GS二次小説 「せめて絶望のない世界をあなたに〜外伝〜」
第003話
身長は180はあるだろうか?しかし身体全体の線が細いためそこまで大きくは感じない。
髪は紅く腰ほどまで伸びており、遠目からでもその肌理の細かさがよく分かる。
小さな顔に少々釣り目だがそれがかえってその者の意志の強さを主張している。
そして小さな唇には申し訳程度に薄くルージュが引いてある。
帯剣をしていることから武闘派だとわかるがその体は細く、とても竜神族の中でも随一の剣の使い手とは思えない。
腕は握り締めただけで折れてしまうのではないかと思うほど細く、腰も今まで横島が見た中でも飛び抜けて細い。
しかし胸部にはそれ自体が主張するかのように大きく実り、つんと上を向き美しいバランスを魅せている。
尻部は小さく引き締まっており、見事としか言いようのない脚線美をもって強烈な存在感を顕にしていた。
何故そのようなことが分かるのかと言うとその服装に問題があったからである。
まるで平安京に存在する御前が寝るときに身に着けているような肌着のみを着用し、胸元は大きく開き、裾は真っ赤な帯のすぐ下からチャイナドレスのように腰からのスリットが入っていた。
そのあまりの人間離れした容姿と格好により、横島は普段なら飛び付くところだが、それも出来ずにただ呆然としていた。
「あ、姉上!何故このようなところにいるのです!?そのような連絡は来ていませんが!」
そんな格好に慣れているのか小竜姫はその美しい突然の来客・・・大竜姫に質問をした。
「ふむ、久しぶりに会った早々の挨拶がそれなのは少々悲しいぞ、小竜姫?」
その言葉で小竜姫は自分がかなり取り乱しているのに気付き、落ち着かせる意味合いも込めて大竜姫に挨拶をし直した。
「うっ・・・。それでは改めまして本当に久しぶりです。こんなところでは落ち着いて話も聴けないでしょうから屋敷の方に戻りましょう。・・・・・・横島さんもいい加減こちらに戻ってきてください」
大竜姫のそのほぼ完成された肢体を見てから自分の身体に視線を落とし、なにやら深いため息を吐きながら硬直したまま再生しない横島を起した。
「・・・・・・はっ!?今まで一体何を・・・?たしか綺麗なネーちゃんがいたようなって、ぐはぁあ!あ、あんた・・・なんちゅう格好をしてるんです!!・・・・・・・・・え?小竜姫様の姉?・・・大竜姫様?」
なにやら大竜姫の姿を見て鼻血を吹き飛ばしながら慌てて目を逸らし、小竜姫に自分の姉を紹介されて何とか大竜姫を視界に入れないようにして立ち直る横島。
「申し訳ありません。姉上は服装に関しては無関心で・・・私も何度も直してくれるよう頼んだのですが・・・・・・」
「ああ、この服装が気になるのか?このほうが体を動かしやすいのだ。それに横島殿のように戦闘時のときに相手が取り乱すこともあるからな」
と大竜姫は特に表情も変えることなく横島に説明した。
そうっスか・・・美神たちとの爽やかな別れに余韻を残すことなく横島は一気に脱力しながら先に行ってしまった猿神を追いかけるように小竜姫と大竜姫と共に屋敷に戻っていった。
「・・・・・・・・・・・・もう一度言ってもらえますか?姉上・・・・・・」
突然の大竜姫の妙神山訪問に何の用事があって来たのかと大竜姫に質問した小竜姫だが、大竜姫が言った妙神山に来た目的を包み隠さず教えると、小竜姫は自分の聴き間違いだと思いもう一度説明を求めた。
「なんだ、わからなかったのか?出来る限り短く、かつ分かりやすく伝えたつもりなのだがな?」
どこか間違ったことを言いながら大竜姫は先程言ったことと全く同じことを繰り返した。
「ではもう一度繰り返すぞ?
