GS二次小説 「せめて絶望のない世界をあなたに」



第008話

キーやんとサッちゃんは既に横島の魂を消滅させるための魔方陣を完成させていた。
その魔方陣は大きさこそ直径三メートルとあまり大きくないものの何十にも重ねられていて厚さは一メートルにも達した。一般的な魔方陣の厚さが一つ一ミリも無いことからそのすごさが伺える。
そしてその魔方陣は使われるのを待っているかのように鈍く光っていた。

「さて、これでこちらの準備は整いました」

「あとは横島が戻ってくるのを待つだけやな」

二人はロンギヌスの槍が創った位相空間の歪みの前で再び横島が戻ってくるのを待っていた。

「なぁキーやん。あんさんはどう予想する?」

「もちろん終わってると思います。私の槍から逃れる術はありません・・・それこそ奇跡でも起こらない限り」

「奇跡か・・・お、どうやら出てくるみたいやで」

サッちゃんの言うとおり、少しずつ歪みに変化が現れた。横島が完全に現れた瞬間を狙って魔法陣を起動できるように構えるキーやんとサッちゃん。
そしてぼやけていた影が次第に形を成していき、横島が完全に位相空間から出てきたと確認した瞬間―――

「いまです!」

「よっしゃ!」

キーやんとサッちゃんは魔方陣を起動させた。





横島は自分の掌に現れたそれを見ていた。

「何だこれは・・・?文珠・・・なのか。随分とカラフルになったが」

これがタマモの言っていたことなのだろうか?そうかもしれないと横島は思った。それは感じていた違和感が今は消えていることからも。

「既に文字が入っているな・・・「絶/対/守/護」・・・そうか、あいつ等俺を守ってくれているのか」

その文字が示すとおり横島は何か暖かいものに包まれていると感じていた。そしてそれと同時に心の傷が治っていきロンギヌスの槍も抜け身体の崩壊も復元されていく。
そして槍が抜けたためか次第に周りの景色が先程まで死闘を繰り広げていた物へと変わり強力な神力と魔力、それに何か別の猛々しい力を感じた。

「っ!?・・・なんだこの力は!!」

ガァアアアアアアアアアア!!!!

位相空間から抜け出し元の空間に戻ると同時に横島はロンギヌスの槍に貫かれた時と同じような・・・いやそれ以上の痛みを感じた。
それもそのはずでそれこそ生きたままの状態で無理やり魂を壊されようとしているのだから。

しかしそのとき再び四色文珠が輝きだした。
そしてその光が収まったときキーやんとサッちゃんの二人が創った魔方陣は消え去り同時に四色文珠もまるで役目は終わったかのように消えていった。



「な・・・なんてこと」

「・・・どうやら、奇跡っちゅうのが起きてしもたみたいやな」

キーやんは疲労や怪我がすごいがそれでもしっかりと五体満足に立っている横島を見て呆然とし、サッちゃんは目の前で起きたことにはショックを受けた様子だったがそれでもどこかで納得した様子で横島のことを見つめていた。

「・・・キーやん、サッちゃん。つづけるか?」

横島はしばらく自分の身体に異変がないか調べていたが、異常がないと判断し終わったのかゆっくりと二人に話しかけた。

「と、当然で「いや、もうやめや」すっ!・・・っ!?サッちゃんあなたはっ!」

キーやんが怒りを顕に再び横島に仕掛けようとするが、サッちゃんの一言で今度はサッちゃんに詰め寄った。

「まぁ、待てやキーやん。あんさんもちゃんと横島の力を感じんかい。・・・もうワイらが同時に仕掛けても勝ち目はなくなったわ」

「そんなこと・・・・・・なっ!?そんな・・・これ程までの力・・・」

「理解したか、キーやん。何でかは知らんけどタマモはんの霊基の共鳴が霊力にまで及んだみたいや」

「これまでのルシオラさんや、小竜姫さんみたいに・・・ですか」

そう、今の横島の霊力は既にキーやんとサッちゃんの二人を足し合わせたよりも遥かに高い。そして横島に内包されている全ての霊基がお互いに共鳴していた。

「せや。もう、どれだけ抗っても今の横島には勝てん。それにワイも、キーやんもそんな力残ってへんやろ?」

キーやんとサッちゃんは既に立っているだけで限界だった。それもそのはずでキーやんはロンギヌスの槍を使い、そしてそれを使用した。またサッちゃんも自身の最強の技「滅びの流星」を使い魔力をほとんど使い、二人ともそのあとにアレだけの魔法陣を短時間で創り上げたのだからそうなるのは当然でもあった。

