第004話





―――君影鏡耶が学園長と結んだ契約書から一部抜粋


一、君影鏡耶(以後甲)は麻帆良学園の広域指導員として活動することを認める。

一、甲は広域指導員としてふさわしい格好をし、適切な行動を行うこととする。

一、甲を魔法を知るものの一員とし、夜間、及び麻帆良学園に脅威が迫った時その力を提供する。

一、甲は魔法の存在を一般生徒に漏洩してはならない。

一、甲は一般生徒、魔法生徒に関係なく危害を加えてはならない。
   ただし、広域指導員として、決闘、武道大会などのやむをえない場合、
   また、相手から一方的に危害を向けられた場合はその限りではない。

一、甲はいかなる理由を持ってしても麻帆良学園のものを殺害してはならない。

一、上記を一つでも違反した場合、厳正な審査のうえ相応の処罰を与えるものとする。




鏡耶は模擬戦闘の後学園長室で契約を正式に結び、今その契約書を再度確認していた。

「報酬などについては別紙を参考してほしい。何か質問はあるかの?」

「まぁこんなものだろ。それでいつから始めればいいんだ?」

「そうじゃの。麻帆良の地理を覚えてもらうこともかねて今日からお願いできるかな?」

「分かった。それでは行ってくる」

「おっと、そうじゃった。一応広域指導員として動いてもらっている間はこの腕章を付けておいて くれんか?高畑君くらい皆に顔が割れておればいいんじゃが、まだ君はここに着たばかりじゃろ? 女子校エリアにいても不振に思われんようにじゃ」

そういうと学園長は鏡耶に広域指導員と書かれた白い腕章を渡した。

「確かにそれもそうだな。・・・・・・・・・よし、これでいいか?では今度こそ行ってくる」

鏡耶は左腕に腕章をつけ、軽く動かしてみて特に動作に問題ないことを確認すると 学園長室から出て街に繰り出した。





街に出た鏡耶は春休みにも関わらずかなり賑やかな街の様子に驚いていた。

「すごいな。しかし今時ここまで賑やかな街並みも貴重なんじゃないか?」

興味深げに街を散策する鏡耶だったが、街に来てからずっと付き纏ってくる いろいろな人達からの視線には流石に辟易してきていた。
鏡耶を見ている人の殆んどが女性で、鏡耶の容姿や、一層目を惹く漆黒の 長髪、紅い瞳がその主な理由だった。
しかし何人かの男性は鏡耶のする腕章に気付くと、見慣れない広域指導員が いると仲間に連絡を取っていた。

そんななか、誰もが興味があるがどこか近寄り難い雰囲気を出していたために 距離を取っていたが、ついに鏡耶に話しかける人物がいた。

「やぁ、確か君影さんだったかな?」

鏡耶はショーケースに飾られていた時計から目を離し、声をした方に向き直った。
そこには背が高く、褐色の肌で黒い長髪の女性。目を引くのが何処か探るような視線と 肩から提げている黒い四角のケース、そしてその豊満な胸だろうか。

「君は?確か朝のアレにいた記憶があるが・・・すまないな名前がわからん」

「あぁ、私だけが一方的に知っているのは不公平だな。龍宮真名だ」

「龍宮真名か。それで私に何か用事でもあるのか?」

「いや、これといってないよ。ただ今私達あっち側の間で君影さんのことが話題に よく挙がっていてね。私もそのうちの一人なわけで、そしたらその話題の人が 目の前にいたもんだからつい話しかけてしまったというわけだよ」

