなるとそれは魔族にケンカを売っているようなもんじゃろう。それを狙っているのだろうよ」

「な!・・・・・・そんなことのために・・・それって横島さんを道具にしているだけじゃないですか!」

「しかし保護をするのは確かだ。心強いことにはかわりないだろう?」

それとも援護なしで自分達以外全ての神族を相手に出来るのか?と目で問いかけてくるワルキューレに小竜姫は激昂しそうになる自分を抑えた。小竜姫でさえ無謀な戦いを挑もうとしているのは分かっていたのだから。

横島は結局口ではまだまだワルキューレに勝てるはずもなく、またワルキューレに真剣なまなざしでお願いされては断ることも出来ず、結局横島達は魔族に保護を求めことにした。

「それでワルキューレ、これから何処に行くんだ?それとタマモも回収しないといけないんだが・・・」

「すぐに分かる。もうそろそろ連絡があるはずだ・・・・・・・・・っ!!」

ワルキューレがこれからのことを言おうとしたとき、突然妙神山の結界を破ってこちらに向かってくる小竜姫を超えるほどの霊圧を持った何者かが現れた。







魔方陣に消えていったヒャクメは怪しげな機械とよく分からない文字で書かれた紙に埋もれた部屋にいた。
しばらくその部屋で胡散臭い紙を眺めていると後ろから声がかけられた。

「ミス・ヒャクメ、ようこそおいで下さいました。ドクター・カオス、待ってます」

「お出迎えありがとうなのねー、それじゃあ一緒にいくのねマリアさん」

マリアに連れられてしばらく歩いていくと扉にマッドな部屋と書かれたプレートがぶら下がっている扉に着いた。

「ドクター・カオス、この先にいます。マリア、お茶を入れてきますので、先入っていてください」

そう言ってマリアは恐らくキッチンか何かがあるのだろう、更に奥に進んでいった。
ヒャクメはマリアが去ったのを見ていたが、時間があまりないのを思い出しカオスが恐らくいるであろう部屋に入っていった。

「おじゃまするのねー」

「おお!待っておったぞ。まぁ、いろいろ話すこともあるじゃろうが、早速本題に入るとするか」

そしてカオスはヒャクメにあるものを見せた。

「これがそうなのねー?意外と小さいのねー」

「うむ、おぬしがワシの夢に突然現れてから横島の小僧に無理を言って「若」の文珠で若返ってから考え作ったものだからの。その効力も折り紙つきじゃ」

「よく横島さんから文珠をもらえたのねー?」

「なーに、いつか必要になるはずだと言っての。恐らくじゃが横島も既に何かを感じていたのやもしれん」

ヒャクメがカオスに作らせていたのはバレーボールよりもやや小さめの機械だった。しかし見るものが見ればその機械に織り込まれている術式の数の多さと、その密度に目を見張っただろう。

「これこそこのドクター・カオスが生涯の全てを導引して作った最高傑作。その名も「隔離空間発生装置」じゃ」

「なんかそのまんまなのねー」

「仕方ないじゃろ!これしか思い浮かばなかったんじゃから」

二人が装置の名前について話しているとお茶を入れ終わったマリアが部屋に入ってきた。

「ミス・ヒャクメ、ドクター・カオス、お茶が入りました」

「すまんのマリア」

「ありがとうなのねー」

マリアが入れてくれたお茶を一口飲んで、カオスは真面目な口調で話し始めた。

「ワシに出来るのはここまでじゃ。まぁあと一つ作っていることは作っているが、その装置が壊れたときの予備とでも思っていてくれればよい」

「分かったのねー。でもこの装置もほんとに平気なんですかー?」

「それは安心せい。今の今までお主がワシらの部屋に入らないとあの魔方陣も、この異空間の存在も気付かなかったであろう?神界屈指の調査員であるお主が・・・」

そう言ってがっはっはと笑うカオスにヒャクメは確かにこの自分でさえその異空間があると感じる違和感さえ掴み取ることが出来なかったと思った。
ヒャクメが夢を使ってカオスに頼んだのは自分でも発見することの出来ない結界、もしくはそれに準ずる空間を作り出す装置だった。
恐らく横島はおとなしくやられないだろう。最後まで諦めずに戦い抜くはずだ。しかしそれには休む必要がある。神界の調査官の中には自分ほどではないがかなり異空間や結界を探し出し、探り当てることの出来る能力者もいる。
彼らが出てくると横島の文珠でも見つかってしまう恐れがあるし、休むときも能力を使っているのは余計な体力、霊力を消耗してしまう。
そして完成したのが今目の前にある「隔離空間発生装置」である。

