GS二次小説 「せめて絶望のない世界をあなたに〜外伝〜」



第006話

初めてそいつと出会ったのは森の中だった。
自分の雇い主をこともあろうか騙してまで助けたそいつは、次に出会ったとき俺を身代わりにして逃げていった。
そしてそのすぐあとに何故か雇い主のところで世話をするようになった。
いつしか行けばいるのが当然になり、そいつの大好物をしょっちゅう奢るはめになったのも今では遠い思い出だ。



―――でも

いつからだろう・・・そいつを側でずっと感じていたいと思い出したのは――――――

いつからだろう・・・肌を合わせるようになり、朝を共に迎えるようになったのは――――――

いつからだろう・・・こんなにもそいつを愛おしく思うようになったのは――――――

いつからだろう・・・・・・・・・お前は答えてくれるだろうか・・・







―――――――――タマモ














結局横島はタマモの提案を反故にすることは出来なかったが、それでも今すぐにタマモを眷属化することはしなかった。
横島曰く、俺にも考える時間が欲しい。ということだった。
それについてはタマモも何も言えず、自分と同じ時間。つまり七日後までに答えを出すことを条件にしてしぶしぶながら引き下がることにした。

初めの二日間は色々と考えていたが、結局何も考えがまとまることはなかった。
隔離空間から出て食料を掻き集めたり、その最中に神魔族に見つかり戦闘をしていたせいでもあった。

そして三日後、考えてもそもそも何を考えたらいいのか分からないことが分かり、横島は猿神に助けを求めることにした。

「なぁ老師・・・」

「なんじゃ?といってもどうせ眷属にするかどうかについてのことじゃろ?」

図星をさされ、うっとなる横島だったが、なんとか再起動を果たし猿神に聞いてみた。

「まぁ、そうなんだけどさ。老師の意見を聞いてもいいか?」

「ふん。本当ならば自分のことは自分で考えろ!・・・というところなんじゃが、特別にじゃがその質問に答えてやろう」

「本当か!?」

「こんなことで嘘をついてどうなるというのじゃ?」

「ま、まぁそれもそうか」

「おほん。では言うぞ」

ごくり・・・無意識のうちにつばを呑み込み、知らずうちに横島は自分が緊張しているのに気付いた。

「まず、儂個人としては反対じゃ。そもそもお主の霊基構造は確かに人間の頃と比べれば大分変質してきたため、儂等神族や魔族に近い霊基構造にはなってはいるが、それはあくまで近いであって、神魔族そのもの・・・と言うわけではないのじゃ。つまり眷属化させるための霊基構造のやり取りは難しい可能性があるからじゃ」

そこで一旦言葉を止め、横島がきちんと聞いているのを確認した後猿神は続けることにした。

「文珠を使えばその問題も解決かもしれないが、何しろ前例がないのでの。そういう理由から反対といったわけじゃ。しかし、斉天大聖といては賛成じゃ。眷属化の結果どのような結果になろうとも心強い味方が一人増えることには代わりがない。ということじゃ」

「でも!だったら・・・」

「それも含めて考えたのだろうよ。そして自分のために、お主の横に立つという己の誓いと願いの為に決心したと儂は思うが」

「誓いと願い・・・あいつがそう言ってたんですか?」

猿神が肯定するのを聞いて、横島は猿神にありがとうございましたと述べてから再び一人で考えるために何処かに歩いていった。



そして――――――期限である七日目を迎えた。

その日の二人は何処となく雰囲気が違く、お互いに目を合わせないようにしていた。

タマモも結局横島がどういう答えを用意したのか気にはなるが、それを確認するのが怖いために話しかけられず、また横島も自分の答えを言うことで確実に今までとは違くなることに恐怖を感じていたのだった。

