GS二次小説 「せめて絶望のない世界をあなたに」



第019話



「は〜い、みなさ〜〜ん。注目してね〜〜」

ドラメガを持ちきゃいきゃいと騒ぐ年頃の女の子に声を掛ける冥那。
冥那の後ろには冥那付きのメイドが白いパラソルを冥那に直射日光が当たらないように差している。
逆に冥那に声を掛けられた女の子達は六道女学院の指定水着を着用して、 今日から二泊三日で行われる林間学校についてお互いの意見を交換し合っていた。

「え〜それでは〜〜、簡単に今回の林間学校の内容を〜説明します〜〜」

事前に配ったしおりを見るように冥那は言って、簡単におさらいをした。
まず初日は実際の除霊中に気を付けること、迷ったときの行動について見直す。 そして本番に使う武器のチェックを行うようになっている。
余裕がある者は当日一緒に行動する人達とのコミュニケーションを図っておく。
そして、一晩明け二日目のお昼前から霊団が襲ってくる手筈になっており、 そこでメインともいえる除霊作業を行う。予定では十七時には終わることになっている。
そして夕食後にキャンプファイヤーを行って二日目は終了。
最終日の三日目は各自の反省点をレポート用紙にまとめて提出、その後バスで学院に戻る予定になっている。

「じゃあ早速行動を起してもらう前に〜、皆さんに除霊中に生じた怪我の治療や サポートに回ってくれる人達の紹介をするわね〜〜」

そして、学院の教員を初め民間のGSの紹介を行っていった。
といっても教員以外のGSは全員生徒の親だったりするので、ドラメガで話をする度に 何処からとも無く「あーっ」という声が上がっている。

「そして最後に紹介するのは〜昨年のGS資格試験で主席合格をし、特例でE級ライセンスを 取得した君影鏡耶君よ〜。でも今はもうC級まで昇級したみたいだけど〜」

冥那がそう言うと生徒はおろか教員や、手伝いのGSまでもが驚いた顔で紹介された鏡耶を見た。
それもそのはず、そもそも研修期間すらすっ飛ばしてE級ライセンスを取ったこともありえないが、 普通は数年かかってようやく一つのランクを上げることのできるライセンスを、 一年未満で二つも上げたというのだからその驚きも至極当然のことだった。

「あーあー、えー只今紹介頂いた君影鏡耶です。私は基本的に治療をメインに行っていく ことになっています。当日は誰一人として私の手を煩わさないでくれることを期待しています」

鏡耶は仕事モードで話を終えるとさっさとドラメガを冥那に戻し、タマモが待つテントの 下に戻っていってしまった。

生徒は生徒で鏡耶のことを髪が長いとか、でも似合ってるとか、格好いいとか思い思いのことを 仲間内で話しているが、その中で一人だけ他の生徒とは違うことを考えている者がいた。

「君影さんが来てる〜〜〜。大丈夫よ〜〜、今日まで冥子は頑張ったんだからきっと大丈夫〜〜〜」

その生徒―六道冥子―は今日までずっと頑張ってきたことを思い出しながら、 じっと一人で今日までやってきたことを思い出していた。



教員の話も終わり、生徒はわいわいしゃべりながら一応言われたことをしている。
そして一段落つき冥那も鏡耶のいるテントに戻ってきた。

「鏡耶君から見て今年の生徒達はどうかしら〜〜〜?」

「これといって能力がずば抜けて高いというものはいないみたいだな。 まぁ唯一といっていいのが冥子くらいか」

「まぁね〜〜、今年は名門とかそういう家の娘達は殆んどいないからしょうがないわ〜〜」

「それにしてもなかなか上手くいってるんじゃないのか?娘の教育は」

「そう言って貰えるのは嬉しいけど〜、まだあれ以降除霊させていないから何とも言えないわ〜」

「そうか。だがダメだったときはわかっているな」

「もちろんよ〜、こうなってしまったのは私にも責任があるから〜〜。 残念だけど孫に期待するしかないわね〜」

そういう冥那は笑っていたが、やはりどこか無理のある笑みだった。
しかし鏡耶は特に何も言わずあらかじめこちらにやってくる妖怪の特徴を話す冥那をじっと見ていた。
そこでふとあることに気になった鏡耶は冥那に尋ねた。