「確かにそうなのねー。私でも全く分からなかったのねー」

「じゃろう?流石はワシ!ではとっととこれを持って行くが良い。ちなみに使い方はこの説明書に書いてある」

マリアに持ってこさせた説明書をなくさないようにしまったヒャクメは新たに出てきたもう一つの「隔離空間発生装置」をかばんに詰めながら聞いた。

「・・・ってなんで二個もあるのねー?それにこれから二人はどうするの?」

「それは当然ワシらも見つからないように隠れているためじゃよ。身の保障をしてはくれているみたいだが、何処の世界にも卑怯者はいるのでな」

「否定できないのねー」

「いやいや、おぬしがそう悲観する必要はない。ワシらはここからこれから起こる出来事を見ていることにするつもりじゃ。本来ならもっと手を貸したいのじゃが・・・」

「ノー、ドクター・カオス。マリア達、行った場合、逆に足手まといになる可能性、99.89%です」

「と、いうわけじゃ。すまんの・・・」

カオスはそういってヒャクメに頭を下げ、マリアもカオスに倣った。

「気にしないでいいのねー。二人にはこの装置を作ってもらったんだから。これだけでも十分すぎるのねー」

「そう言ってくれると、うれしいです。・・・・・・ミス・ヒャクメ、どうかご無事で」

「死ぬ気なんてないのねー、それじゃあ急いで妙神山に向かうからこれでさようならなのねー」

そしてヒャクメは振り返ることなく二人の部屋を後にした。





「ドクター・カオス」

「何じゃ?マリア」

ヒャクメを見送ったまま二人はヒャクメが出て行った扉をしばらく見ていたが、マリアがカオスに向き直り言った。

「ミス・ヒャクメ、最後に再会を約束する言葉ではなく、「さようなら」といいました。・・・何故ですか?」

「・・・そうか、マリアも気付いたのか。・・・・・・罪滅ぼしか、単なる自己満足か・・・それとも・・・」

「ノー、ドクター・カオス。答えになっていません」

「マリア、その質問にはワシは答えることは出来ん。それに本当は分かっているはずじゃ」

カオスはマリアと目を合わせゆっくりと、それでいて優しく言った。

「ノー、分かりません。教えて下さい」

「では、その質問はこれからここで長い時を過ごすのだから課題にする。よく考えて満足できる答えになったらワシに聞かせておくれ」

しばらく沈黙が続いたが、マリアはこうなったカオスは決して教えてはくれないのだろうと思った。

「イエス、ドクター・カオス。答え、出たら聞いてもらいます」

そしてマリアは失礼しますとカオスに伝え、食事の準備をするために部屋から出て行った。

「・・・・・・・・・マリア・・・こんなときマリア姫ならなんと言うかのう・・・」

そしてカオスはマリアが食事の用意が完了したことを伝えに来るまで眠ることにした。





――――――機械の身体を持った少女の、気付かずに零れた数滴の雫を目の端に捕らえながら・・・・・・









横島たちは突然の来襲にお互いの背中を合わせることですぐに対応できるように構えた。
その数およそ十。どれもこれも小竜姫と同等かそれよりもやや低い霊力を持っていると猿神は感じ取った。

「ふむ、十・・・いや十一か。それも全てが小竜姫と同程度の霊力を有しておる」

「そんな!?もう追っ手が掛かってきたのですか」

「大竜姫が伝えるということは無いであろうから、恐らくはあらかじめ予想をしていたのであろうよ」

「どうするんですか?師匠、小竜姫さま」

「何馬鹿なことを言っている横島。どうするも何もお前は戦って生き残る道を選んだのだろう?・・・・・・・・・ならすることは一つだ」

ワルキューレの言葉が終わると同時に横島たちに向けて霊波砲が何本も放たれる。
それを飛び退くことでかわすがそのせいで分断されてしまった。
どうやら初めからそれが目的だったらしく、霊波砲を撃ってきた相手は今度は先程よりも強力な霊波砲を横島のみに標準を合わせてきた。