だがいつまでもそうしているわけにはいかないとは分かっている。
遂にそんなぐちぐちした雰囲気に猿神が我慢できずに二人に切り出した。

「今更時間を延ばしたところでどうしようもないのはお互いに分かってるんじゃろ?だったらとっとと話をしてしまわんか!」

「それもそうだよな」

「そ、そうね。・・・ねえ、タダオ・・・タダオが用意した答えを聞かせてくれる?」

「ああ。タマモが言っていた眷属化の話だがな・・・・・・」

その横島の言葉にどんな言葉が続いていてもタマモは納得しようと決めていた。

「・・・・・・俺はお前を俺の眷属にすることにした」

タマモは横島が話す内容を理解するのに数秒を要したが、その内容を理解したとき自然と涙が零れるのを感じた。

「お、おい!?急に泣くやつがあるかよ・・・ったくしょうがない奴だな」

そう言って横島はタマモを優しく引き寄せゆっくりと、だが強く抱きしめた。



しばらくそうしていたが、いつまでも抱き合っているわけにもいかないのでタマモは横島から数歩距離を置いて離れた。

「ありがとう・・・本当に・・・・・・それじゃあ早速始めましょう。老師もそれでいいわよね?」
「ああ、儂はお主等の決めたことに口を挟むつもりはない。ここで見届けることに専念するわい」

「いいか?・・・始めるぞ」

タマモが力強く頷くのを確認して横島は掌に単文珠を三つ生成した。
込める文字は「眷属化」。そしてそれを強く念じながら横島は発動させた。

「んっ・・・あああ・・・あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

文珠は横島とタマモを包み込み半透明な膜を形成し始めた。
それが完成すると次に急激に強い光を発し、猿神には中で何が起こっているのか全くわからなくなってしまった。





「二人とも確りとやるんじゃぞ・・・儂は少しばかりこの空間の外で儂等が出てくるのを待ち構えておる奴等の相手をしてくるからの・・・」

どういう仕組みかは分からないが、猿神は自分達がいる決して見つかることのなかったこの空間がばれたことを感じ取っていた。
まだ突入してこないのか、それとも突入できないのかは分からないが、彼等の邪魔をされるわけにはいかないので、来ないのなら好都合と猿神は単身結界の外に出て行った。

「ふむ、誰が来たのかと思ったらおぬしか」

「久しいな猿よ。そろそろこちらも手勢が無くなってきてな。ついに俺にまでお鉢が廻ってきちまったらしい」

猿神が結界の外に出るとそこには数百を超える中級神族と一人の上級神族が待ち構えていた。
その一人の上級神族はどうやら猿神とは旧知の仲らしく、親しげに猿神と言葉を交わした。

「お前は随分と無茶ばっかりしてきたが、まさかここまでぶっ飛んだことをするとは思わなかったぜ」

「じゃろう?儂も思ってもみんかったわい」

「だが、いい加減そのツケを払うときが来たらしい。いわゆる年貢の納め時ってやつだな」

「ふん。そう簡単に儂の首を取れると思ったら大きな間違いじゃぞ?」

「そんなことは承知しているさ。・・・・・・上級神族が一人、バイラーヴァのシヴァがお相手しよう」

「わざわざそんな異名を名乗るとはの・・・・・・よかろう。そのお相手、この斉天大聖が務めようぞ」

そして破壊に特化した二柱の神による死闘が展開されたのだった。









一方膜の中の横島は不思議な感覚を感じていた。

「なんか俺がもう一人いるみたいだな・・・これが自分の霊基構造を分け与えるってやつか」

タマモと自分とが繋がっているのがよく分かる・・・横島は今強くタマモの存在を感じ取っていた。
それと同時に急速にタマモの霊圧が高くなっていくのも感じ取れた。
タマモの思いはとても強く横島を受け入れていたのだろう。
横島の霊基構造はタマモの霊基構造に溶け込むという形ではなく、タマモの霊基構造が逆に横島の霊基構造に飛び込み、溶け込むように一つになっていった。