「・・・それはそうですが・・・ですが、サッちゃん!」

「もう、腹くくりや。ワイらはやれるだけやったんや。なら最期くらいは年長者らしく潔くせんと・・・」

そう言ってサッちゃんは横島の方を向きなおした。

「さて、横島・・・いや、もうヨコッチでええか。・・・ヨコッチ、話を聞いていた通りもうワイらにはあんさんに負けを認めるしかあらへん」

「そうか・・・これでようやくあいつに会えるんだな」

「せや。でもなあの人に会うにはどうしてもやらなあかんことがあるんや」

「そうなのか・・・それは知らなかったな」

「あたりまえです。これは唯一の手段。それ以外では決して会うことは出来ません」

「キーやん・・・もういいんか?」

サッちゃんはどこかまだ無理をしているようなキーやんに話す。

「ええ。ご心配なく。もう私たちでは止められないでしょうし」

キーやんはそう言って一歩横島に向かって前に出た。
そしてキーやんははっきりと口にした。

「横島・・・いえ、ヨコッチ。私たちを殺しなさい」

「なっ!?」

横島は驚いた。それもそのはず、ようやく戦うことなく済ませられると思った矢先にそのようなことを言われたのだから。

「何を今更そのように辛そうな顔をするのです」

「せや。ついさっきまでワイらと殺し合いをしとったんやで?それにこれは必要なことなんや」

「しかし・・・それに必要なこととは・・・」

「あの人に会うということは世界を変えることが出来る可能性があるということ。そう簡単に会えるようにはなっていません」

「そしてあの人に会うための扉の封印としてあるんが、ワイとキーやんの魂なんや」

「正確には神魔最高責任者の魂・・・ですけれど」

「そんな・・・お二人を殺さなければいけないなんて・・・」

一旦戦いを止めれば元は底抜けに優しい横島。それが例え先程まで死闘を続けていたとしても、その相手がタマモを殺した存在だとしてもやるせないものを感じてしまう。

「ふっ・・・やはり優しいのですね。ですが、もうこの世界は終焉に向かっていくしかありません」

「それにもう存在するのはワイらだけやしな」

神妙な顔をするキーやんにどこかおちゃらけた感じのサッちゃん。それでも隠し切れない寂しさの瞳を隠しきれず、それに気付いた横島はやはりためらっていた。

「しかし・・・キーやん・・・サッちゃん」

「しっかりせや!ヨコッチ!!あんさんが決めた道やろ!自信もち!ここまで来てもうたんや・・・覚悟を決めや」

「そうですよ。恐らくもう会うことも最後でしょう。だから最期くらいは私達を破ったものらしく堂々としていなさい。そして気を強く持ちなさい」

「・・・そうですね。最後の最後まで俺は皆に心配ばかり掛けて・・・ダメな男ですね」

そういってキーやんとサッちゃんを見つめ返した瞳にはとても力強い色をしていた。

「いい目をするようになりましたね。それでこそ私達を破った者です」

「ああ、これでホンマに最後やな。ヨコッチ・・・あんさんに会えてよかったで」

そしてキーやんとサッちゃんは静かに眼を閉じその瞬間を待った。

「・・・・・・ありがとう。そして・・・・・・・・・俺も貴方達に会えてよかった」







そして魔神剣蓮螢/蒼竜を創り出し一閃した・・・・・・









「・・・・・・ここは・・・?」

横島がキーやんとサッちゃんを殺したと思ったらいつの間にか横島は不思議な空間にいた。
あたり一面同じ大きさの本がぎっしり詰まった本棚で埋め尽くされていたからだ。そして少し遠くには開けた場所があり、そこにその大量の本が丁度納まるくらいの台座があり、その上に一冊の本が置かれている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うぅ・・・・・・・・・ぐず・・・・・・めん・・・