「な、なんでだーっ!!??」

横島は必死に避けようとするが、如何せん数が多い。
全てをかわすことが出来ないと感じた横島はサイキックソーサーを展開し、避けきれずに直撃する霊波砲を逸らしていく。
何とか相手の攻撃を凌いだ横島は他の皆の様子を確認するために見回すが、どうやら攻撃があったのが自分だけだったのに気付いて胸を撫で下ろした。

「大丈夫ですか!?横島さん!」

小竜姫が横島の心配をするが、横島はそれに手を振ることで答えた。
そして攻撃を突然仕掛けてきた相手がいる方向に向かって小竜姫は叫んだ。

「何者ですか!?攻撃から察するに神族のようですが、あなた達は口上もせずに突然攻撃を仕掛けてくるほど神族としての誇りを無くしたのですか!!」

いつの間にか今度は横島を守るように猿神とワルキューレが横島の隣に立って小竜姫の言葉を聴いていた。
霊波砲のせいで舞い上がった砂埃が治まると、横島たちの目に十一人の鎧を身に纏った神族がいた。
その神族の中の一人が猿神を眼にいれたとき少し頭を下げたが、それもすぐに止め横島に向き直った。

「斉天大聖老師様、小竜姫様、それにそちらは・・・ワルキューレ大佐でしたかな?まずは先程の無礼に対しては弁解の余地は在りませぬが、それでも言わせて貰います。・・・どうもすいませんでした」

そして深々と頭を下げる神族達。そして頭を戻すと再び先程の神族が話し出した。

「既に大竜姫様からお話を聞いているとは思いますが、我々にその後ろにいる男を渡しては頂けませんでしょうか?我々としても出来るなら穏便に済ませたいのですが」

「おぬしの言いたいことはわかるが、それは出来ん相談じゃな。それにそちらはこちらの名前を知っておるのに、こちらがおぬしの名前を知らないのは少々不公平ではないか?」

神族の言葉に答えた猿神に、神族は自分の無礼を思い出しやや慌てたように名乗った。

「これは・・・申し訳ありませんでした。私の名前はサキエル。この隊を任されている者です」

その名前に反応したのは小竜姫だった。

「サキエル!?あの神界最強と言われている第三大隊が所有している十七分隊の一つの!?」

なにやら説明口調っぽいことを言う小竜姫に対し、サキエルと名乗った神族は答えた。

「まぁ、そうなってはいるな。それで、やはり斉天大聖老師の言うとおりあなた方はあくまでそこにいる男を渡さないという訳ですか?」

サキエルの言葉に答える代わりに小竜姫を初め、猿神もワルキューレも己の獲物を取り出して構えた。
それを見て少々残念そうな表情になったサキエルだったが、部下に視線で構えることを指示していつでも戦えるようにした。
そしてお互いの緊張がピークに達しようとしたとき、それまで黙っていた一番の当事者の横島が口を挟んだ。

「いやいや、ちょっと待ってくれないか?」

思わずずっこけそうになるのをこらえたサキエルは予想外の反応を返した横島に言った。

「お前は今の状況を理解しているのか?私達はお前を殺しに来て、お前達はそれに抗おうとした。なら必然的にお互いが殺しあうのは当然だろう?今更何を待つというのだ。それとも我々について来ることにしたのか?」

思わず呆れそうになるのをなんとかこらえ、サキエルは横島に律儀に返した。

「いや、お前らについていって殺されるのは真っ平ごめんだ。・・・そうじゃなくて、アンタは知らないかもしれないがどうやら俺は魔族の庇護下に入ったらしいんだ。そんな俺をアンタは攻撃できるのか?もし攻撃をしてきたら今まで気付いてきたデタントの流れがオシャカになるんだぞ?」

横島にしてはかなり正当なことを言っていることに対して、小竜姫は嬉しそうに頷き、猿神もどこか自慢げにサキエルに視線を向けた。
そしてワルキューレは横島の言葉に我が意を得たりといった感じで、サキエルに言った。

「そうだ。もしここで横島に攻撃を仕掛けるなら、それは同時に私達魔族を敵に回すということになる。そうなると横島も言ったがデタントが破綻するだけではすまなくなるぞ。それこそ先の神魔戦争の再来になる。そのくらいお前にだって分かっているだろう」