結果的にできる物が同じであっても、そこにいたる過程が違うのならば姿形が同じでもそれは全く違う物となってしまう。
そこに横島は気が付かないまま今では自分と並ぶほどに強くなった霊圧を感じながら、今ではどんなに離れていても一番近くに感じるようになったタマモの存在を嬉しく思っていた。

そしてその閉じられた空間は横島とタマモの二人から発せられる霊圧に耐え切れなくなって、その核であるドクター・カオスが造った隔離空間発生装置が壊れると同時に元の空間に戻ってしまっていた。

徐々に膜が消え始め膜の中の光も収まり始めた頃、横島はすぐ回りにたくさんの気配を感じた。
しかしその気配はその殆んどが既に感じ取れるのがぎりぎりといった程度にまで弱まっているので、おそらく何者かに殺されたばかりなのだろうと予想を付けた。

横島たちを包んでいた膜は消え、光も収まり横島が目にした光景はよく自分達が目にしていた物だった。
すなわち、神魔族達の屍の山。見渡す限りの死体。それが今横島が立っている場所の目の前に広がっていた。
よく見ると何か鈍器のような物で無理やり引き裂かれたような傷や、棒状のものでとてつもない回転力と共に貫かれたような穴を持つ死体もあった。
しかしそれらのおかげで横島はこれを行った存在が誰だか知ることが出来た。

「どうやら眷属化には成功したようじゃな」

予想したとおりの声が横島の背後から聞こえた。
だが、その声は今までにないほど疲れた感じでさらに何故か下のほうから聞こえてきた。

「はい、なんとか」

横島は自分のすぐ側で倒れて気を失っているタマモに近寄り抱き寄せた。

「おそらく急激な力の上昇に耐え切れなかったのじゃろう。気にせんでもすぐに目を覚ます」

「よかった・・・それにしても何でこんなに奴らの死体があるんだ?」

「おそらくじゃが、奴らは儂等のあの空間を察知できるようになったんじゃろう。まぁ今では壊れてしまったからどうでもいいことじゃな。じゃがもうここも先ほどの霊圧のせいでどんどん追っ手が来るじゃろう。お主は嬢ちゃんを連れて早くここから立ち去るんじゃ」

「わかった。でも老師はどうするんですか?・・・・・・・・・っ!?」

横島は猿神の言葉に自分はいかないようなニュアンスから不思議に思い声のする方向に向き直った。
そしてそこで目にしたのは口から血を垂らし、片目を失い、そして右胸から左の腰までしか上半身が存在しないいつ死んでもおかしくない猿神の姿だった。

「ろ、老師!!・・・どうしたんですか!!!???いま文珠で直します!」

「する必要はない。どの道血を流しすぎた。例え傷が直ろうとも流れた血と、砕け散った霊基構造は戻ってこん」

「でも・・・!」

「いいから聞くんじゃ。横島はこれからタマモと生き抜いていく。決して自ら楽な道には進もうとするんじゃいぞ。もともと横島一人の身体ではないのじゃから当然だとは思うがの。それに儂の見たところタマモとの繋がりが一般的な眷属とは違いかなり深い。横島が死んだ場合最悪タマモも消滅するやもしれん」

今にも消えて無くなりそうになりながらも決して言葉を途切れさせない猿神に横島は鬼気迫るものを感じながらもどこか斉天大聖と呼ばれたこの人なら不思議ではないと感じた。

「なんで、今更そんなことを言うんですか!?俺は・・・」

「なに。横島にはタマモがおるのじゃろ?だったら彼女に呆れられないようにすればいいだけなのじゃから楽なもんだろうに。・・・・・・でも、もし本当にどうしようもなくなってしまったら。そのときに少しでも何かに可能性を見出したいのなら・・・横島に儂の知る言い伝えを教えよう」

