GS二次小説 「せめて絶望のない世界をあなたに」



第016話

「着いたぞタマモ」

一瞬の光が射した後、一組の男女が立っていた。
一人は漆黒の髪を腰まで伸ばし、紅いバンダナで結わえた紅い目の男・・・君影鏡耶。
もう一人は同じく腰まで届く九つに髪を結い分けた金髪の美女・・・タマモだった。



鏡耶は興味深げに辺りを観察しているタマモに声を掛け、現在地を確認した。

「大体の位置は合ってるな。ここから数キロ離れたところに小さな村がある。そこに今回の仕事を依頼した人物がいるはずだ」

「はーい。それじゃあ向かいましょうか。・・・それにしてもなんか異様に霊力やら妖力やらの濃度が高いところね」

タマモは先をさっさと行ってしまう鏡耶に追いつきながら、ここに来てから感じたことを鏡耶に話した。

「ここはウェールズだからな。この辺には未だ魔法を継承している者達がいるっていう話だからな。何が起こっても不思議ではないさ」

タマモが自分に追いついたのを横目で見ながら目的地へと足を進める鏡耶はタマモが感じたことについて返答をした。

「魔法って、魔鈴みたいのじゃないの?」

現代の魔女と言われていた魔鈴を思い浮かべならが疑問に思ったことを言う。

「確かに彼女も魔法使いだが、ここにいるのは遥か太古の失われた魔法も使えるという噂も聞く。・・・まぁ彼らはそう簡単に姿を見せないから今は置いておいて、さっさと目的地へ向かおう」



そしてそれから目に留まらぬ速さで走った鏡耶とタマモは何事もなく目的の村に着いたが、村は異様な雰囲気で包まれていた。

「とりあえずここで唯立ってるのは嫌だから、さっさと依頼人を探しましょうよ。どんな人なの?」

「この村の村長だ。聞いた話では一番大きな屋敷が村長の家らしい。・・・つまりあの一番奥にあるあの家のはずだ」

「あれね〜・・・ま、さっさと仕事は片付けて日本に戻りましょうよ」

そして二人は村長の家に向かった。





「・・・でだ、村長。単刀直入に言うが獣退治でいいんだな」

「はい。・・・国に申請して対策もしてもらったのですが、派遣されて来た二十人の専門の方達は森に入って行ったきり戻ってきません。それでももう一度申請したのですが、あれ以上の人員は割けないと断られてしまい・・・そこで貴方がかなり定額で何でもしてくれるという風の噂を聞きまして・・・」

「まぁ今はCランクからは通常料金を貰っているが、それでも他のところよりはかなり安いだろうな」

「そうだったのですか・・・今の我々では出せる金額に制限があります。いくらで引き受けていただけますでしょうか」

「それはその獣に会ってからでないと分からないが、国から派遣された専門家でも敵わなかったとすると・・・少し割り増しになる可能性が高い」

そうですか。と顔を曇らせる村長に鏡耶の隣で暇そうに話を聞いていたタマモが唐突に口を開いた。

「ま、値段なんて後でいいじゃない。それよりもさ何か手がかりとかないわけ?相手が獣って分かってるのなら誰かがその獣を見て、それでも生きて帰ってきているってことなんでしょ?」

「そうですね。もう私達には貴方方以外に頼れる人もいないので・・・今こちらに呼んできます。少々お待ちいただけますか」

そう言って村長は席を外し、屋敷の奥に消えていった。

「・・・で何か分かったの?」

タマモは村長がいなくなったのを確認したの後鏡耶に尋ねた。

「さっき村長にも言ったが、その獣っていうのに会って見ないことには何とも・・・な。だが派遣された二十人が誰一人戻ってこないとなると・・・ただの獣ってことはなさそうだ」