「そういえば十二神将は全部戻したのか?」

「え?・・・えぇ〜〜返したわ〜。まだまだ霊力の扱いに関してはお世辞にもいいとは言えないけど〜、 それでもちゃんとあの子達を使いこなせるなら半日は戦闘を続けても大丈夫のはずよ〜」

「確かにな。一度霊力を使い果たした十二神将は次に出てくるまで時間がかかるだろうし、 細かい式神使いとしての見極めは冥那にお願いするがいいか?」

流石に前の世界で戦い続けた鏡耶であっても式神を使う神魔族はめったにおらず、 そういった式神使いとしての能力を判定するのは自分でも無理だと思い冥那に頼む。
そして二人はいつまで経ってもホテルに戻ってこない鏡耶を探しに来たタマモが来るまで ずっと話し込んでいた。



ホテルの部屋に戻った鏡耶とタマモは荷物の整理もそこそこに、少し話す事にした。

「鏡耶はずっと医療班として行動するの?」

「まぁ特に何も無ければな。それに実際のグループを引っ張るのは教員や、生徒達の親・・・ 現役のGSがいるんだからそこまで心配する必要は無いと思うが・・・」

そこで鏡耶は一旦言葉を止めた。

「どうしたの?なにか霊感に引っかかることでもあった?」

「いや、それは無い。問題は冥子だなって思ってな」

心配そうなタマモを安心させるためににこやかに笑いながら、鏡耶は冥子の心配をしていた。
実は鏡耶は口に出している程冥子のことを嫌ってはいなかった。嫌いならばどんなに冥那に 言われても仕事を手伝ったりもしなかったし、今回のような頼みは耳も貸さなかっただろう。
基本的に鏡耶はタマモさえいればそれでいいのだった。確かに自分のために命を賭してまで 救ってくれたルシオラや小竜姫のことは好きだ。でもそれはあの世界でのルシオラと小竜姫であって、 この今鏡耶がいる世界の二人ではない。おそらく顔を見れば郷愁は浮かんでくるだろう。 でもすでに識ってしまっている鏡耶にとってそれはもう、似て非なるものなのだ。
その鏡耶がそれでも冥子に手を貸すのには理由があった。 もちろん一番大きいのはこれから起こるであろうアシュタロス戦乱での戦力強化。
あの世界では六道家は基本的に事態を見守るのみで殆んど手を貸すことは無かった。 その理由は単純にして明解。やばくなったら美神令子を殺せばいいと知っていたからだ。 そうすれば再びエネルギー結晶は遥か未来にならないと手に入らないことは確実で、 人間達はアシュタロスに負けることは絶対に無かったからだ。勝ちも無いだろうが・・・
そのため冥那は冥子を戦場には送らなかった。といっても物資の支援くらいはしていたみたいだが。
そして手を貸さなかったために、鏡耶は六道家のことを嫌いでも、好きでもどちらでもない 普通の関係を戦乱以降も保つことが出来たのだ。
だから鏡耶は六道家についてはあまり自分に不利益にならない限りは手を貸そうと思ったのだ。

「まぁ冥子がどうなるかは明日になればどうしようと分かるんだ。 それよりもタマモは明日どうするんだ?」

鏡耶はポンっと狐形態になったタマモを膝に乗せ、頭から腰にかけて優しく撫でながら聞いた。

「私?私は適当にふらふらしてるわ。でも多分ずっと見てると思うわ」

撫でられているのが気持ちいいのだろう、クゥーンと甘えるような声を出しながらタマモは 鏡耶のされるがままになりながら言った。

「ま、好きにすればいい。終わりの時間は知っているんだろ?終わる前に戻ってきてくれればいい」

そして鏡耶は撫でるのをやめ、毛並みが気持ちいいタマモを抱き枕代わりにして鏡耶は布団に倒れこんだ。
一瞬驚いたタマモだったが、鏡耶に包まれるように抱かれたのが気に入ったらしくそのまま 二人は眠りに落ちていった。





「一班から三班は東側へ!!四班から七班は正面!!八班から十班は西側を担当! 各々あらかじめ決められた配置に付き、自分の役割を全うするように!!!・・・ だが、決して無理はするな!!危険を感じたらすぐに引き返して治療を受けろ!! これはあくまで演習だが、一歩間違えれば死ぬ可能性もあることを忘れるな!!! 分かったら全員持ち場に着け!!あと十分で開始予定時刻だ!!!」