「老師・・・何を、何を言っているんですか・・・?」

「遺言じゃよ。それ以上でも、それ以下でもない。さすがの儂もそろそろ限界のようじゃから一度しか言えん。よいか・・・?」

横島が何も言わないのを確認して猿神は言った。

「《この世はとても広い。そう感じている者は真に幸せな者たちだ。この世は狭く、小さい。私はそれに気付いてしまった。私は時々自分の行動が理解できないことがある。何故だろう。他の者に聞いても皆そんなことはないという。だが私は知っている。そう言っている者の何人かは私にはその者が行ったとはとても思えない行動をしているのだということを。あるとき私は己の想像のみで書き上げたという書物に出会い、読んだ。そして理解した。この私の言葉を周りに伝えるのはとても困難である。既に私は過去数回皆に伝えようとした。しかしそのたび邪魔が入って伝えることが出来なかったのだ。私は分かった。この邪魔こそが元凶であり、全ての始まりなのだと。もしこの私の言葉が伝えられるとしたらそれはまさに全ての元凶にとっては失策であり、そして希望となるであろうことを。・・・つまり世界とは・・・。》・・・ここで終わりじゃ。儂にはよく意味が分からんかった。じゃが、なぜか今ここで横島に伝えないといけないことだと思ったのじゃよ」

「老師・・・」

「もう儂は逝く。タマモには横島から言っておいてくれ。・・・・・・ではな」

そして猿神は静かに息を引き取った。



横島は何処か焦点の合っていない目をしたまま優しくタマモを寝かせ、二度と動くことのない自分の師に寄っていった。
上半身しかない猿神の前に膝を着き手を伸ばして触れようとするが、寸前で怖くなり手を引いてしまう。
そんなことを何度か繰り返していたが、ようやく頬に触れることが出来た。
今度はその冷たさにショックを受けるが、今度は手を引くことなくそのままの体勢で顔を俯かせた。

「ぅ・・・うあぁ・・・あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

横島は叫んだ。
その瞳にはとめどなく涙が零れ落ちていく。
その心には嘗て師が言った、言ってくれた沢山の言葉が溢れ出てきていた。
横島の叫びは止まることなく、聴く者がいたらその声のあまりに多く含まれている感情に押しつぶされてしまうだろう。

いつの間にか泣き止み、静かになった横島はタマモの元に戻った。
そして寝かせたときと同様に優しく抱き起こし、その場からどこかへ飛んで行ってしまった。







運よく神族にも魔族にも見つかることなく、まだ相手に見つかっていない霊的濃度が高い地域で文珠による結界を張ってタマモを横にした。

タマモは一向に目を覚ます気配はなかった。
突如急激に上昇した己の霊力を魂魄に馴染ませるためだと思うが、詳しいことは横島には理解できなかった。
ただ、気持ち良さそうに眠っているタマモを見ることで、横島は徐々に冷静さを取り戻していった。

「タマモ・・・遂に俺達の仲間は俺とお前の二人だけになっちまったな」

「何処で間違ったんだろうな・・・本当に」

「今お前はどんな夢を見てるんだ?その夢には誰が出てきてる?・・・なぁタマモ、教えてくれないか」

何かをやっていないと気分が滅入ってくるのだろう、横島はとりとめもないことをずっとタマモに話しかけ、タマモが目を覚ますのを待っていた。

しかしタマモは一向に目を覚まさぬまま時が過ぎ、ついに運命の日がやってきたのだった。





「タマモ・・・なんで目を覚ましてくれないんだ。もう世界はめちゃめちゃになってしまったけど、それでもまだ綺麗なところはほんの少しだけど残ってるんだぞ」

だから早く目を覚まして一緒に見に行こう。・・・もう二人きりになってから三度目の夜が明けた日のこと、横島は昨日と同じように声を掛けていた。
しかし、横島は此処ままでもいいのかもしれないという考えも思っていた。
たとえタマモが目を覚まさなくても自分と一緒にいるのだから寂しくはないと・・・。

文珠でタマモの状態を初めて夜を明かした日に調べてみたが、魂魄も落ち着いており霊力もほぼ全快していることが分かっていた。
いつ起きてもおかしくはないのだが・・・・・・・・・タマモは一向に目覚める気配を発することはなかった。

