GS二次小説 「せめて絶望のない世界をあなたに」



第017話

ひどい・・・
それが村長の家で見た青年と面会したとき鏡耶の思いだった。
鏡耶はほぼ無意識のレベルで常に霊視をして生活している。
これはあの滅んでしまった世界で必要だったためだ。
普通に眼で見ては分からない霊的な痕跡を探し、少しでも危険が降りかからないようにするために身につけた能力だった。

嬉しいことに鏡耶には霊視の才能があった。
もしかしたらそれは嘗て心眼をバンダナとはいえその身に宿したおかげかもしれなかったが、今となっては確かめようがない。
だが文珠とそのおかげで鏡耶は神魔族からの追跡から逃れながら生き続けることができたのだ。
何でも鍛えればある程度は成長させることが出来る。
鏡耶は眠っているとき以外のその殆んどの時間を霊視し続けることによって、いつしか霊視から心眼へと、そして真眼へと昇華させていった。

真眼・・・
それはほぼ全ての霊的な物を視ることの出来る能力。
身体に流れる霊力すら見ようと思えば視ることが出来、さらには本人ですら分からない霊基の構造まで見通すことが出来るといわれている。
例えば直接霊力を相手の霊力の流れを妨げるように流すことによって、相手の霊力の流れを壊すことが出来る。
そして霊力の流れが狂えば当然霊力を練り込むことも困難になり、神通棍だけではなく破魔札すら扱えなくなってしまう。

そんな眼を持つ鏡耶が視た青年の霊基構造は酷かった。
人間の霊基構造を示す黄色がかった霊気に、ドス黒く酷く歪んだ霊基が青年が言った胸の傷跡から絡み付いて侵食していたからだ。
そしてその侵食はあとわずかでその黄色がかった霊基を全て呑み込んでしまいそうだった。



「・・・・・・外見はそうでもなかったが、内面は既にその魔獣に近いモノになっているはずだ。今はまだ辛うじて理性を保っているみたいだがな」

「そうね・・・おそらくだけどもうあと一週間保つかどうかってところかしら?」

鏡耶は自分が視たあの青年の状態をタマモに話していた。
どうやらタマモも具体的には分からなかったが、ある程度の察しは付いていたらしく鏡耶に同意をする。

「どうだろうな?だが、もう余り時間が無いことだけは確かだろうな」

「伝えるの?」

「・・・・・・・・・伝える」

何をとは言わなかったが、鏡耶はタマモが言いたかったことを正確に理解しゆっくり唇を開いた。





二人が洞窟の前で待つこと数時間、太陽が最も空高く位置する頃ついに洞窟に動きが見られた。

鏡耶はサイキックシールドを自分の前に展開し、タマモもまた狐火を自分の前に展開した。
洞窟の奥にいるナニカもその雰囲気に気付いたのだろうか、洞窟の奥から外をうかがう気配を漂わせていた。

ガアアアァァァァッ!!!!

先に絶えられなくなって飛び出してきたのは洞窟の奥にいるナニカだった。

真っ黒いナニカはキラリと光るものを鏡耶の展開するサイキックシールドに切りつけた。

パリン・・・

「なっ・・・!?」

驚いたのは鏡耶だった。
いくら封具で力を抑えているとはいえ、そのサイキックシールドに籠めた霊力は半端ではない。
鏡耶の予想では小竜姫の放つ斬撃なら数度は耐えられると思っていたからだ。
それほど強力なサイキックシールドが唯の一度でこうも容易く壊されるとは鏡耶は全く考えていなかった。

「くそっ・・・!」

しかし鏡耶はすぐ意識を洞窟から飛び出してきたナニカに集中し、今度は新たに展開したサイキックソーサーを相手の足元に叩きつけた。
叩きつけられたサイキックソーサーが爆発する力を利用し、タマモのいる近くまで後退する鏡耶。