・・・神界では魔人横島忠夫を第S級危険生命体と決定した。これは最高評議会で決定された決定事項であるためこの決定に異を唱えることは認められない。この決定により魔人横島忠夫の抹消、及び魂の完全消去が同評議会で決定。神界に属する者は速やかに対象を発見次第これを実行すること。・・・以上が神界で決定したことだ。小竜姫は私の妹だからな。私がその伝達役に指名されたのさ」
「そうですか。・・・話は分かりました。なら姉上はその命令に従うのですか?」
小竜姫は特に何の興味を示すことなく淡々ともう一度説明した大竜姫を睨みならが聞いた。
「本来ならそうするところだが・・・」
ちらりと大竜姫は横島の方を見て何を思ったのか口に軽く笑みを浮かべて続けた。
「神界全てから命を狙われていると聞いても平然としているとはな・・・興味が湧いたから今回だけは止めておこうと思う」
そして、もう話は終わりといわんばかりに席を立とうとする大竜姫に、それまで黙って聞いていた猿神が呼び止めた。
「まぁ、またんか大竜姫。もう少し位いても問題はあるまい?」
「特に問題はないが・・・何の用だ?」
「何、どうしてこの小僧がそんな第S級危険生命体なんぞに選ばれたのか気になっての。聞いておるんじゃろ?」
どこか鋭く睨みつけるように猿神は大竜姫に聞いた。
「まぁ、口止めされているわけではないからな・・・いいだろう」
浮かしかけた腰を再度畳の上に下ろして大竜姫は猿神たち三人を見回した。
話の中心となっている横島は、どういうわけかあれ以降全く話そうとはしないで難しい顔をして何かを考えているようだ。
そんな横島に何かを言うこともなく大竜姫は猿神の質問に答えた。
「ヒャクメという調査官は知っているな?確か小竜姫の友人とか・・・」
「ヒャクメですか?確かに姉上のおっしゃる通りですが」
「でな、ヒャクメが何かを隠しているという情報を神界の上層部は手に入れて自白させたわけだ」
「なっ・・・!自白って・・・ヒャクメは無事なんですか!?」
突然知らされたヒャクメの自白。ヒャクメは黙っていると約束したことに関してはかなり口が堅い。
それは今回の横島に起こった現象についても同様で、小竜姫は決して上層部には知らせないようにとヒャクメに忠告し、ヒャクメも約束してくれたのだ。
そのヒャクメが自白させられたということは、ヒャクメに何があったかを想像するのはそう難しいことではなかった。
「どうだろうな?尋問に当たったのがあの正義感の塊のようなウリエルだったからな・・・殺すようなことはしないだろうが、辛うじて生きている・・・・・・いや、死んでいないという感じじゃないか?」
妹の親友であると分かっているはずなのに、普通ならいいずらいことを淡々と語る大竜姫に小竜姫は寒気すら感じた。
「だから最近ヒャクメが私達に会いに来なかったのですね・・・」
「それで、ヒャクメの証言からそこにいる横島殿が人間界にいながら魔族として覚醒し、更には力を制限させることもなく全力を出すことが出来ると分かった。それもある程度力を抑えているとはいえ斉天大聖とほぼ互角に戦えるほどの霊魔力。これを神界が脅威と考えるのは当然だろう?」
「でも!横島さんはそんな神界と争うなんてことするはずありません!!」
大竜姫が話す内容に反抗するように小竜姫が言い返す。
「しかし、神界にとってはそんな小僧の内面など関係ないのじゃ。ただ、神界と争う可能性があり、更に言えばそれがかなりの脅威となる。これだけで十分なのじゃよ」
小竜姫の発言を否定したのは姉の大竜姫ではなく、猿神であった。
「それに付け加えるならば、小僧は未だ己の力の大半を使いこなせてはいない。しかし近い将来その力を完全に使いこなせるのもそう遠くではないはずじゃ。そうなってしまっては少なくとも人間界においては小僧に勝てる神魔族はほとんどいなくなるじゃろう」
「そういうことだ小竜姫。それにたしか横島殿は文珠の使い手なのだろう?これが最後の決定要因となった。一つだけならともかく、複数を同時に使うことも出来、そしてあの陰陽の模様のような文珠がある。これだけの稀有で強力な能力のため、上層部のお偉方が恐怖を覚えてしまったのも今回の決定の裏にはあると考えられる」
「それでも・・・横島さんはなんとも思わないのですか!神界総出で横島さんを狙ってくるのですよ!?何も反論しなかったら本当にもう・・・・・・お願いします!!横島さん・・・・・・」