そして今日、横島がいつものようにタマモの身体を綺麗にしようとタマモを抱きかかえて側に流れている小川に向かおうとしたとき、横島は感じてしまった。

「!?・・・・・・ついに此処も見つかってしまったらしいよ、タマモ。でも安心していい。絶対にお前は俺が守るから」

そして横島は自分の文珠で結界を創りタマモをそれに保護すると、外に大きく張っていた巨大な結界を破って降り立ってくる神魔族に向かい合った。

「さて、生憎これからしないといけないことがあるから、お引取り願いたいんだけどな」

「そういうわけにもいかんのだよ。これも宮使いの悲しい運命というやつでね」

そう言って神族の後ろから割って出てきたのは裸同然の和服の肌着のような物のみを身に着けた一柱の女神だった。

「随分お久しぶりですね・・・・・・大竜姫様」

「そうなるな。最後に会ったのが小竜姫の最期のときだったからからな。もう百年以上も会っていなかったことになるな」

「そんなですか・・・あれはまだほんの二、三日前に起こったことのように思えます」

「そう言ってくれると私も嬉しい。・・・が、やはりそれだけでは治まりそうにもないのだよ」

「怒り・・・ですか?」

「それもあるだろう。だが悲しみや痛み、そういったものが今もなおくすぶり続けている」

「そうですか・・・」

「あいつの決めたことだから私は何も言うことはできん。しかし納得は出来ない」

「わかりました。でもいいんですか?」

「ん?何がだ」

「そんな格好をしていても、もう俺には通じませんよ」

そういって緩く口元を吊り上げる横島に対し大竜姫は、

「どれ、本当にそうか試そうではないか」

そう言って全てを恨み切り殺した相手を永久に封じ込める怨嗟の剣「不倶戴天」を抜き構えた。

「周りの者は?」

「私が斃れるまで動くことを禁じているから気にするでない」

「なるほどな」

対する横島も何もない空間に右手を掲げ、左肩から刀を振り下ろす素振りを見せる。
するとそこには闇よりも昏い漆黒の魔剣「蓮螢」を握り締めていた。

「・・・もう一本はいいのか?」

「見たいのなら俺に出させてみたらどうだ?」

「くくっ・・・確かに。・・・・・・・・・では」

「ああ」

そして次の瞬間。二人が立っていた丁度中間の位置で爆発が起こった。

大竜姫の剣はまさに武神と言えるだけのものだった。
その細身から想像もつかないほどの速さで剣を振りぬき、一撃を受けるたびに横島の腕は尋常ならざる悲鳴をあげた。

「くっ・・・剣の通る音があとから聞こえてくる。それに・・・がぁっ!・・・一撃がとんでもなく重いっ!?」

普段は片手で扱っている蓮螢だが、横島は両手で確りと支えていた。あまりにも大竜姫の攻撃が重く、片手では到底支えきれないと感じたからだ。

「そんなのではすぐに殺してしまうではないか・・・もっと私を本気にさせろ・・・」

大竜姫はそう言って目にも停まらぬ速さで剣を振るっていた。

対する横島はなんとか攻守を入れたいと思い考えるが、隙を全く見せない大竜姫の攻撃を防ぐので精一杯だった。
袈裟切り、横薙ぎ、打ち下ろし、刺突。ありとあらゆる斬撃が横島を襲う。
大竜姫の剣を受けるのに限界を感じた横島は受け止める守りから、捌く守りに替えていた。
それでも次第に捌ききれなくなっていき、頬に脇に、傷が増えていき血を流し始める横島。