「へぇ、そんなに話題になっているのか」

真名が話した内容に素直に興味を持った鏡耶は真名にそういった。

「あぁ・・・って、こんなところで話していい内容でもないかな。 向こうに私お勧めの餡蜜が食べられる喫茶店があるんだが、そこで少し話しをしないか?」

「まだここの地理はよく知らないし、どこを見て回ろうかわからなかったから丁度いいかな。 まぁ、まさか初日からナンパされるとは思わなかったが・・・」

「それだけ君影さんが魅力的ということさ。 といっても中三の私にナンパされても嬉しいものかは知らないけどね?」

真名が中三だと言った事に対し、鏡耶は少しばかり目を張った。

「君みたいな大人っぽい娘が中三とは・・・最近の女性は見た目じゃ判断できないな」

「それは私の何処を見て言った言葉かは気になるところだけど、 それは後で追求するとしてそろそろ向かっていいかな?」

「ああ、すまなかった。それじゃあ案内お願いするよ」

そして龍宮は鏡耶を伴って目的の喫茶店に向かい始めた。



背中に羨ましそうな、嫉ましいような視線をひしひしと感じながら・・・・・・・・・





「春限定スペシャルデラックス黒餡蜜を一つ」

「俺は普通の餡蜜を一つもらえるかな?」

喫茶店に着いたテラスになっている席に座り二人は早速注文を終えると、 先ほどの話の続きをすることにした。

「それじゃあ、注文した品が来るまで何を話そうかな。・・・そういえばいつごろ麻帆良に 来たんだい?」

「昨日ついた。まぁ着くまでここまで巨大な学園とは思わなかったがな」

「それについては私も同感だ。私でさえ今でも戸惑うことがあるくらいだからね」

そのときの真名は何を思い出しているかわからなかったが、その雰囲気からあまり 追求しないほうがいいだろうと判断した鏡耶はそのまま続きを待つことにした。

「まぁ、それはさておき、君影さんは普段はどうやら広域指導員として活動するみたいだね」

「そうらしいな。しかし実際はどんなことをすればいいかまだよくわかっていないんだけどね」

「そうだね。有名な広域指導員だと通称「鬼の新田」と呼ばれてる新田先生と、「デスメガネ」で 恐れられてる高畑先生で例を挙げると・・・実力行使による主に暴力に対する調停かな?」

「実力行使とは随分と直接的だな」

「まぁ、問題を起こすのはその殆どがいわゆる不良と呼ばれてる連中だからというものあるが、 この麻帆良で何か問題が発生するとしたら暴力沙汰程度しかが無いのさ」

「へぇ、しかしこれだけ大きい学園ならもっといろんな問題が起こりそうな気がするが・・・」

「実際はもっと多種多様な問題も起こってはいるが・・・この学園の特色のひとつだとは思うのだが、 主にそういった問題に関する解決団体がすぐにやってきて治めてしまうからやることが無いんだよ」

さすがの鏡耶もその理由には聞き返さざるを得なかった。

「・・・どういうことだ?」

「この麻帆良学園にはものすごい数の部活動があるんだが・・・ その中に弁護部とか検事部とかまぁ中にはさんぽ部や図書館島探検部なんてのもあって、 そういった専門の部活の連中が来て解決しちゃうのさ」

しかもその知識や手腕はプロにも引けをとらないということを聞いた鏡耶は、 自分の通っていた高校も変わっていたが、麻帆良はそれ以上に変わったところだと改めて思った。

「もちろん武道系の部活動もあるんだけど、さすがに空手部なんかが揉め事を起こすと 大会とかに出られなくなるからね。そういった理由もあって広域指導員の主な仕事 が限定されてしまうのさ」