ある教師がドラメガを使って激励を飛ばしつつ生徒達を配置に着かせた。
本部テントにいる鏡耶は時計を見る。時刻は午前十一時十分前。あともう十分でここの海岸に 霊団が迫ってくる。鏡耶は東の中距離にいるであろう冥子を真眼で視る。 冥子は今もなお十二神将を出さず、これからやってくるだろう霊団に立ち向かおうとしていた。

「これはもしかしたらもしかするかもしれないな・・・」

鏡耶の呟きは誰にも聞かれること無く風に流されていった。

そしてついにそのときはやってきた・・・

まるで津波のように押し寄せてくる霊団。しかし半数以上はあらかじめ張っておいた 霊波ネットで防がれてしまう。しかしそのネットはあくまで圧倒的な物量で押し切られるのを 防ぐための物なので、ネットに所々開いた穴から悪霊達がぞろぞろと抜け出してくる。
各班の遠距離部隊がぎりぎりまで引き寄せた霊に向かって霊体ボーガンを放つ。
そしてそれでも倒せなかったものを中距離部隊が悪霊の前方に結界を張り対消滅させていく。
そしてそれでも倒せなかったものたちが神通棍や各々が得意とする武器で倒していく。

初めは順調だった。しかし相手の方が圧倒的に物量が多いため少しずつ前衛が戦う時間が増えていき、 そしてだんだんと悪霊たちは部隊の中央まで食い込み始めるようになった。
こうなると中距離や遠距離部隊の物も接近戦をすることになり、前衛のサポートをすることが出来なくなってくる。 そしてさらに前衛は疲弊していき、教師達が恐れていたことが起こった。

イヤーーーーーッ!!
こっちに来ないでええぇぇぇぇぇええ!!

救護班は!?先生が倒れちゃったから早く治療を・・・っ!!
ねぇ!!どうしたらいいの!!!先生がいないんじゃ何をしたらいいかわかんないよ!!!!
もうだめだよっ!!



このままじゃ私達・・・死んじゃう・・・・・・?



誰が言ったのか分からないが、何処からか聞こえて来たその言葉にぎりぎりまで抑えられてきた 不安や恐怖が決壊する。
その結果それは起こった・・・・・・・・・すなわちパニック。

それからはひどかった。戦意を喪失するならまだいい。しかし中には仲間に向かって攻撃を してしまうものまで現れ始めた。
そのような者には素早く気付いた教員やGSが気絶させ、後衛に運ぶように側のものに言いつける。
教員やGS達はパニックを起した生徒達を何とかしようとするが、その間にも霊団は押し寄せてくる。
そのため思うようにパニックを起している生徒の対処をすることが出来ず少しずつ戦線は崩れ、瓦解していった。

「随分とやばいんじゃないのか?」

本部テントでその様子を視ていた鏡耶は冥那に言う。

「おかしいわ〜〜例年通りならこの三分の一以下の霊団しか来ないはずなのよ〜〜」

「唯一の救いが直撃を受けても子供に殴られたくらいの力しかない連中が大半だってことだな。 それでも中には十分殺傷能力を持つものもいるが・・・」

「ええ〜〜そういうのは教員や〜GSの人達が優先して倒しているから今のところ最悪の事態は 起こってないみたいね〜〜」

子供に殴られたくらいと言っているが、それでも当たり所や、集団で攻撃されてしまっては十分危険で、 現に気絶をしてしまった生徒や教員もいる。
しかしそのなかで鏡耶は面白いものを発見した。

「冥那・・・見てみろ」

鏡耶に言われ、その場所を見るとそこには震える体を懸命に抑えながら必死で立ち向かう 冥那の一人娘がいた。



冥子は逃げたかった。
それ以上に泣いてしまいたかった。
でもそれは出来ない。今ここで逃げるということは自分自身から逃げるのと同義だから。
だから冥子は逃げなかった。
冥子は学校では暴走させたことは無い。でも友達はいない。それは冥子が十二神将を出しっぱなしに していたからだ。
しかし最近は声を掛けてくれるようになった。といっても朝と帰りの挨拶くらいだが、 それでも冥子にしてみればとても嬉しいことだった。
十二神将を出さずに学校に行った時、冥子が十二神将を出していないことでクラスが静まり返ったことがあった。 そのときに一人のクラスの女子が聞いてきた。