猿神と大竜姫の話によって何も言い返せなくなった小竜姫は、まだ何かを考えている横島に助けを求めた。
「ちゃんと聞いていたって、小竜姫様。でも神界でのその何たら会議で既に決定したことなんですよね?」
何も話さずに考えて込んでいた横島はそう大竜姫に問いかけた。
「そうだ。既にこのことは決定しているし、反論することすら出来ない」
「なら、もうどうしようもないんですよ。小竜姫様もわかっているんでしょ?」
「・・・っ!!それは・・・・・・はい」
とても落ち着いた声で話す横島に何も言えず、ただ頷くことしか小竜姫には出来なかった。
それでも小竜姫は何か言いたそうにしていたが、ほとんど分からないくらいに震えている横島の拳を見て何も言うことが出来なかった。
「横島さん、血が・・・」
「え?あぁ、本当だ。ちょっと強く握り締めちゃっていたみたいっすね。大丈夫ですよ」
そう言って横島はあまりに強く握っていたせいで爪が掌に食い込み血を流していたのを、霊気を治療にまわすことで直した。
「それよりも大竜姫様。質問があります」
「言ってみろ」
「それはあくまで俺一人だけを対象にした物で、俺の知人には一切手を出さないでくれますか?」
「ほう。自分のことではなく他人を優先させるか」
「はい。もうこれ以上俺のことで周りの大切な知り合いがいなくなるのは嫌ですから・・・」
「それはルシオラとかいう魔族のことをいっているのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
大竜姫の質問には答えずにただ強く大竜姫の目を見る横島。
その瞳から何を感じ取ったのか分からないが、大竜姫はふっと軽く笑ってからこう言った。
「わかった。この竜神族が剣聖の称号を与えられし神剣「不倶戴天」の使い手であるこの大竜姫が横島殿の申請を叶えることを約束しよう」
「ありがとう」
横島は大竜姫の発言にさっぱりとした笑顔で頭を下げた。
「では、話が一段落したところでもう一つ質問しても良いか?」
頭を下げている横島を見ていた猿神だが、ふと思い出したように大竜姫に向き直った。
「なんだ?」
「もし小僧が戦い、その結果神族連中を退けても同じことが言えるかの?それに小僧の存命に協力した存在がいた場合はどうなるのだ?」
「老師・・・」
猿神が言ったことは暗に自分は神界の決定に従わず、横島を助けると言ったものだった。
そのことに小竜姫も気付き、弱気になっていた小竜姫も一転して大竜姫を睨んだ。
「横島殿を助けようとした場合、そのものも横島殿と同じ処罰の対象となる。また、助けようとさえしなければ決して我々は他の者には手を出さないと約束しよう」
そして大竜姫は今度こそさよならだと三人に言い、立ち上がり部屋から出て行った。
大竜姫が出て行った後しばらく沈黙が続いたが小竜姫が口を開いた。
「横島さん・・・まさか何もしないで神界の決定に従うなんてこと言いませんよね?」
「そんなことは言わないよ。ルシオラに約束したからな・・・諦めずに最後まで生き抜くって」
「そうですよ!横島さんは強いです。もちろん弱いところもありますが、それもいつの間にか強さに変えてしまいます。自分を信じてください。もちろん私も付いていきますからね!」
「しょ、小竜姫様・・・でもそんなことをしたら小竜姫様まで狙われることになりますよ・・・」
小竜姫の申し出はありがたかった。しかしそれ以上に横島には辛かった。
横島はルシオラを失ってから他人が傷つくのを見たくなかった。
自分が美神たちの側から離れ妙神山に来たのもそれが理由の一つだった。
「きっと大丈夫です。今までもそうだったんですから。きっと今回も何とかなると思います。それに横島さん一人ではまだまだ心もとないですからね」
そういって優しく微笑む小竜姫に涙が出そうになるのを横島はこらえた。
「ではわしも小僧に付いて行ってやる。弟子の修行が終わっていないのにほっぽり出すのは師匠として申し訳がたたん」
にやりと笑って横島にこれから隠れて行動するための準備をするぞと言って猿神は立ち上がった。
小竜姫もそれに続き立ち上がり、困った顔をしている横島を立たせながら言った。
