GS二次小説 「せめて絶望のない世界をあなたに」



第010話

「どちらから説明しましょうか・・・そうですね、まずは「本」から説明します」

そう言って少女は今横島がいる世界について説明し始めた。

「「本」というのは一言で言うと「世界」です」

「世界・・・?」

「はい。横島さんがつい先程までいた世界。もしかしたらあったかもしれないと思った世界。俗に言うところの平行世界やパラレルワールドといった考えうる全ての・・・いえ、考えもつかないような様々な世界がここにある一冊一冊に内包されています」

「そしてその「本」と「本」の間にある僅かな隙間。それがこの場所である「境界線」です。此処は何処でもあり、何処でもないところ。夢と現実の狭間にある、ほんの一瞬にも満たないところ。それが「境界線」です。・・・まぁ随分前に此処に来た人は「世界図書館」なんて言っていましたが」

「此処にある全ての本が・・・世界だっていうのか?・・・・・・こんな、こんな本に俺たちの全てがあったっていうのか・・・」

「そう思うのは当然だと思います。でも事実です。私はここから動いたことがありませんから知りませんが、もしかしたら此処すらもさらに上位の境界線にある本の一冊かもしれません」

少女は語った。此処は此処に存在する全ての世界に繋がっていると。この百科事典の様な本一冊一冊に世界があり、その中ではそうとは知らずに毎日変わらない生活を送っているモノ達がいると。

「じゃあ聞くが、さっき君が言っていた本が守っているっていうのはどういうことなんだ?」

横島は無理やり自分を納得させ、先程言われたことについて聞いてみた。

「なんて言ったらいいのか難しいところですが・・・言葉通りに本自身が持つ保護機能です」

少女は難しい顔をしながら、それでも分かりやすい様に考えをまとめながらゆっくりと言葉を紡いだ。

「本には初めからその世界の創世から終焉までの全てが書かれています。といってもその世界に存在する個々にいたって全ての行動までを書いてあるわけではありません。あくまでも大筋が・・・歴史の変わり目などに起きる事柄などが書かれているのです」

「創世から終焉まで・・・ってことはどう足掻いても俺の世界はああなる運命だっていうのか・・・だとしたら俺がしてきたことは・・・」

「いえ、一概にそういうわけではないんです。誰もが本の史実通りに動いてくれれば本には保護機能なんていうものは存在しないはずです」

横島はその言葉でそれもそうだなと納得した。

「本に書かれている史実に限っていえばその世界の中心となる存在に対して強制力というものが発動します。これはどうやってもその史実に関わってしまうものです。そしてこのときは個々のかなり細かなところまで指定されています」

「そうか・・・その強制力のせいで俺はあの事件に巻き込まれ、ルシオラを・・・あれは避けようのないことだったのか」

「はい、そうです。そしてその系列全ての「本」にとって必ず起きる事象のことを横島さんたちは「運命」と呼びます」

「「運命」・・・あれが・・・あのルシオラの死がそんな二文字で済まされてしまうなんてな・・・・・・ははっ・・・・ははは」

横島は右手で眼を覆い乾いた笑い声をあげた。

「そう思われてもしょうがないことですが、それが事実です。・・・そしてこのアシュタロス事件で横島さんは世界の中心から外されました」

「・・・・・・え?」

「そうです。このとき横島さんは世界の中心としての存在を外されたのです。だからこそ問題が生じたのだと思います」

「・・・・・・・・・問題が生じた?どういうことだ?」

「横島さんはルシオラさんが死んでしばらくの間・・・数年間は特にこれといって問題を起こしませんでしたね?」

「ああ。ルシオラのことが頭から離れなくてな・・・シロやタマモが時々夕日を見ていた俺を心配そうに見ていたのを覚えている」

「それからは?どうしましたか」

「それからは・・・そう、もうこれ以上俺の知る人達が傷つくのが嫌で妙神山で修行を始めたんだ」

横島は遥か昔のことを懐かしむようにそれでいて悲しそうに言った。

「そこです。そこが問題になったんです」

「?いまいちよく分からないのだが・・・?」

「まぁ横島さんはもともと自身の力を随分低く評価していたのでそう思ってしまうのも無理はないかもしれません。しかし、横島さんはもともとはアシュタロスと戦い勝つために存在した人間です。それは「本」によって決まってました」