「はああああぁぁぁぁぁ・・・・・・!!!!」

そして掛け声と共に今まで以上の速度で大竜姫が横島を薙ぎ払った。

何とか蓮螢で受けるのに間に合ったが、その衝撃をまともに喰らってしまった横島は百メートル以上も吹き飛ばされ、その後何度も身体を地面に打ち付けられた。

「があああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!!!!」

地面に打ち付けられてもなお横島は転がり続け、ようやく止まった頃にはさらに百メートル以上も転がってからだった。
そんな横島を見下しながら大竜姫は横島に話しかけた。

「ふん。その程度なのか?他愛もない。所詮はその力もただでかいだけの役立たずか・・・」

一歩一歩ゆっくりと歩みながら大竜姫は続ける。

「横島よ。お前は勘違いしている。霊力や魔力はただ放出したり、一定の形を保つだけではないぞ。自身の文珠、あれがいい例ではないか。もっと力に意味を込めろ。その能力によって何をしたいのか、何を為したいのか、それを籠めるのだ。そうして初めて霊力や魔力はその力の全てを・・・いや時には限界以上の力を与えてくれるのだから。今のお前はただ赤ん坊に銃を持たせているのと変わらん」

ついに横島のすぐ側にまで歩み寄ってきたが、特に攻撃を仕掛けるわけでもなく大竜姫は更に続ける。

「弱い。弱すぎる。そんなだから守りたいものも守れず、その全てがその掌から零れ落ちていく。横島よ、お前は何で私と戦っている?よもや守りたいものの為に・・・とか言うんではないだろうな?そんなことを言って本当に出来ると思っておるのか?出来ないであろうよ。現に今お前は私の攻撃に耐えられずこうして倒れているではないか。たいした覚悟も持たぬまま、そしてその自覚を持たぬままこの先も戦い続けるというのなら・・・今此処で愛刀「不倶戴天」でその中途半端な思いを持ったまま永久に後悔し続けるがいい」

不倶戴天を振り上げた腕が消えた。否、消えたように見えた。
音速を超える速さで振りぬかれた大竜姫のその腕は、しかし振り切れずにその途中で止まっていた。

「・・・ほう、まだそれだけの力を持っておったのか」

大竜姫は追撃をせずに数歩後ろに下がり、自分の剣を止めた男が立ち上がるのを待っていた。

「あれだけ言われれば、嫌でも目が覚めるさ。それに文珠で回復していたのは気付いていたんだろう?」

「確かに霊力を使った消耗戦というわけではなかったからな。では二回戦といこうか?」

「そうだな、だがその前に俺の決意を見せるよ。これが今の俺の思いと決意だ」

そう言って再び右手には蓮螢を作り出し、今度は左手に神剣「蒼竜」を作り出した。

「・・・それがあいつの忘れ形見という奴か・・・・・・美しいな」

「俺にはもったいないくらいだろ?でも、こいつらのためにも俺は誓ったんだ。・・・決して諦めないとっ!!」

言い終わると同時に今度は横島が大竜姫に攻撃を仕掛けていく。
大竜姫ほどのスピードを出すことは出来ないが、その代わり横島は二本を巧みに使い大竜姫の反撃を上手く押さえつけていた。

しかし横島は実際のところ焦っていた。
剣の技術では到底及ばない相手、少しでも距離を取ろうものなら即座に攻撃に転じてきて先ほどと同じく何も出来ないままにやられてしまうだろう。
では文珠ではどうか。文珠を創ること自体は体内でも可能だが、それには多少の集中が必要になる。
大抵の敵なら問題ないが、大竜姫が相手ではそれも不可能だ。
よしんば出来たとしても未だ現界させるには掌を経由するしかない。
両手が魔神剣で塞がれている以上文珠の使用は出来なかった。

だが、それでも横島には一度しか使うことが出来ない最後の賭けが存在した。
二度目は相手も警戒してしまって使えないであろう奥の手の一つだった。
そして横島はそのたった一度の賭けをするために、そのタイミングを外さないために意識を傾けながらもぎりぎりのところで大竜姫と斬り合っていた。