だが、そんなワルキューレの言葉もサキエルには関係ないらしく殺気を出すことで答えた。

「まぁ、確かにそうかもしれないが・・・むしろその方が我々の上司には好都合ということらしい」

「確か神界第三大隊の隊長はあの四大熾天使の一人だったな」

ボソッと猿神が呟くが、どうやらそれがサキエルの耳に入ったらしく、

「その通りです。私達の上司はあのガブリエル様です。・・・・・・なので全く何の問題もありません」

そしてサキエルは言葉を言い切ると同時に横島に向かって切り込んできた。

「うわっ!」

突然の奇襲に横島は完全に無防備状態だったが、完全に横島の命を奪うはずだった槍のようなサキエルの一撃は猿神の棍によって防がれていた。

「意表を衝くとはなかなか見込みがあるの」

槍のようなものを猿神に弾かれ一瞬体勢を崩すがすぐに立て直し猿神と対峙するサキエル。

「流石ですね。今の一撃にはかなり自信があったのですが・・・」

「じゃが、おぬしの相手は濃じゃ。横島に手を出したくば、まずは濃を倒してからにするんじゃな」

「いいでしょう・・・」

そういうと二人は一瞬にして姿を消した。

しかし横島がほっとする間も無く、横島に向かって二本の剣が迫ってきていた。

「うをっ!・・・・・・・・・くっ!!」

なんとか身を捻りかわそうとするが、一本は何とか避けることが出来たが残る一本に腕を軽くだが裂かれた。

横島は何とか距離を取ろうとするが、更に追撃を続けてくる天使達。
それもそのはずで天使はサキエルを含めて十一人。猿神はサキエルのみを相手にしているので残りは十人。
横島が小竜姫とワルキューレを探すと二人ともそれぞれ天使達を二人相手にしていた。
小竜姫は天界ではあまり修得する者が少ない武術を身に付けているので、自分と同程度の相手でも同時に二人を相手にしていてもなんとか耐えられているようだった。
ワルキューレに関してはその実践経験の豊富さと、計算高さから自分から不用意に近づくこともせず自分の得意な距離・・・中遠距離を保ちながら凌いでいた。

しかしそれでも二人で四人までしか相手にすることが出来ず、残った六人の天使達が横島に向かって波状攻撃を仕掛けてくる。
横島も本気ではないにしろ、あの猿神と対等に戦うことが出来ているので一対一では負けることが無い。しかしそれは修行を付けてくれていた相手が猿神一人だけだったので、どうしても一対多の戦いには慣れていない。それに猿神の場合は相手の手の内をほとんど知っていたことも大きい。
横島はまだ回りに気を配りながら全体を把握して戦う術をまだ経験していなかったのだ。

次第に横島の体には新しい傷が増えてくる。横島もサイキックソーサーを複数同時に展開し、横島に向かってくる天使を牽制しながら両手に霊波刀を作り出し応戦する。
一人の天使が横島に切りかかる。横島は手にした霊波刀でその攻撃を受け止め、相手が止まったところをもう一本の霊波刀で切りつけようとするが、今度は違う天使が横島に攻撃を仕掛けてくる。仕方なく攻撃しようとしていた霊波刀をその攻撃の防御に回す。
そんなことを延々と横島は繰り返していた。
しかし横島は一人だが、相手は六人いる。次第に体力が減り、横島の集中力も切れてきた。
それに引き換え天使達は流れるような連係で分担しながら攻撃してくるため横島よりもまだ余裕はあるようだった。
そして遂にそれは起こった。横島が今までどおり霊波刀で相手の攻撃を防ごうとしたとき、相手の天使は攻撃を止めて剣の変わりに霊波砲を放ってきたのだ。
これには横島も突然の変化に対応できずまともにその一撃を貰ってしまった。

