ＧＳ二次小説　「せめて絶望のない世界をあなたに」



第００３話

横島はタマモの元へ急いだ。まだ間に合うはずと信じて。
タマモの元へ着いたらすぐに治療が出来る様に文珠を用意する。
遠目で見ても分かる。あれは致命傷だ。「治癒」や「回復」では意味が弱すぎるだろう。
なら何なら平気だ･･･横島は思考する。あそこまでの傷、どうやったら元に戻せる？
････････････そうか、元に戻せばいいのだ。

キィィィィィ･････････ン

そしてタマモの元に辿り着いたと同時に出来る「復/元」の文珠。

「頼む･･･間に合ってくれ･･････っ！」

そう言って文珠を作動させる。みるみるうちに腹部に開いた穴が閉じていくタマモ。
だが、どういうわけか横島の表情は焦燥が浮かんでいる。

「くそっ！くそくそくそっ！･･････どう、して･･･どうしてなんだ！･････････どうしてっ･･･」

今やタマモの傷は完全に塞がり、身体には傷一つ付いていない。しかし横島は気付いていた。

「どうして･･････霊気の流れが元に戻らない･･･！！」

霊気の流れとは言わば眼に見えない血管のようなもの。この流れが乱れれば歩くことすら困難になるし、垂れ流しになれば体内の血を無くした時の様に良くて気を失い悪ければ二度と眼を覚まさなくなる。
そして今タマモの身にもこれと同じ現象が起こっていた。普通なら霊気の流れが体内を循環していなければならないのにそれがないのだ。垂れ流しなんて比ではない。これはダムが決壊したかのように放出されているようなものだ。

「無駄ですよ。そうなるように力を付加させたのですから」

横島のあとを追ってきたのだろう。キーやんはいつの間にかサッちゃんの隣に立っていた。

「うるさいっ！うるさいんだよ！！お前らは後で相手してやるから今は黙ってろ！」

横島は二人の方に向くことなく怒鳴った。それは現象となり横島の周囲を鋭い風が吹き荒れたが二人は特に気にすることも無くただ横島とタマモを見つめていた。



その風のおかげだろうか･･･それまで意識を失っていたタマモは眼を覚ました。

「あ･･･っ！ゴホッ、ゴホッ･･････マ、マス･･･ター･･･」

口に溜まっていた血に咽ながらも自分を抱き上げている横島の存在に気付き、朧げに横島を見上げた。

「も･･･申し、わけ･･････ありませんでした･･･マスター。･････････ッ･･･命、令を守れません･･････でした」

「もういい、わかったからっ！･･････もう喋るな！！」

「その･･･命令は聞けません･･････マスター。･･･助からない、のは私が･･･一番わかります･･････から」

タマモは自分の状態がどうなっているのか分かっていた。そしてもう自分が助かることはないと言うことも。
それは私がマスターの眷属という名の使い魔になってから一度も自分には嘘を言ったことのなく、今の会話で「助かる」と言わなかった事からも理解できた。
そしてどうすれば今の私にマスターの役に立てるか考えたとき、すぐに一つ浮かんだ。そしてそれと同時にそれはマスターを深く傷つけながらも断れないことも分かった。

「待ってろ･･･今俺が何とかしてやるから･･････」

くすっ

タマモは思わず笑ってしまった。何とかしてやると言っても決して「助ける」「助かる」とは言わない自分のマスターのどこかやはり抜けているところに。
そして気付いた。マスターの使い魔になってから今初めて笑ったということに。
タマモは嬉しかった。こんな私でも笑うことが出来たという事に。そしてすんなりと考えていたことを口にした。

「マスター･･･私はもうダメです」

「な･･･何を言ってるんだ」

「誤魔化さないで下さい。･･････それはマスターも理解しているはずです」

横島はその何かを決意したような強く、でもどこか許しを請うような眼をしているタマモには何も言えなくなっていた。
だからせめて文珠で「鎮」と「滑」で痛みを抑え少しでも喋りやすいようにしてやった。

「ありがとうございます、マスター。･･･少し楽になりました」

「･････････」

無言で先を促す横島。それを確認するとタマモは切り出した。

「最後に二つ･･･お願いがあります」

「お願い？･･･ああ、何でも聞いてやる。だから･･････！」

「私にはそのマスターのお願いは聞けません。･････････それでは言います。一つ目は･･････です」

横島はそれを聞いたとき、何を言っているのか一瞬分からなかった。いや確かに理解はしていたがそれを認めたくなかったのだ。

「･･･････････････マスター･･････」

タマモは自分は卑怯だ･･･と思った。こう言えば優しいマスターは認めるしかない。それにこうしないと恐らく神魔族最高責任者に勝つのは難しいであろうことも。
私が魔族の最高責任者と戦えたのは単に相手が手加減していたからに過ぎない。私はせいぜい上級神魔族の中堅くらいの力しかないのだから。