「そっか。それは私も感じてるわ。それとこの村に入ってから感じるんだけど・・・」

「何をだ?」

「あの馬鹿犬みたいな動物の匂いがするのよ。でも三頭のケルベロスの様な魔族的な感じもする・・・なんか色々とごちゃ混ぜになったような変な感じがするのよ」

「ケルベロスって・・・攻撃力なら上級神魔族にすら匹敵したあいつか?」

「と言ってもあくまで似ているって程度だから、実際にはよく分からないんだけどね」

「そうか・・・ありがとう。・・・・・・どうやら来たみたいだな」

「・・・・・・!!鏡耶、匂いが強くなってきた。・・・村長が連れてきた二人のどっちかが匂いのもとね」

「・・・またせましたな。ほれ二人とも中に入りなさい。・・・それでは私は邪魔にならないように席を外しています。話が終わりましたらこちらの電話でお知らせください。私の書斎に直通になっている物です」

そう電話の子機を鏡耶に渡すと村長は再びいなくなった。
部屋に入ったまま動かない二人に鏡耶は座るように言った。

「さて、二人も生存者がいるとは驚いたが・・・話を聞かせてくれるか」

鏡耶は前置きもさておき、二人から話を聞くことにした。

「・・・はい。と言っても話すことは少ないのですが・・・

あの日私は森に行って木の実を集めていました。日も暮れ始め、そろそろ帰宅しようと思ったときです。がさがさっていう何かが草木を掻き分けながら進んでくる音が聞こえてきて、その音がすごい勢いで私に近づいてきたんです。
私は怖くなってそれまで集めていた木の実を入れた籠を持つのも忘れ走りました。ですが音はどんどん近づいて来て、それでも私は懸命に走って・・・息も切れ切れになったころ私は木の根に足を捕られて転んでしまいました。そして音は私のすぐ後ろで止まりました。
私は震える体をぎこちなく捻り音の止んだ方を見ました・・・見てしまったんです」

「その獣を見たのね」

そのときのことを思い出したせいだろうか、女はよく見れば震えていた。
タマモは少しでも気分がまぎれる様に一旦話を切った。
鏡耶の方を見ると今の話を吟味しているのか目を瞑って腕を組んでいた。

「その獣はどんなだったの?」

落ち着いてきて震えがなくなったのを確認するとタマモは続きを促した。

「その獣は目は血のように紅く、体毛は黒く輝いていました。全長は分かりませんが、少なくともトラやライオン以上であったのは間違いないです」

「そこからは今度は私が話します」

獣の特徴を言った女の肩をずっと抱きしめていた男が今度は話を続けた。

「私は弓で狩りをしていたのですが、その日はどうも不調で全く捕れませんでした。いい加減日も暮れて来そうだったので村に戻ることにしたのですが、その途中で何か真っ黒いモノが私の視界のかなり前方を通り過ぎたのです。
私は最後の獲物のチャンスと思いその後を追いました。そしてその獲物が足を止めたのを確認すると私は弓に矢を番えて弓を引き絞りました。獲物が再び動きはじめる前に仕留めてしまおうと考えた私はいざ矢を放とうとしたのですが、そのときに彼女が獲物のすぐ前方に倒れているのを見つけたのです。
私は一撃で射ち落そうと思ったのですが、射線軸上には彼女がいたため断念し、少しでも注意を逸らそうと獲物のすぐ横を討ち抜きました。
それに獲物は気付き、横に飛び退いたので私は我も忘れて彼女の前に立ち、その獣の前に立ち塞がりました。そして弓を構えじっとその獣と対峙しました。
実際には数秒だったのでしょうが、私にはそのとき何時間も過ぎているように感じていました。そしてついにその極度な緊張のせいで集中を解いてしまった瞬間その獣は私に襲い掛かってきました。
私もすぐに応戦するように矢を放ちましたが、矢は無常にも掠るだけで逆に私は獣に胸を引き裂かれました。
私はすぐ次に来るであろう獣の攻撃に絶望を覚えましたが、何故か獣はじっと私の目を見ていたと思ったら自分で引き裂いた胸の傷を舐め、しばらくしたら森の奥に帰っていったのです」