「気にしないで下さい横島さん。私も老師も横島さんに死んで欲しくないから手助けをするんですから。今はどう逃げるか考えることが先決です」
横島はそんな小竜姫と猿神にはただありがとうと言う他に感謝の仕方が思い浮かばなかった。
「でも老師、何故神界は妙神山に横島さんがいると分かっているはずなのに襲い掛かってくるのではなく、姉上を遣いによこしたのでしょうね?」
「それはワシが横島の所在を上層部には黙っていたからじゃろうな」
小竜姫の疑問に猿神が何気なく問題発言をして、それを聞いた横島と小竜姫は驚いた。
「ふむ、驚いているようじゃな。なに理由は簡単じゃよ。ワシが今日のような事態がいつかやってくると確信しておったからの」
今度こそ二人は目の前にいるのがただのゲーム好きな存在ではなく、嘗て神界で大暴れしたにもかかわらず、今もなお神界上層部に対する発言力を持つあの斉天大聖老師だと改めて思った。
その頃美神除霊事務所では何故かいつものメンバーが勢揃いしていた。
中には里に戻っているはずのシロの姿もあったり、此処までのメンバーがそろうのは横島が人魔と伝えたとき以来だと美神は思っていた。
「え?皆さんどうしたんですか?ここまで揃うなんて久しぶりですね」
そんな美神の思考を読んだかのようにおキヌは一番側にいたひのめを抱いている美神美智恵に話しかけた。
「それがよく分かっていないのよ。ただ共通していることといえば全員がヒャクメ様に呼ばれたということだけ」
他にも何人かに聞いたが、返ってくる返事は皆似たようなものらしい。
「まぁ、ヒャクメがママ達を呼んだならもうそろそろ来るでしょ?おキヌちゃんはみんなの分のお茶入れてくれない?」
美神は結局考えるのを放棄し、おキヌにお茶を入れて皆に配るように言った。
普段は皆忙しくこうして集まることもないので、ヒャクメが来るまでの間お互いの近況などを報告しあっていた。
そしてお茶も一杯目が終わり、二杯目を注いで回ろうかとおキヌが思ったときヒャクメが現れた。
「よかった。皆ちゃんと揃ってるのねー」
そう言って扉から現れたのは確かにヒャクメであったが、美神たちはヒャクメの姿があまりにも悲惨なのにそれまで賑やかだった空気を一変させた。
「ちょっとどうしたのよその怪我!?めちゃめちゃひどいじゃない!!」
「見た目はひどいけど、もうほとんど治ってるのねー。ただちょっと霊力が足りないから傷を隠せていないだけだから、心配しないで欲しいのねー」
そう言って手をぱたぱたさせるヒャクメだが、誰がどう見ても無理をしているとしか見えない。
「ほとんど治ってるって・・・そんなはずはないワケ」
「そうですよ。足元だってふらふらじゃないですか!一体何があったんです?」
「そうだぜ。詳しく教えろ」
エミ、ピート、雪之丞が口々に言うが、ヒャクメは気にするなとしか言わない。
そのヒャクメに美智恵は何かを感じ取ったのかヒャクメに聞いた。
「横島君ね。教えてくれないかしら、ヒャクメ様。それからでも遅くはないと思います」
美智恵の核心をついた質問に言葉を詰まらせるヒャクメ。
そのせいで美智恵が言ったことが正しいことが集まった者たちには分かってしまった。
「どういうことでござる!?先生の身に一体何があったというのでござるか!!」
「落ち着きなさいシロ!喚いたって何も分からないわ!!・・・ママの言うとおりよヒャクメ。教えなさい、一体何が横島クンに起こったの?」
鬼気迫る勢いでにじり寄ってくる皆に遂に諦めたのか、ヒャクメは口を開いた。
「分かったのねー・・・でもこれから言うことを聞いた後では自分の行動には気を付けてほしいのねー」
「つまり、話を聞いた後の行動如何では、わし等にも今横島に降りかかっている物が降りかかるのじゃな?」
「ドクター・カオス、食べながら・では・説得力・ありま・せん」
カオスの発言によりいっそう集まった者たちは眉間にしわを寄せた。
「そうなのねー。・・・それじゃあ教えるのねー」
ヒャクメからの話を聞いた面々は揃って俯いていた。
耳を凝らせば何で横島さんが・・・とか、どうしてこうなるのよ・・・といったやりきれなさが蔓延していた。
「令子、貴方は隠れなさい。見つからないようにこの事件が終わるまでの間だけでいいから」
そう言ったのはひのめを抱いている美神の母親である美神美智恵。