やがて土煙が治まり鏡耶とタマモの目の前に現れたのは一匹の獣だった。

「こいつがどうやら仕事の相手で間違いないみたいだな」

その獣は黒銀の毛並みを持ち、身体もあの女性が言っていた通りとても大きかった。
そして何よりその瞳は血のように赤かった。

内心で鏡耶の瞳の紅の方が綺麗だ。と思っていたタマモは一直線に数発の狐火を飛ばす。
しかしその狐火も風を切る音が聞こえたと同時に掻き消されてしまった。

「ちょ・・・なんてヤツ!」

タマモは狐火を消すと同時に自分に突っ込んできた獣に、鏡耶直伝のサイキックソーサーを鏡耶と同様に地面に投げ付け相手が怯んだところで何とか距離を取った。

「鏡耶!なんなのよあれは!?」

タマモは自分の狐火が消されたことに対して怒りを隠そうともせず声を張り上げた。

「あの爪だ!あれからはあの獣・・・魔獣とは違った気配を感じる!・・・来るぞ!」

それからの戦いは一進一退だった。
いや、鏡耶たちの攻撃は全て魔獣の爪によってかき消されていたので、むしろ防戦一方と言った方がいいかもしれなかった。

何より鏡耶たちを苦しめたのが魔獣の速さだった。
鏡耶達が本気になればそれこそ逆に遅い部類に入るのだが、力を抑えている今では視ることは出来ても身体が付いていかなかった。

そんな中タマモは不意に思い出した。

「そうだ・・・鏡耶!」

狐火で魔獣の視界を隠しながらサイキックソーサーで牽制を続ける。といったことを繰り返し行っていたタマモはふと何かを思いついて鏡耶の横に飛んできた。

「くっ!いっそのこと封具を外すか・・・?・・・・・・なんだタマモ?」

余り世界に自分達のことを知らせたく無い鏡耶は封具を外すことを躊躇っていた。
そんな時不意にタマモに声を掛けられ思考から意識をタマモに移した。

「あいつに攻撃を当てようとしても霊的な攻撃じゃ掻き消されて無駄なのは分かってるでしょ?」

「ああ。散々試してきたからな」

「なら物理的な攻撃ならたとえ爪で切られても消されるってことは無いと思わない?」

「それは・・・そうかもしれないが、どうやって・・・?」

鏡耶がそう言うと意味ありげにタマモは魔獣が出てきた洞窟に視線を向けた。

「・・・なるほどな。分かった俺がしばらく時間を稼いでいるからタマモは準備を頼む」

鏡耶はそう言うや否や一気に数枚のサイキックソーサーと一枚のサイキックシールドを展開して、サイキックソーサーを魔獣を囲うように地面に叩きつけた。



タマモは魔獣の相手を一時鏡耶に任せ、急いで洞窟まで向かった。
洞窟に着いたタマモは爆砕符という霊力を籠めると任意で爆発させることの出来るお札を、洞窟がある絶壁に等間隔になるように貼っていった。
そして全ての準備が整うとタマモは鏡耶に知らせるために狐火を鏡耶たちが戦っている場所に向けて放った。

鏡耶は正直ぎりぎりであった。
何しろこちらの攻撃を全て掻き消されてしまうのだから相手は全く失速しないのだ。
次善の策として木を魔獣に向けて倒したり、砂煙を起してやるくらいしかなかった。
そんななかタマモが放った合図代わりの狐火が飛んできたのを確認して鏡耶はほっとした。
そして未だ砂煙の中でこちらを探している魔獣に背を向けて一直線にタマモのいる方へと駆け出した。



「鏡耶!」

一直線に初めにいた洞窟に戻ってきた鏡耶はタマモの声に迎えられた。
しかし、のんびりとしているわけにはいかない。
魔獣が姿を現す前にタマモは一枚のお札を鏡耶に渡し、魔獣に気付かれないように姿を隠した。

タマモが姿を隠した丁度そのとき、魔獣は声を荒げながら鏡耶の前に立ち塞がった。

グルルルゥゥゥゥ・・・ガアアアアアァァァァァァ!!!