「今日はどうしてあの・・・周りにいた式神をだしていないの?」

冥子は答えた。

「あのね〜〜〜あの子達を出すと〜〜〜・・・・・・もう会えなくなっちゃうから〜〜・・・我慢しないとダメなの〜〜〜」

それは聞いたものにしてみれば何のことかさっぱりだったが、それでも十二神将を出すことを 我慢しているのだけはわかり、そしてそれがとてもつらいことだと思った彼女は言った。

「よくわかんないけどさ。頑張ってね。まぁ私としてはあの式神が怖かったから冥子ちゃんと 話せなかったから、いない今のほうが嬉しいけど」

冥子は初めて知った。自分が友達だと出し続けていた十二神将が他の者にとっては恐怖の 対象になるのだと。友達がいないと泣いていたあれは全て自分のせいだったのだと・・・
それから今日まで冥子は冥那に言われた特訓のときと寝る前に話をするとき以外は十二神将を 出すことをやめた。
そしてまだ友達とはいえないが、それでも出来始めた絆を無くさないためにも今ここで逃げ出すわけには いかなかった。

「アンチラちゃ〜〜〜ん、お願い〜〜〜」

バシュッ、ズババババ・・・・・・ッ!!

「アジラちゃ〜〜ん」

カッ!!ビキビキビキ・・・・・・

「こっち来ないで〜〜〜メキラちゃ〜〜ん」

ガァァ!!・・・・・・シュッ!

「バサラちゃんはあの人達の周りにいるのを吸い込んで〜〜〜」

ゴオオオォォォォォ・・・・・・

「インダラちゃんはこの人を安全なところに運んで〜〜〜」

「ショウトラちゃんも付いていって傷の手当をお願い〜〜〜」

「シンダラちゃんは空からの敵を牽制して〜〜〜」

冥子は集団で霊がいるところにアンチラを飛び込ませ相手を一掃。自分に向かってくる相手には アジラで石にし、囲まれそうになったらメキラで敵のいない場所に瞬間移動をする。
周りにいる生徒が危険になりそうならバサラで吸い込み、怪我人をショウトラで治療。インダラで安全圏まで運んだりしていた。
そして、それぞれが役目を果たせば素早く影に戻らせ力の消費を抑えさせ、同時に出す式神も常に 多くて四体以内に収めていた。

「腰は引けているが・・・なかなかなんじゃないか?」

鏡耶はアレがあの冥子なのかと本気で感心して冥那に感想を言った。

「そうね〜本当ならシンダラで衝撃波をだして蹴散らしたり、メキラとアンチラで遊撃させたりと もっと効率のいい遣い方があるんだけど〜〜・・・そのあたりはもっと経験が必要よね〜〜」

「そうかもしれないが・・・俺は正直ここまで出来るようになるとは思っていなかった」

鏡耶は言った。

「でも何とか東側はそれで保ってるってくらいで〜〜、全体としてはもう本当に危険域になりそうだわ〜〜」

そう、冥子はすばらしい働きをしている。まだまだ発展途上だが、それでもその可能性を示した。 しかし現状はもうそれではどうしようも無いほどボロボロだった。

「鏡耶君〜〜〜・・・・・・」

冥那はすがる思いで鏡耶に頼んだ。

「鏡耶君が必要以上に力を使いたがらないのは承知してるわ〜〜・・・・・・・・・でもお願い〜〜〜、 私の生徒達を助けてあげて〜〜〜」

しかし返ってきた答えは無常だった。

「出来ないな。俺は治療担当でここにいる。俺はここに運び込まれている怪我人の治療をしなければならない。 だから前線に赴くことは決してない」

「そんなこと言わないで〜〜・・・・・・ここまで異常が発生するとは思わなかったの〜〜。 私の私兵も既に当たらせているけど、多勢に無勢な状態なのよ〜〜〜」

「なんと言われようとダメだ。俺はすでに六道冥那女史からの依頼は受けている。 それはこの林間学校では治療班として動くこと。よって俺はそれ以外のことは一切しない」

冥那は絶望を感じた。おそらくこの場でこの状態を打開できるのは目の前の男だけだろう。 しかしこの男は口にしたことを違えることは絶対にしない・・・。
そして冥那は泣き崩れ、かすれた声で決して届かぬ願いを言う。

「た、助けてあげて・・・やっとあの子にも・・・・・・これからあの子は・・・冥子は幸せになれるはずだったのに・・・・・・ ねぇ・・・・・・・・・鏡耶君・・・六道家当主じゃなくて・・・一人の娘を持つ母親として・・・・・・あの子を、冥子を助けてあげて・・・」