「な!・・・どうしてよ!?このまま放って置いたらあいつが殺されるのはほぼ決定事項じゃない!!」
「だからといって貴方が味方しても何が変わるって言うの?相手は神族全てなのよ。たとえ一人二人くらい倒せたとしても、小竜姫様と同格かそれ以上の神族が大挙して攻めて来たらどうしようもないわ。そのくらい分かるでしょう?」
美神はそれでも何とか美智恵に言い返そうとするが、ヒャクメに止められた。
「ここに来るほんの少し前なんだけど、手助けさえしなければ美神さん達の安全は保障するって連絡があったのねー。・・・だから私としてもバカな真似はやめて欲しいのねー」
「私達の保障って・・・私達のことなんてどうでもいいのよ!それにバカな真似ってどういうことよ!!」
ほとんど錯乱状態の美神だが、構わずヒャクメは続けた。
「横島さんが神族側にお願いしたから皆の安全は保たれているのねー。神族としてもあくまで対象は横島さん一人だからあんまり人間界には被害を出したくないってことなのねー」
まただ、また私達は横島に守られていると美神、おキヌを初め集まった人達は思った。
「なら私は手を引くワケ。神族相手に戦って勝てるわけないワケ。行くわよタイガー」
「エミさん!?本気で言ってるんですかノー!!確かに勝ち目はほとんどないかもしれ・・・「うるさいワケ!!」っ!!」
突然そういって帰ろうとするエミにタイガーは反対するが、エミの怒鳴った声に思わず口を閉ざした。
「タイガー、あんたの言いたいこともわかるワケ。でも、どう考えても勝ち目はないワケ。なら確りと事の成り行きを見届けてやるワケ。私達にはそのくらいしか出来ないワケ。わかった?」
怒鳴ったときとは打って変わって静かに諭すように言い聞かせるエミにタイガーはしぶしぶながら従うことにした。
「じゃあ、そういうわけだから私達は帰るワケ。・・・・・・令子」
「なによ!?」
「・・・・・・・・・後悔しないように思いきって行動するワケ。それが、私が言える言葉なワケ」
そういって小笠原エミとタイガー寅吉は美神除霊事務所から出て行った。
「美神には悪いがワシらはワシらでやることがあるのでな。行くぞ、マリア」
「イエス・ドクター・カオス」
カオスはヒャクメと少し小声でやり取りをした後、マリアを連れてさっさと出て行った。
「俺はどっちつかずかな。もし俺にまで被害が来るなら全力で追い返してやるが、アイツの気遣いを無駄にするわけにもいなないしな。・・・それにアイツならもしかしてほんとに何とかしちまうかもな」
雪之丞もおろおろしているピートを無理やり引っ張って美神の事務所から出て行った。
ピートも唐巣神父を一人にするわけにもいかないと考え、結局おとなしく雪之丞に引きずられていった。
後に残ったのは美神親子とおキヌ、そしてシロとヒャクメだけだった。
魔鈴や冥子は初めから呼んでいない。魔鈴はそこまで横島とは深い仲ではないだろうし、冥子にいたっては話を理解できるか分からないのもあったが、六道家を危険に晒すのは後々神界にも影響を及ぼす可能性があったためだ。
ちなみに西条は忘れられている節がある。
「おキヌちゃんとシロちゃんはどうするのねー?」
「私は・・・その・・・」
「拙者はもちろん先生の味方でござる!」
「死んじゃうかもしれないのよ!?いいの?」
ハッキリと自分の意見を言うシロに、羨ましさを感じながらも自分の気持ちに正直になれないことにおキヌは落ち込んでいく。
「確かに死ぬかも知れないでござるが、それ以上に先生と共にいたいでござるよ」
その言葉におキヌははっと顔を上げた。
そしてその言葉に反応したのはおキヌだけではなかった。
「そう。・・・そうよね。シロ、よく言ったわ」
「わっ!どうしたでござる?令子殿」
「私としてもあいつの手助けはしてあげたい。でも今回は足手まといにしかならないことは分かりきってるわ。だからまずはあいつに会ってあいつの口から話を聞きましょう。あいつは私の丁稚なんだから勝手に好き放題されても困るわ!・・・そうと決まったら行動あるのみよ!!」
いきなり元気になった美神にシロはビックリしたが、美神がいつもの調子に戻ったと思ったので分かり申したとよこしまに会う準備をしに、部屋に駆けていった。
「で、おキヌちゃんも行くでしょ?」
「え?」
話の展開についていけなかったおキヌは美神に言われて考え込んだ。
「わ、私は・・・」