「ああ、そうらしいな」

「はい。つまり色々な要因があったにせよ、横島さんは魔神に勝てるほどの力を所持していたことになります。サイキックソーサーにしろ霊波刀にしろ、そして文珠にしろ」

「そうなのか?まぁ文珠は別としてもサイキックソーサーや霊波刀なんて大した事じゃないだろ?」

「その考え方がそもそも間違っているんです。横島さんの世界であれだけ完成され、応用の利くサイキックソーサーや霊波刀を扱える存在は三界全てから見ても横島さんくらいでしょう。・・・話が逸れてしまいましたね。とにかくそれだけの力を持っていたと認識してください」

「ああ、わかった」

「もともとそれだけの力を持つ者がさらに力を付けようと修行を行い、そして結果それだけの力を付けてしまいました。最終的には神魔族最高責任者の二人を同時に相手しても圧倒してしまうほど・・・そしてそのような存在が世界から制約を受けない存在として・・・・・・です」

「・・・!?じゃあ、もしかして俺が修行を行ったせいでああなったっていうのか!」

「有り体に言ってしまえばそうです。実際、他の世界で修行を行わなかった横島さんもいます。その世界ではルシオラさんがいないことを除けば全員が幸せのまま寿命を全うしてます」

「つまり、問題というのは世界の中心と認識しない存在によって起こされるということか」

「その通りです。先程も言いましたが、世界の中心となった存在はその行動の細かいところまで制限されています。しかしそうでない存在は大まかな行動しか記されていないと」

「そして、俺はアシュタロスの事件でその役目外され殆ど自由に行動できた・・・いや行動できてしまったのか」

「・・・・・・・・・」

少女のその沈黙によって横島は自分の考えが正しいことを知った。







どれだけ時間が過ぎたのだろう。先に口を開いたのは横島だった。

「でも、その・・・小竜姫やタマモが死んだのは俺の愚かな考えだったにしてもルシオラが死んでしまうのは「運命」ってやつだったんだろ?」

「はい、決して避けることのできない十割の確立で起こってしまう事象・・・それを「運命」と名付けるならそのとおりです」

「なら・・・・・・やっぱり俺のすることは決まっている。それに俺が此処に辿り着いたのもそのためなのかも知れないしな」

「・・・そうですか・・・・・・」

「君は・・・そのために必要なことを知っているんだろ?」

どこか言い難そうにしている少女の頭をゆっくりと撫でながら横島は頼んだ。

「教えてくれないかな・・・頼む」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました」

「ありがとう」

「・・・・・・あ・・・」

そう言って頭から手を離した横島に少女は少しだけ残念そうに声を漏らした。

「それじゃあ、教えてくれるかな?」

「・・・わかりました。それでは少しだけ待っていてください」

そういって少女は図書館の奥に消えていった。



待つこと数十分後、少女は一冊の本を持って来た。違うところは横島の周りにある本とはその色が違うところか。

「お待たせしました。これがおそらく横島さん、貴方が求めている本・・・「原典写本」です」

「「原典写本」?他の本とは色が違うみたいだけど、何か違うの?」

「この「原典写本」はこの広大な図書館に存在するある一系統の元となった「本」のことです。つまり此処にある本の大元といったところです」

「じゃあこの「本」の世界で起こした出来事は・・・」

「はい、その下に存在する無数の「本」に影響を与えます。そうですねユグドラシルの樹の考え方が近いかと思います。此処にある普通の本は小枝の先の葉であり、この「原典写本」はその小枝の元になった枝といったところですか」

「そうか、わかった。それじゃあ行かせてもらうよ」

気が付けば横島の掌には「侵/入」の双文珠が握られていた。

「待ってください。どうやって本への入り方を?」

「ああ、君がその「原典写本」を探しに奥に行ったときにちょっと「調」べてみた」

「そうだったんですか・・・もう行かれるのですね。それでしたら受け取って欲しいものがあります」

そして少女は一冊の「本」を横島に渡した。

「これは?」

「それは横島さん、貴方がいた世界です。もう終わってしまった世界。そして永遠に停滞し続ける世界です」

「俺がいた世界?そんなものもらっても・・・なっ!?うわっ・・・がぁぁぁぁぁあああああ!!」

横島が少女に手渡された本を掴むとその本は横島の体内に取り込まれた。
横島は感じていた。本に自分の力が吸収されるのを。そして徐々に体中に走った痛みは治まり残ったのは全身に残る巨大な脱力感だった。