それを聞いた鏡耶は、

「冥那、俺にとって大切なのはタマモだ。タマモ唯一人だ。タマモさえ笑っていてくれるなら 他がどうなろうとどうでもいいとさえ思っている。 それで、この林間学校に来る前にタマモに聞いたんだ。タマモは冥子のことどう思う?と。 そしたらタマモはなんていったと思う?」

突然の問いかけに冥那は呆けた。

「あいつはな、「才能の上に胡坐をかくようなヤツは嫌いね。 でも冥子は思っていたよりも本気で十二神将を無くしたくないと思っている。 そして友達を失いたくない一心で本当に頑張ってるわ。私は前の冥子は嫌いだけど、今の冥子は好きね」 そう言っていた」

何を言いたいのか分からないのだろう。冥那は鏡耶の言葉を聞いて考えていた。

「つまり、タマモが泣くのは嫌だってことだ。冥那はヒーリング出来るんだろう? 俺の代わりにやっておけ。お前の依頼、六道女史ではなく、六道冥那からの依頼、確かに 君影除霊事務所が承った。・・・タマモ!聞いていたんだろう?仕事だ!」

そして冥那が鏡耶の言っていたことを理解したときにはすでに鏡耶の姿は無く、空一面に 広がる霊気の光が広がっていた。



「さて、鏡耶の許可も出たことだからいかせてもらうわ。死にたいヤツから掛かってきなさい」

タマモは冥子から三十メートル離れたあたりで幻術を解き、霊団の前に姿を現した。
そして右手を大きく振りぬく!

ゴォォオオオワッ!!!!

一瞬後前方五メートルのところに巨大な炎が扇上に横三メートル以上に渡って立ち上がり、 その場に固まっていた霊はまとめて消え去った。

―狐火・扇―

タマモが前の世界でよく牽制に使っていた技の一つだ。前の世界では相手が神魔族だったため 牽制程度にしか使えなかったが、今回の相手程度なら十分効果が期待できる技の一つだ。
そしてタマモは両手を霊がいる方に向かって突き出し呟く。

―狐火・流―

今度は両の手のひらから五メートルほどの炎が現れ、タマモがそれを握る。 そしてそれを鞭のように振り回し、対象に向かって撃ち付ける。
周りで倒れている人間には全く燃え移らず、対象のみを燃やし霊団の数を瞬く間に減らしていった。

鏡耶は霊波ネットを潜り抜けようとしている残りの霊団を見ると拡散霊波砲を連射した。 運よく助かった霊に関しては金剛斬糸を一本だけだして鏡耶はその霊に向かって放つ。
一本だけなら殆んど完璧に操作できる金剛斬糸の前ではたった数十メートルの距離などあって 無いようなもので、取りこぼした霊も一瞬にして除霊していた。

そして二人が戦い始めて三十分後、ようやくパニックが収まってきた生徒達が見たものは 残り数百匹までに減らされていた。
冥子は既に限界まで能力を使いきり、今はタマモが介抱している。
さらに一時間後、霊団が攻めて来てから六時間後の午後五時、ついに戦闘は終了した。





午後七時。冥子が目を覚ますとそこには冥那、鏡耶、タマモの三人がいた。

「えっと〜〜〜・・・おはようございます〜〜〜〜」

「寝ぼけてるわけね。冥子今は午後七時よ。冥子は昼の戦いで霊力を使い切って倒れちゃったのよ。 覚えてない?」

起きたばかりで未だはっきりとした意識を取り戻さない冥子に、タマモは水を手渡しながら 簡単にことの成り行きを説明した。

「そうだったわ〜〜・・・。それじゃあお母様と君影さんがいるってことは〜〜〜〜」

「ええ〜、あの試験の結果を伝えにきたのよ〜」

冥那が言ったことによって冥子の顔に緊張が走る。

「それで結果は〜〜〜・・・・・・?」

おそらく結果を言うであろう鏡耶の方に体を向け、けれども俯きながら冥子は鏡耶の言葉を待った。

「・・・・・・まず式神の選定が甘い。受け渡す霊力にむらが有り過ぎる。視野が狭い。 もっと先のことまで考えて戦え。そして戦闘中に敵のど真ん中で霊力切れで気絶するなんて 最低限のことも守れないのかお前は」