「あのねおキヌちゃん。前にも言ったかもしれないけど、何も前線で戦うことだけが戦いじゃあないのよ。きっと私達にも手伝えることがある。もし、それさえもなかったらそのときはそのときになったら考えればいいののよ。・・・私はこのままあの馬鹿と会えないのは、この際はっきり言うけど正直嫌なの。それはおキヌちゃん、貴方も同じはずよ」
黙って美神の話を聞いていたおキヌだったが、深く深呼吸した次の瞬間にはいつものおキヌが戻ってきていた。
「そうですね!ありがとうございます美神さん。私もこのままお別れなんて嫌です。行きましょう、横島さんに会いに!」
「わかったわ。・・・・・・ま、そういうわけだから・・・ごめんねママ」
「・・・・・・そう、本当なら色々言いたいこともあったんだけどもういいわ。あなたの思うようにしなさい」
「ありがとう・・・ママ」
そして美神は用意が終わったシロとおキヌを連れて事務所から横島がいるであろう妙神山に向かっていった。
「・・・・・・美智恵さん、ほんとに良かったんですか?」
ヒャクメは美神が出て行った扉をずっと見つめながら動かないでいる美智恵に声をかけた。
「美神家の家訓で決して相手に背を見せないというのがあります。あの子はきっと大丈夫」
「やれやれなのねー。・・・・・・・・・使います?」
そういって何処からか出したハンカチを美智恵に渡す。
そこで初めて美智恵は自分が泣いているにの気付いた。
「ここで思いっきり泣ければよかったんだけど・・・ひのめが見ているからそれも無理ね」
ハンカチありがとうと言って美智恵はハンカチをヒャクメに返して部屋から出て行った。
扉を閉める際にふと立ち止まって美智恵はヒャクメに聞いた。
「ヒャクメ様」
「何なのねー?」
「令子が言った質問のもう一つ、馬鹿な真似ってどういうことだったんですか?」
まさかここでそれを聞かれるとは思っていなかったのか、けれどヒャクメはどこか疲れたように笑いながら答えることにした。
「簡単なことなのねー。横島さんを今の状況にしたのは私のせいなのねー。だったらせめて横島さんの為に最期は生きたいのねー。・・・きっと小竜姫も似たような考えなのねー。だからこれ以上馬鹿な考えをする人がいて欲しくなかった・・・・・・それだけのことなのねー」
その答えを聞いて美智恵はヒャクメに深くお辞儀をして今度こそ去っていった。
「・・・・・・・・・・・・さて、人工幽霊一号いるのねー?」
「・・・なんでしょうか?ヒャクメ様」
ヒャクメの問いかけに答える人工幽霊一号。
「貴方のマスターを奪ってしまってごめんなのねー」
「いえ、なんとなく途中からそう思っていましたから・・・かまいませんよ」
「嬉しいのねー」
「それよりもお体の方はいいのですか?嘘を言ってまで耐えるなんて」
人工幽霊一号はその性質からかヒャクメの状態をしっかりと把握していた。
「いいのねー・・・この痛みは自分への罰のような物だから。それにじきに直るのは本当のことなのねー」
「わかりました」
「・・・それじゃあ、そろそろ私も出発するのねー。出来ればもう一度貴方とは話してみたかったのねー」
「話せますよ・・・何度でも」
そういう人工幽霊一号の声はどこか悲しげに揺れていた。
「ふふ、そうだといいのねー。・・・それじゃあ行ってくるのねー」
「はい、いってらっしゃいませ」
そしてヒャクメが美神除霊事務所から出て数十分後、美神除霊事務所があった土地には荒れ果てた屋敷が静かに佇んでいた。まるで自分の主人を待つ忠実な家臣のように、ただ昏々と深い眠りに落ちていった。
ヒャクメは歩いていた。その向かう先は妙神山ではなく一棟のボロイアパート。
その一階にある一つの扉の前にヒャクメは立つと、呼び鈴を押し中の住人に誘われるように部屋に入っていった。
その部屋の表札にはこう書かれていた。
―――――――――ドクター・カオス・・・・・・・・・・・・と
つづく
第002話へ
第004話へ
あとがきのようなもの
どうもMirrorです。・・・進まない!どうしても進まない!どうしよう・・・
本編の方を読み返してみて、矛盾が起きないように考えたりするのが大変です。
それでは次回にまた会いましょう。。
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