「い、一体何をした・・・?」

「横島さんの力を本に取り込ませました。取り込ませた力は横島さんがタマモさんの霊基構造を得てから手に入れた力全てです。あの色の付いた文珠・・・「四色文珠」とでも言いましょうか、あの力はあまりにも強すぎます」

「確かにその通りかもしれないがその力は使えなくなってしまったのか?」

「いえ、時が来ればおのずと使い方は分かると思います。そうしないと最悪「原典写本」に着いた瞬間に封印されてしまいます。強すぎる力が本の保護機能を発動させる恐れがありますから」

「使えなくなったのでなければ構わないが・・・じゃあそれ以外の力は普通に使えるんだな?」

「はい、ですがそれでも強いことには変わりません。常に自身で力を封印するか何かして世界から見つからないようにしてください」

「世界から?そうか・・・本来なら俺は存在するはずの無い存在だからか」

「そういうことです。それと貴方の体の構成は既にタマモさんの霊基構造を得た時点で違うものになってます」

「大丈夫なのか?」

「周りが感じる力の点では問題ありません。神力と魔力の波動は打ち消しあって、タマモさんの妖力は「本」が取り込んでいますから感知されても霊力だけでしょう。しかし、肉体そのものは違います。肉体は既に存在していません。精神体という概念が一番近いと思います」

「精神体?ようは神族や魔族のような身体になったってことか?」

「そう取ってもらって結構です。本当はこちら側である上位エーテル体と呼ばれるもので出来ているのですが、まぁ無視してもらって結構です」

「上・・・い・・・・・・?まぁ気にしなくてもいいならそれでいいか」

「はい。説明は以上です」

「そっか。いろいろとありがとうな。それじゃあここで本を見ながら俺のことでも見ててくれ」

「頑張ってくださいね。きっととても大変だと思いますから」

そして横島は最後に優しい笑みを浮かべながら光の粒になって「原典写本」の中に消えていった。











「横島忠夫・・・不思議な存在でした。・・・・・・自分の存在を認識してから初めてです。あんなに話し、力を貸そうと思ったのは。どうか・・・彼の人の願いが叶いますように・・・・・・」

少女は横島が「原典写本」の中に消えてからずっと祈り続けていた。
今まで自分がしようとして出来なかったことをやろうとしている彼のことを。観ることしか出来ない自分がずっと思っていたことをやろうとしている彼に少しでも安らぎがあることを祈っていた。

そして、「原典写本」の中に入っていった横島を観ようとしたとき後ろから声が聞こえた。そしてそれは少女が最も聞きたくなかった声だった。

「あら〜・・・「観測者」が随分枠を外した行動をしたものね」

「「管理者」!?・・・・・・どうして此処に・・・」

気配を全く感じなかったことに驚きながらもばっと後ろを勢いよく振り向く少女。
するとそこには金の髪をショートヘアにし、少し釣り眼がかったきれいなエメラルド色をした女性が立っていた。身長は165くらいで、大きくも無く小さくもないバランスの取れた乳房がつんと重力に負けることなく着いている。そして細くくびれたウエスト。そこから伸びるしなやかな脚。その全てに負けない白く肌理細やかな肌。そこには美の全てがあった。
なぜか俗に言うところのビキニを着ているのが不思議だが、少女にしてみればそれは些細なことだった。

「ん?どうしてってどっかの馬鹿がレベルCまでしか閲覧権限が無いのに、レベルBの書架に踏み入れたからその確認と、我が愛しのあの人から言われた罰を与えにね」

「そんな・・・そんな権限なんて私しらない・・・」

少女の瞳から恐怖の色が浮かんでくる。それほどまでに恐れる「管理者」の言う「あの人」とは誰のことなのだろうか

「あっれ〜?そうだっけ・・・あ、そうだ。権限のことを知ってるのは「司書」以上だったわ。ごめんごめん」

そう軽く笑いながら手を振る「管理者」。そして初めて聞く「司書」という言葉。

「あ、「司書」も知らないのか〜。まっそれは知る必要の無いことだからそのままでってことで。では処罰についてお伝えします」

そういって「管理者」は手に持っていた書状を広げて読み上げた。

「第2056支部第1023番図書館635号分室、役職「観測者」。右の者は己の持つ権限を逸脱した行為を行ったため情報の初期化に処す。また、右の者が行った行為については試練レベルSSを課すことで之を容認することとする。図書館本館館長」