「ぐはぁっ!!!」

それをそれぞれ二人の天使を相手にしていた小竜姫とワルキューレも見ており、一瞬だが動きを止めてしまいその隙を衝かれ天使の攻撃を受けてしまう。



「流石ですね斉天大聖老師。私の攻撃をこうも簡単に捌くとは・・・しかし他の方々はそうでもないらしいですよ」

サキエルの挑発とも取れる発言に一旦距離を置いた猿神は返した。

「濃を挑発して冷静さを奪おうとしても無駄じゃよ。それに・・・」

「それに・・・なんですか?」

猿神はサキエルが聞き返したことに内心で深く唇を端を上げ続けた。

「それに・・・どうやら間に合ったらしいからの」

そう言って猿神は自分の知った気配が自分の張った結界を壊すのを感じた。



今、横島の周りには六人の天使が立っていた。
その姿はまさに天に祝福を受けた者のように荘厳で、横島は昔絵本で見た天使を思い出していた。
ふと目線を横に向けると小竜姫とワルキューレもこちらに急いで駆けつけようとしているのが分かる。
しかし、先程受けた傷と天使の追撃に思うように先に進めずだんだんと攻撃が大振りになりそこを天使達に付け込まれさらに状況を悪化させている。
再び目線を天使達に戻した横島は無表情に自分を見る天使達が一斉にその手に持つ剣を振り上げるのを見た。
そして・・・今まさに振り下ろされそうになったときそれは起こった。

何処までも青く藍く澄んだ蒼。そんな色をした一条の光が横島の目の前にいた天使を貫いたと思ったら、その天使は一瞬にしてその光と同じ色の炎を出して燃え尽きた。
その一瞬の出来事に横島を含め呆然としてしまう天使達。
その天使を貫いた光は徐々にその速度を緩め横島の目の前に来て止まった。
横島はその光が止まってようやくその光が光ではなく炎だということが分かった。
しかし横島には天使をも燃やし尽くしてしまうような熱量を持っているとは思えなかった。
なぜなら自分には全く感じられなかったからで、逆に心を暖めてくれるような優しさを感じたからだ。
横島にはそうであってもどうやら天使達は違うらしく、横島に近づけずにその炎を睨んでいた。

「なに全てを諦めちゃったような顔してんのよ!」

声が聞こえた。その声は横島の後ろかららしく横島には誰が話しているのかすぐには分からなかった。

「猿神との修行はなんだったの?何のためにあんなになりながらも強く成ろうとしたのよ」

横島は回りに未だ五人の天使がいるにも関わらずゆっくりと声のした方を向いた。

「生き抜くって決めたんでしょ?だったら血反吐を吐いても、地面を這ってでも生き抜きなさいよ」

空に浮かんでいたその声の主は丁度太陽を背にするようにいたので顔は暗く分からなかったが、その代わりに九つに分かれた金髪の髪が風に靡いていた。

「諦めの悪さがアンタの持ち味でしょ!私はそんなアンタをずっと見ていたいのよ。一番近いアンタの隣でね!!だから・・・・・・だから、立ちなさい横島忠夫!アンタは私が認めた、見初めた男なのよ。だから、立って自分の信じた道を進みなさい!」

ああ、なんて自分勝手で身勝手な言い分だ・・・でもだからこそお前はお前らしくいつも前を向いていて俺を引っ張ってくれる。
何度その存在に助けられただろう。そんなお前にそこまで言われたら立つしかないじゃないか・・・
お前が見ててくれるなら俺はまだ前に進めそうだよ。
お前は強いな・・・そうか、だからお前はそんなにも綺麗なんだな・・・
そして横島は立ち上がり、自分をじっと見つめるナインテールの持ち主と視線を合わせた。

「そうよ、やれば出来るじゃない。私が来たからには負けるなんて許さないからねタダオ」

そう言って横島の隣に降り立った少女に、横島は少女に声を掛けられてから感じ始めた身体の中から感じる何かを感じ取りながら宣言した。

「当然だ。ここから俺達の大反撃の始まりだ」

「えぇ、さっさと片付けるわよ!!」

そして横島は右手に懐かしい力を感じながら天使達に突っ込んでいった。







「遅れるなよ!?・・・・・・・・・タマモ!!」







つづく
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あとがきのようなもの

Mirrorです。ここまで読んでくださった方ありがとうございました。

外伝はあっち行ったりこっち行ったりで分かりずらいかも知れませんが、仕様としてそうしているのでややこしくても我慢してください。
頑張れ俺!負けるな俺!
私の作品をもし、楽しみにしている人がいましたら気長に待っていてください。

では今回はこの辺で。また次のあとがきのようなもので会いましょう。





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