「?」

横島は自分のすぐそばで泣いている気配に気付き近づいていった。

・・・・・・ぐす・・・・・・・・・んなさい・・・・・・・・・・・・うぐっ・・・ううぅ・・・・・・

こんなところに女の子?何故?と横島が疑問に思いながらその女の子に近づいていき優しく話しかけた。

「ねえ君、どうして泣いているんだい?・・・それに此処がどこだか教えてくれる?なんか迷い込んだみたいで・・・ね」

そう優しく目線の高さを同じにするためにしゃがみながら横島は女の子の反応を待った。

「・・・うぅ・・・・・・ふぇぇ・・・・・・・・・誰?」

女の子は顔を上げずに、でもちゃんと話を聞いていたらしく反応を返す。

「あぁ、ごめん。自己紹介がまだったね。俺は横島。横島忠夫だよ。君はなんていう名前なの?」

「よこしま・・・ただお?・・・・・・っ!?ご、ごめん・・・なさ・・・・・・ぃ・・・・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・うっ・・・ふぇぇえええ!!」

横島は面食らった。自分の名前を言ったと思ったら今度は突然謝りだし、そして泣き出してしまったのだから。

「えっ!?ちょ・・・あ〜・・・うん。俺は平気だから・・・だからね、泣き止んでよ」

そう言って横島はなんとなく女の子の正体に気付きながらも、女の子が泣き止んで落ち着くまで優しく抱きしめながら背中をさすっていた。



しばらくしてようやく落ち着きを取り戻した女の子に横島は優しく話しかけた。

「落ち着いた?・・・だったらさ、ここがどこだか分からないんだけど教えてくれないかな?あと、出来れば君の名前も」

横島は女の子が話し出すのをじっくりと待った。

「・・・うぅ・・・・・・ここは「境界線」・・・わ、私・・・は「観測者」・・・です」

「境界線に観測者?」

「・・・はい、そうです・・・」

女の子は横島から少し離れしっかりとした面持ちで横島と向き合った。

横島は落ち着き一歩離れた女の子をようやく観察することが出来た。
その女の子は一言で言えば可愛い。・・・だろう。色の白い肌、少しつりあがった大きくクリクリとした黒い瞳。そして足首まである長く黒い艶のある髪。着ている服も肌の色によく映えているフリルがたくさん付いた黒いドレス。
それはあたかもどこかのお姫様といっても差し支えのない容姿をしていた。

「それはまぁあとで聞くとしてどうして俺の名前を聞いたとき突然泣き出したの?」

「・・・取り乱してしまって申し訳ありませんでした。・・・私が泣き出してしまった理由ですね。それは・・・





私が横島さんたちが言うところの「宇宙意思」にあたる存在だからです」

泣き止んだと思ったら急に大人びた雰囲気になり女の子・・・観測者・・・は横島に向かって告げた。







つづく
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あとがきのようなもの

やっと、VS神魔最高責任者編が終わりました。ほんとならこんなにかかる予定ではなかったのに・・・
それで登場宇宙意思こと観測者さん。まぁ外見とかは眼の黒い某吸血鬼の姫を想像していただければいいかと・・・
性格は普段はしっかりしてるのにいったん情緒不安定になると子供っぽくなるという設定。・・・まぁ今後登場するかはわかりませんが・・・
あとこの「境界線」の設定ですが、色々考えた結果こうなっちゃいました・・・もとネタ知ってる人はごめんなさい。でもこの作品結構好きなんですよ!ああ〜・・・「全ては可愛いリ○スちゃんのために〜!」・・・

横島君の四色文珠ですが、いま詳しい使用を練ってます。あまりに強い力なので使いどころが難しいです。一応四つそろって力を発揮させようか、それとも一個ずつでも使えるようにするか・・・微妙です。
考えたときは一個でも使えるようにしていたんですがね。難しいところです。まさに作者泣かせ!
それと横島君の在り方というかそういったことも今まで以上に練ってみなさんの期待にこたえられるようにしたいです!





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