いい加減自分の攻撃が当たらずイライラしていたのだろうか?魔獣は耳を覆いたくなるような絶叫を上げながら今までで一番の速さで鏡耶に向かって文字通り飛んできた。

「うををおおおおぉぉぉぉぉ!」

鏡耶もぎりぎりまで魔獣を引き付け真っ直ぐ自分に突っ込んでくるのを確認してから、紙一重でその強力な爪の一撃を避ける。
爪を袈裟に振られ、それを自身が左に身を捻ることによってやり過ごす。
このままではすぐに体勢を立て直してくることを見越して、魔獣を避けた後すばやく先ほどタマモから渡されたお札を使う。

「君影鏡耶が符に問う。答えよ、其は何ぞ」

―――我は土流。汝に迫り来る敵の全てを押し流す、脱出不能な大地の戒め―――

鏡耶がそう問いかけると何処からとも無く声が響く。
その声が終わったと同時に鏡耶の少し前方の大地が突如競り上がってきた。
その大地が高さ五メートルに達しようとしたところで動きを止め、今度はものすごい勢いで魔獣に向かって地響きを轟かせながら攻めていった。
流石にこれだけの質量をかわしきるのは無理と判断したのか、魔獣は唯一逃れられるだろう自分が入っていた洞窟に駆け込む。

「タマモ!今だ!!」

鏡耶は予定通りに魔獣が洞窟に向かうのが分かると、何処かで隠れているタマモを呼んだ。
そしてタマモも先ほどの鏡耶同様お札の起動を行う。

「金毛白面九尾狐のタマモが符に問う。答えよ、其は何ぞ」

―――我は爆雷。我が触れているものを等しく粉砕する、雷轟く破壊の具現―――

その声と共に今まさに洞窟に入ろうとしていた魔獣の頭上で爆発が起き、洞窟の入り口を塞いで魔獣に瓦礫が降りかかった。

ガアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!

そして魔獣は逃げ場を無くし断末魔を発しながら、巨大な大地の波と空からの強襲に埋もれていった。



お札の効果も切れた頃、鏡耶は瓦礫に埋もれている魔獣がどうなっているのか真眼で探った。

「どう?まだ生きてる?」

いつの間にか鏡耶の隣に控えていたタマモは、確認の意味もこめて鏡耶に聞いてみた。

「・・・いや、まだ辛うじて生きているらしい。だがこれでもう俺達の攻撃を掻き消すほどのスピードは無くなったはずだ」

「どうするの?」

「俺が責任を持って最後までする。タマモはここで待っていてくれ」

そう言って鏡耶は右手に力を集中させそれを指先から紡ぎはじめた。

「高濃度に圧縮した霊力を限りなく細く細く見えない糸のようにすることで、ダイヤモンドですら簡単に切り刻むことの出来る霊気の糸「金剛斬糸(こんごうざんし)」。・・・収束に長けた鏡耶だからこそ出来る技よね」

タマモが鏡耶の右手から出された金剛斬糸を見て呟いた頃、鏡耶は右手の全ての指から十数メートルに延びた金剛斬糸をさらに延ばしながら魔獣に向けて放った。
それは魔獣と共に瓦礫の山となった周囲を繭のように包み始めた。
普段使う場合は余りに細いため見ることが困難な金剛斬糸だが、繭のように包むことによって束となり今では視認できるほどにまでなっていた。
やがて霊力の色である黄色がかった繭が完成すると、鏡耶はその繭を急速に圧縮し始めた。
金剛斬糸は霊力で出来ている。
そして鏡耶は霊力に意味を籠めることを知り、その扱いに関しては他の追随を許さない。
その結果鏡耶は切りたいモノのみを対象にすることも出来るようになっていた。

ぐしゃ・・・

そして断末魔の声さえ上げる暇を与えずに、鏡耶は魔獣のみを圧縮して消し去った・・・・・・・・・



鏡耶たちが魔獣を退治しているころ、その光景を遥か遠くで観察する存在がいた。

「身体的能力、霊的能力、行動力、思考力・・・どれもこれも他のGSとは一線を画しているな」

その男はあの円卓の場にいた一人の男。

「だがこれである程度は目的を達したといえる。あの魔獣に力を与えたのは正解だったな・・・」

そしてその男は自らの影に沈んでいった。





村に戻った鏡耶は仕事の完了を尊重に伝えて報酬を受け取った。
報酬を受け取る際、村長は鏡耶に興味深い話をしてくれた。
しかし、その話の内容では説明できないことを鏡耶とタマモは感じ取っていた。