鏡耶が簡単に目に付いた問題点を挙げていく。
そのたびに肩を落とし、目に涙を浮かび始める冥子。

「・・・だが、それは今回お前に課したテストには入っていない」

ばっと冥子が鏡耶を見る。
目に涙を浮かべながら見上げる冥子の顔は普通の人間なら一撃KOだが、鏡耶は気にせず続ける。

「本当に最低限だが、式神使いとして十二神将を扱えていたという事実は揺るぎようが無い。 それに十二神将も本当にお前のことを大事に、そして大切に思ってるみたいだからな」

冥子が影に視線を向けると影の中にいる十二神将から暖かい思念が飛んでくる。

「えっと〜〜・・・それはつまりどういうことなの〜〜〜〜?」

「合格よ冥子〜〜お母さん嬉しいわ〜〜〜〜」

冥那は冥子の頭を優しく抱きかかえ頭を撫でる。
始めて感じる母親の暖かさに懐かしさを覚えながらも、言われた意味を理解して冥子は泣き出した。

「う・・・うぇぇぇぇええん。おか、お母さま〜〜〜〜〜・・・・・・」

「気を抜くなよ。あくまで最低限なんだからな。これからはもっと 精進していつの日か冥那を超えるような式神使いを目指すことだ」

「わ、わかりました〜〜〜・・・・・・ぐすっ・・・ありがとう君影さ〜〜ん」

「今は母親にしっかり甘えておけ。俺はもう行くからな・・・・・・・・・よくやったな冥子」

そして鏡耶はタマモを伴って部屋から出て行った。



しばらくして落ち着いた冥子は先ほど聞いた言葉に着いて冥那に聞いてみた。

「お母様〜〜さっき君影さん私のこと冥子って名前で呼んでたわ〜〜〜」

「そうね〜〜、認めたってことだと思うわ〜。多分鏡耶君もすっごく嬉しかったのよ〜」





「で、もう帰っちゃうんだ?せっかくだから海で遊びたかったのにな」

「まぁそう言うな。俺達の仕事は終わったんだし、一応次の仕事は既に入ってるんだからいいだろ?」

海で遊べなかったことに文句を言うタマモだったが、本心ではないらしく鏡耶の言葉に文句を 言うだけで付いて歩く。
行きがバスだったため帰りは文珠を使うことになったが、人目に付くのはよくないので二人は 海岸線を歩いていた。

ざぁぁぁああ・・・・・・

「海の音っていいわね。全てを包み込んでくれそうな優しい音で」

「まぁ音だけならな。夜の海は見ると吸い込まれそうで結構怖いけどな」

「そういうものかしら?」

「そういうものさ。・・・さて、この辺でいいかな。行くぞ」

砂浜を通り過ぎ、小さな丘となって縁が崖になっている場所に着くと鏡耶は辺りを簡単に調べ誰もいないことを確認した。

「はーい」

ぴったりと鏡耶の腕に掴まったタマモを確認した鏡耶は「転/移」と単文珠に刻み発動した。





翌日冥那は鏡耶たちがいないことに気付いたが、先に帰ったのだろうと結論付け、教員、GS、生徒を 含めた全員にきつい説教をしながら反省文を書かせる連絡事項を言った。

冥子は昨日の戦いで見せた頑張りがクラスの皆に届いたらしく、一人、二人と少しずつだが 確実に友達という絆が確実に出来てきたことに嬉しい思いを胸いっぱいにし、 冥那に言われた反省文を書いていった。

余談だが、このときの鏡耶とタマモの力を見せ付けられる形となった教員とGSは このことをGS協会に報告。GS協会の上層部はB級ライセンスを発行してもいいのでは? という議論をし始めたらしい。







かくして未熟だった式神使いは一歩成長し、物語はGS資格試験へと進んでいく。







つづく
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あとがきのようなもの

ども!お待たせしました。最新話です。作り直すこと5回。そして結局いつもどおり ぐでぐでの出来栄えとなってしまいました。
次回はついに美神令子と小笠原エミが登場します。あれ?クラス対抗戦は?と思った貴方! ごめんなさい。正直書けません。結果としては冥子の一人勝ちということで、 冥子のクラスが優勝です。・・・だって冥子の式神に勝てる相手はそうそういないでしょうし。 それよりも話を先に進めていくのが大事だと思ったので。
ようやくコミックの第一巻に近づき始めた今日この頃、早くこの世界の横島クンを出していきたいです。

それではまた次のあとがきのようなもので・・・





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