「そんな・・・情報の初期化?・・・・・・それに試練レベルSSって?横島さんに・・・?」

「まぁ簡単に言うと、あんたの記憶や経験を生まれたばっかの状態に戻してその横島だっけ?そいつには試練を与えるってことだね」

「・・・その試練を超えられなかったら?どうなるの?」

「お?自分のことよりそいつを心配するんだ。・・・試練?レベルSSって言ったら一つしかないじゃんよ〜・・・・・・ずばり「書の魔獣」!」

「管理者」と言われた少女は「観測者」の質問には答えずに話を続けた。

「「書の魔獣」?なんですかそれは?」

「だから〜、それを「観測者」程度が知る必要は無いんだって。そもそも「書の魔獣」自体知らなくていいことなんだから!まぁ見事試練を突破すれば「旅人」にするとか言ってた気もするけど・・・・・・っじゃあ!そろそろ処罰執行〜!」

そして「管理者」は持っていた書状を「観測者」に向かって広げその書状が持っていた力を解放した。

「い・・・いや、いや・・・・・・いやぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!」

頭の中から消えていく・・・今まで見てきた数多の世界の記録が・・・神話になった少年・・・狼と月の花の少女・・・三つ目の少女と不老不死の糸目の男・・・水を被ると女になる男・・・母なる混沌を使役した少女とその自称保護者・・・この世の果てで愛を歌う少女・・・内調の美人捜査官と灰色の頭脳を持つ探偵の男・・・死を見る眼を持つ男・・・記憶をなくした暗殺者・・・炎髪灼眼の討ち手・・・



・・・・・・どこか悲しそうに優しく微笑みを浮かべ、世界となった人外に好かれる少年・・・・・・・・・



その全てが消えていく・・・闇の皇子・・・女子寮の管理人・・・桜の散らない町に住む青年・・・死神となった高校生・・・多額の借金を持つ若い執事・・・海賊王・・・王立国教騎士団の吸血鬼・・・蝕を生き延びた男・・・銀髪の蜘蛛・・・剣の丘で佇む男・・・魔王代理人になった女の子・・・龍眼を持つ女性・・・



そして最後に浮かんだのは・・・・・・ありがとうと初めて自分に言ってくれた何処までも優しい少年の顔だった・・・・・・







「ん〜・・・あとはこの「原典写本」に「書の魔獣」を放り込めば私のお仕事はおっしま〜い!」

なにやら黒い物体を横島が消えていった本に溶け込ませる「管理者」。
気が付けばいつの間にか何事も無かったかのように黙々と仕事を始める「観測者」を視界から外し「管理者」は呟いた。



「さぁ、開演のベルが鳴る・・・主演は世界となった少年。そのお相手は嘗て99人が挑戦し、悉く敗北した「書の魔獣」とその信者「黒の教団」。君の信じた世界を作るために・・・君の決意見せてもらうよ」







つづく
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あとがきのようなもの

まず初めに・・・・・・ごめんなさい。遅くてごめんなさい。覚えていてくれてる人いるかな?いてくれると嬉しいな。Mirrorです。
ついにこのSSも十話に来ました。でも他の皆さんのを観てると自信なくなっちゃいます・・・すごいですよね。ほんとに尊敬しちゃいます。

やっと続きが書き終わりました。なんか序盤で思い直すこと十数回・・・んで出来上がったのがこの程度・・・最低だ・・・
皆さんは最後のほうに出てきた・・・神話になった少年・・・とかって何だか分かりましたか?みんな結構有名だから簡単かも知れませんね。ほんとはもっと違うのにしようと思っていたのですが、タイトルが出てこなくてさらに表現に出来なくてこんなになっちゃいました。

さて、これで一応序章はおしまいです。次回からは「原典写本」に移動した横島君のお話になります。まぁ予想通り逆行になるのかな?でも頑張ってオリジナル要素を組み込んでいきたいです。
一応メインのオリジナルは最後に出てきた「書の魔獣」ですね。この言葉知っている人いるかな?ちょっとある作品から引用しちゃいました。しっていたらその人とは趣味が合いそうです。


それでは今回はこのへんで・・・また次のあとがきのようなもので・・・





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