一気に話し終えると男は大きく息を吐いた。

「ありがとう。わざわざ辛く思い出したくも無いことを話してくれて。だがこれで何とかなりそうだ」

「私達の話がなにかのお役に立てるのならばお安い御用です。・・・それでは失礼します」

そして若い男女の二人はお互いに肩を寄せ合いながら部屋から出て行った。

しばらくじっと天井を見ていた鏡耶だがタマモに視線を移すと言った。

「これはちょっと厄介かもしれないな」

「・・・・・・ねぇ、どうにかならないの?」

タマモは鏡耶が厄介と言った言葉を正確に読み取り鏡耶に聞いた。

「無理とは言わない・・・だがおそらく双文珠では無理だ。あれが使えれば可能だろうが・・・」

「でも!」

「タマモ・・・出来るのなら俺はお前を取り込んでしまったときにすぐにでもやっていたさ」

そう言うと鏡耶は悲しく何かに耐えるような表情をし、それを見たタマモは自分の失言を後悔した。

「・・・・・・ごめんなさい」

「いやタマモが謝ることじゃない。・・・タマモはリンゴジュースとオレンジジュースをよく混ぜたあと、最初の状態に完全に戻すことが出来るか?それが出来ればなんとかなるかもしれないが・・・・・・・・・つまりはそういうことだ」

「わかった・・・それじゃあ私は村長さんに電話するわね。鏡耶はこれからのこと考えておいて」

「・・・・・・・・・・・・・・・ああ」

その鏡耶の声には様々な思いが含まれていたが、タマモは村長に電話していたため気付くことができなかった。





翌日。
昨日は村長の家で休ませて貰った鏡耶たちは昨日の二人が獣に出会ったという場所に赴いた。



「タマモ、わかるか?」

「ええ。ほんとに微かにだけど彼の匂いと同様のモノの匂いがするわ」

鏡耶は当初霊視で追跡しようと思っていたのだが、何故か全く霊的な反応を見つけることが出来なかった。
そこで急遽タマモが自身の鼻を霊力で強化することで相手の居場所を追跡することにした。

「よし、先導は任せるからな」

鏡耶たちはゆっくりとだが、確実に目的である獣がいる場所へ向かっていった。

「・・・洞窟だな」

「洞窟ね」
「中は暗い・・・か。獣が出てくるまでここで待つか?」










「――――――そうね。何せ一撃も貰ってはいけないんだから」







つづく
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あとがきのようなもの

読んでくださいました読者様、ありがとうございました。
うわー今までの半分くらいの長さ・・・
もう半分くらいで丁度終わる長さでもあります。・・・なら初めから一話でまとめろよ!と思う人もいるかも知れませんが、長すぎると私の場合ぐてぐてな内容になるような気がしたので短くさせてもらいました。
まぁつまり長さはまちまちになるってことです。



さて内容に関してですが、獣・・・まぁ分かる人にはわかるヤツですが、ヤツに傷付けられた彼とその彼女には名前はありません。これは元ネタでも名前が出てきてないからです。
もしくは私のネーミングセンスのなさを隠すため・・・でもありますが。

そして実はこの話には裏?バージョンも存在します。っていっても別に隠しページを作るとかそういうことではないのですが。単に別バージョンです。
名づけて「side-SH」・・・・・・いや、まんまですけどね。ちなみにこちらは私のHP限定です。なぜなら内容としてGSはいつもよりもさらに、さらに出てこないからです。また、予定では地の文で書いてきましたが、side-○○って感じにその人の主観で進めてみようかな?って考えています。
どうなるかMirror自身予想がつきませんが、SHファンの人に捨てられないくらいの内容に出来たらいいなって思ってます。



随分と長々と書いてしまいましたが、ここまで読んでくれた読者の方ありがとうございます。
また次のあとがきのようなもので・・・





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