丁度真名がそう言ったところで注文していた品が運ばれてきた。

「注文された品も来たことだし、君影さん。少しこちら側のことについて聞いてもいいかな?」

真名はそういって黒餡蜜がおいしそうにかかった白玉を一口食べた。

「構わないが答えられない質問もあるかもしれないが、そこは勘弁してくれよ」

そういいながら鏡耶は懐から一枚の紙を取り出した。

「そのくらいは理解しているさ。あと私が答えられることがあったら君影さんも 質問してもらっていいからね。で、その紙は・・・符かな?はじめてみる様式だが」

真名は少し興味深そうに鏡耶が取り出した符に視線をやった。
鏡耶は小さな声で何事か口ずさみ、指で符の中心を軽く二回叩くと淡い光を放ち始めた。

「自分で使いやすいように自作した呪符だ。効果は局所的な認識阻害といったところだ」

「へぇ、てっきり魔法でするのかと思ったけど、君影さんは純粋な魔法使いではないんだね」

「あぁ、今朝のテストを見てもらえば多少はわかると思うが、俺は使えるものは何でも使う」

わざわざ自分から選択肢を狭める必要は無いと鏡耶は言う。

「確かにね。でもやっぱり相性とかもあるんじゃないか?」

「苦手だからまったく出来ないというのは・・・こういった世界にいるものにとっては 怠慢以外の何ものではないんじゃないか?」

全く使えない属性や系統の術もあるだろうが、どんなに苦手なものでも初級程度のものなら それなりに使うことができる。もちろん真名もそれは当然知ってはいるが・・・

「大抵はパーティーを組んで作戦にあたるだろうからそこまで気にすることではない・・・かな?」

鏡耶に思っていたことを先に言われてしまう。

「違うのかい?」

「確かにそれでも普段は大丈夫だろう。しかし孤立無援に成らざるを得ない場合は? 例えば周りには悪の魔法使いと呼ばれ、常に狙われ続けているとしたら・・・?」

真名には鏡耶が誰のことを言っているのか気付いた。

闇の福音[ダーク・エンジェル] か・・・だが彼女の場合はかなり特殊なケースだと思うが、それに彼女も 全系統の魔法が使えるわけではない」

「確かに。しかし彼女は所謂純粋な魔法使いタイプではないと思う」

「へぇ、でも彼女には『魔法使いの従者[ミニステル・マギ]』 がいるじゃないか」

「確かに。それに話に聞くと全盛期のころは何百もの人形を操っていたみたいだしな」

それ故ついたもうひとつの字が『人形使い[ドール・マスター]』。
鏡耶はエヴァの家に飾られている数多の人形、ぬいぐるみを思い出す。そしてなぜそれほど 多くの人形、ぬいぐるみを飾ることになったのか思うとどうにもやりきれない気持ちになる。
しかし、真名はそんなことを考えている鏡耶には気付かずにいた。

「つまりそれだけの従者に守られて、自身は大砲になる。それでも闇の福音は違うというのかい?」

真名の言葉に今が会話中だということを思い出した鏡耶は、真名に違うことを考えていた ことを悟られないように何とか答えることに成功した。

「すくなくとも数百年は生きた存在だ。おそらくだが魔法以外の攻撃手段も持ち合わせているだろうと 考えるのが妥当だな」

「・・・・・・そういうものか」

まだ完全には納得できないという感じの真名だが、とりあえずはこの話は終了することにしたようだ。








「ん・・・んあぁ・・・・・・・・・」

鏡耶と真名が出会う少し前、真名のルームメイトである桜咲刹那はようやく起きようとしていた。

寝ぼけながら時計に手を伸ばして掴み取り、頭の中で今日の近衛木乃香の予定を思い出す。
そして今日は朝からショッピングの予定があることを思い出した刹那は現在の時刻を確認するために、 時計を見て固まった。
時間にしておよそ5秒。刹那は自分でもびっくりするくらいの声で叫んだ。

「ね、寝坊したーーーーー!!!」

時計の針は今がすでに木乃香が寮を出てから1時間は過ぎていることを教えてくれていた。



自己最短のスピードで急いで準備をした刹那は予定では木乃香が来ているはずの ショッピングモールに来ていた。休日なのに学園の制服を着て、スカートがめくれても 下着が見えないように黒いスパッツをはき、手には竹刀袋にいれた野太刀「夕凪」を装備。
そして急いでいたため珍しく息を切らし、木乃香を探すために目を見開きながら周囲を見渡す 彼女はどこから見ても立派な変質者だった。
さらに言うなら彼女は道の脇に隠れるようにメインストリートを見ていたため、 その変質者っぷりを大いに誇張することに成功していた。

「うぅ・・・この私が寝坊するなんて・・・これでもしこのちゃんに何かあったらもう 死んで償うしか・・・。これもみんな昨日の飛び込みの仕事のせいだ・・・ でもあの鬼達がこのちゃんを狙っているのは明白だったから私が戦うのは当然で、 ああ・・・このちゃん・・・久しぶりに私服のこのちゃんを見られると思ったのに・・・ このちゃんの私服・・・このちゃんのスカート・・・このちゃんの絶対領域・・・はぁはぁはぁ・・・」

だんだん目が血走って来て、なにやら黒とピンクが混ざったような瘴気を身に纏い始めた刹那は なんかもう、いろいろアレな感じになっていた。

しかしそんな刹那もこちらについてから放った式紙たちが木乃香を 発見し、その無事を知らせると落ち着きを取り戻した。

「はぁ、何とか追いつきましたがこのこのちゃんは何をしてるんでしょう?」











つづく
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あとがきのようなもの







それでは次回のあとがきのようなもので会いましょう。





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