横島は今タマモが言っていた事を聞いて、聞いたことを後悔していた。だがタマモの言いたいことは分かる。恐らく神魔族最高責任者と戦い生き残るためにはするしかないということを。
そしてここまで言わせてしまった自分に対して深い怒りを感じるが、自分はタマモが望んでいることをするだろう。そしてその後でまた嘆くであろうことも予想できた。
だが正直なところ今回は耐えられるかどうか自信が無い。過去二回はそれでもそばに支えてくれた人達がいた。それが今回はいない。それが不安でしょうがない。
そんな横島に気付いたのだろう。タマモは続けた。

「大丈夫です。マスターはきっと大丈夫です。･･････でもやっぱりダメだと思ったら、そのときは思い出してください。あの人達がマスターに言った言葉を･･･そして･･････」



――――――「嘗ての私が貴方に伝えた言の葉を」――――――







カッ！！

瞬間あたり一面がタマモを中心にして閃光に包まれた･･････



「あ、あかん！あまりの感動シーンに気を緩めすぎてもうた！」

「だめです、サッちゃん！近づいたら巻き添えを喰らいます！！」

二人は目の前で起こった光景をみて自分たちの迂闊さを後悔した。二人は基本的にとてもお人好しなのだ。だからもう助かるはずの無いタマモがその行動を起こすことを可能性として知っていながらも、どこかで考えないようにしていたのだ。
そしてもう止めることが出来ないと判断し、即座に守護結界を十重二十重に巡らしながらなるべく遠くへ退避した。



横島は完全に不意を衝かれた。突然タマモが光ったと思ったら小さな球状に変化し横島の身体の中に入ってきたのだ。そして自分の頭の中でタマモの声が聞こえた。

――――――マスター･･･神族のあの攻撃で半分以上破損してますが･･････――――――

「･･････おい！？返事をしてくれっ！･･･頼む･････････」

横島は自分の中に入ってきたそれに声を必死に呼びかけた。しかしそれは返事をすることなく徐々に声は小さくなっていった。

――――――私の霊基も使って･･････生きてください――――――

「だめだ！まだいくなっ！！･･････まだ･･･二つ目のお願いってやつを聞いていないんだぞ！！！！」

泣きたくなるのを必死で抑えながら自分の中に入ってきたそれ･･･金毛白面九尾狐・妖狐玉藻の霊基構造･･･に必死に呼びかける。
だが、その行為も虚しくどんどんそれが当たり前かの様に横島の霊基と混ざり合っていくタマモの霊基。それが進行していくたびにタマモの存在感が儚くなっていく。

――――――･･･そうでした。最後のお願い･･････です。一度でいいから･･･――――――

そしてその言葉を伝え終わると同時に完全に横島の霊基構造は書き換わり、あたりを包んでいた光が収まっていく･･････









そして光が収まった場所に佇むのは一人の男。その髪は髪を伸ばしていたタマモの影響か腰ほどまで伸び、まるで絹のような艶を出し黒を通り越してそれは漆黒といっていい色をしていた。
男は立ち上がり、今はもう二度と青い空を見せることの無い雲だけの空を黒から血の様な紅に変わった瞳で見上げた。

「･･････ごめん」

男は呟いた。

「･･･ごめんな･･････多分俺はお前がそれを望んでいることをどこかで分かってたんだと思う。でも･･････」

男は泣いていた。どうしてタマモが望んでいることをしてやれなかったのか･･････と。

「でも、やっぱり認めたくなかったんだと思う。･･･お前がどんなに変わっても、それでもそれはおまえ自身なのにな･･････お前の一部分だったはずなのに･･････」

「だから･･････もう遅いと思うけど･･････ごめんな」

――――――一度でいいから･･････――――――

そしてその男･･･横島はその言葉に全ての思いを乗せて静かに、でもはっきりとその言葉を風に乗せた。

「ごめんな･････････････････････

　･････････････････････････････････････････････････

　･････････････････････････････････････････････････

　･････････････････････････････････････････････････

　　　　　　　　　　　　･･････････････････タマモ･･･」













――――――･･････私の名前を呼んで下さい･･････――――――





つづく
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あとがきのようなもの

なんか展開が速すぎるような気がする･･･いかんななんかだめだめだ〜
そしてなんかえらいことしてしてしまったような･･･
このあとどうしようかな･･･戦闘シーンが今一番の悩み種だ･･･
まぁ気にせずどんどん行こ〜！





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