「鏡耶。これからあの二人のところに行くんでしょ?」

「ああ。正直なところ話すのは辛いが、話すのが俺のここでの最後の仕事だろうしな」

そして鏡耶とタマモは一軒の家の前に辿り着いた。
家の中でしばらく話していた二人だったが、話が終わった二人は今度こそ村から出るために村の出入口に向かった。

「よかったの?あれで」

村から出てしばらくするとタマモが鏡耶に話しかけた。

「ああ、あれは彼等の問題だ。如何しようとそれは彼等が考えて行動すればいい」

「そう。・・・そういえばこっちに来てから初めて鏡耶の創宝術を見たわね。相変わらずの非常識っぷりだけど」

鏡耶はどうしてもと懇願する青年の為にある道具を創り渡していた。
それは十四本の矢。
どんなに生命力が強い生物も、この矢が十四本全て刺されば死ぬことが出来るというものだった。
この矢は創宝術を鏡耶が編み出してから比較的すぐに出来たもので、その使い勝手の悪さからゴミ箱行きになったものだった。

「でもあれって弓を引く人がいないと・・・ってまさか鏡耶!」

「ああ、おそらく彼女が弓を引くだろうな」

「なんでそんなことを・・・」

「如何改良しても一撃死を与えることの出来る宝具は創宝術では創れなかった。だから次点ということであの矢をくれてやったんだ」

「そうじゃない!私が言いたいのはそんなことじゃなくて・・・」

自分のことですらないことに涙を流すタマモをやさしく胸に抱きしめながら鏡耶は言った。

「あの青年が望んでいたから・・・。それに二人とも決意を固めた瞳の色をしていたから」

お前も本当は気付いていたんだろ?そう言う鏡耶の言葉を何処か遠くに感じながらタマモは文珠で転移する際に感じる浮遊感を感じていた。





青年との会話―――

―――力が溢れそうになったときに何か手のひらに霊的な力を感じたか?―――

・・・・・・・・・いえ、ただ襲い来る衝動は感じましたが特にそういったことは感じませんでした。・・・・・・・・・



村長の話し―――

・・・・・・・・・その魔物に傷を負わされた者は呪が全身を駆け巡り、やがて同じ魔物に成り果てるだろう・・・・・・・・・

―――村長。その話の魔物は霊的な攻撃は全て切り裂くと言う話はないか?―――

・・・・・・・・・いえ、そのような話は伝わってはおりません。それが何か?・・・・・・・・・

―――いや、いい。気にするな―――





鏡耶は自分の屋敷に戻りタマモを寝かせたあと庭に出ていた。

「だったらあの爪から感じた気配は一体・・・・・・それに爪を除いてもあんなに強い相手は前の世界の人間界には存在しなかった。まさか既に本の保護機能が・・・いや、それならもっと強い敵が送り込まれたりするだろうし」

鏡耶があの魔獣について考えてた。
あの魔獣の持つ力は異常だった。
確かに霊気的な防御力や物理的な防御力は普通の動物となんら変わらなかったが、あの爪と身体能力は異常すぎた。
そもそもサイキックシールドをああも簡単に引き裂ける存在がいる方がおかしいのだ。
まるで霊気的なキャンセル能力があるかのようだった。

「あれ以上の存在になったら、封具の解除も考えないといけないな」

それに・・・そう一旦言葉を切って確信したように言った。

「「本」とは別に俺の存在に気付いた奴らがいるってことか・・・・・・」

そして鏡耶は漆黒の空を見上げ呟いた・・・



「・・・・・・・・・俺は決して諦めない」







つづく
第016話へ   第018話へ







あとがきのようなもの

読んでくださいました読者様、ありがとうございました。
ふふふ・・・見事に更新が遅くなりました。
GS美神のSSを書いている方は週刊連載などを多く見かけるのですごいなーっていつも感心しています。
そしてそんな感想を思いつつ、なんとか書き終えることができました。
え?初めから金剛斬糸を使えばよかったって?
あれは唯振り回すのは簡単ですが、今回のような使い方は非常に神経をすり減らすのです!
っていうかそこはスルーしてください・・・

さて、これで日本に戻ってきた鏡耶君たちですが、このあとは六道女学院の林間学校編に進みます。
登場人物は六道のお二人とメイドさん。あとはその他大勢の生徒達かな?

のんびりとですが、ちゃんと進めたいと思っているので次回まで気長に待っていてください。

それではまた次のあとがきのようなもので・・・





GS美神に戻る