「なかなかいい目をするようになった。・・・・・・少しばかり助言をしすぎたかもな」

大竜姫は途切れることのない横島の斬撃を危なげなく捌きながらも、横島がこの土壇場でも成長していく様を驚く反面嬉しくも思っていた。

「敵対する者としては本来失格なのかもしれないが、小竜姫の思い人だったんだ。このくらいは許してもらわないと・・・それに、なにやら企んでいるみたいだからな」

誰にも聞かれることはなかったが、大竜姫はそうそっと呟きながらも横島が一瞬攻撃に間が空いたのを見逃さずその右手に持つ魔剣蓮螢を弾き飛ばした。

「疲れてきたのか?まぁ、これで残るはその神剣一本だけ。・・・・・・さて、覚悟はいいな」

蒼竜だけになっても果敢に攻め続ける横島に冷たく言い放ち、大竜姫は切り返すために不倶戴天を握る手を確りと握りなおした。

「くっ、俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ!・・・まだ、まだしなければならないことがあるんだから・・・・・・!」

神剣を右手に持ち直し、開いた左手で霊波砲を放ちながらも横島は決して攻撃の手を休めることなく大竜姫に攻めていった。
しかし、そんな攻撃も掌に霊気を集中させて創った壁にやすやすと防がれてしまっていた。

「こざかしいぞ横島。大人しく無様にその屍を晒すがいい!」

霊波砲を防いだときに発生した煙幕に身を隠しながら横島の正面にいきなり現れた大竜姫は、突然目の前に現れた自分の姿を見て哂っている横島を見ながら不倶戴天を振り下ろした。

・・・?

・・・・・・哂っている?

「・・・・・・・・・哂っているだとっ!?」

突如自分の背後に気配を感じたが、自分は既に必殺の体勢だったために回避することが出来ない。
そう咄嗟に判断した大竜姫は少しでも致命傷を避けようと少しでも身体を捻ろうとした。

・・・・・・ザシュ・・・・・・

「か・・・・・・かはぁっ・・・・・・・・・」

丁度右の肺の部分に位置するところから生えている黒い刀を見て、自分に刺さっている物が何なのか理解した大竜姫は哂っていた横島を見た。

「大竜姫は勘違いをしていたてことさ。俺の魔神剣「蓮螢・蒼竜」は元は俺の持つ魔力と竜気で作り上げた、いわば霊刀の一種なんだ。それを自由に動かせるのは当然だとは思わないか?」

「・・・ああ、そうだったな・・・完全に実体化していたからすっかり忘れていたな」

「実際は結構賭けだったんだ。それでもその賭けに全てを委ねようと思ったんだよ」

「何故・・・と聞いてもいいか?」

横島の持つ魔神剣の能力である、対となる属性の種族の力を封じるという能力のせいでどんどん霊力が枯渇していく大竜姫は、もうすぐその限界値に来るのを感じていた。

「何故って・・・そりゃあ大竜姫、あんたに怒られちまったからな」

そう言ってはにかむ姿は、つい先ほどまで死闘をお互い繰り広げていたとは思えないほど優しく大竜姫には感じられた。

「ははっ・・・それはよかった・・・」

そして何処かほっとした様にため息を吐いた大竜姫は、胸に刺さった魔剣をそのままに自分達を取り囲む者達に告げた。

「見ての通り此度の襲撃は失敗に終わった!私も間もなく消滅するだろう。お前達は一旦戻り、上層部に連絡をしてから次の指示を待て!それともお前達は私すら斃した相手に挑もうとでも言うのか?」

すると一人、また一人と飛び立っていき、最終的には横島と大竜姫の二人だけになってしまっていた。

「大竜姫・・・」

「そんな顔をするな。お前にはまだ守りたい者がいるのだろう?・・・・・・ならばすることは決まっている。・・・・・・だろう?」

大竜姫の言葉にはっとした横島だったが、不意に飛びっきりの笑顔を大竜姫に見せた。

「ああ!ありがとう。・・・大竜姫、やっぱりお前は小竜姫の姉だよ。お前と会えてよかった」

「ふん。とっととその守りたい者のところに行け!・・・・・・だがその言葉、ありがたく頂戴しておこう」

再びタマモが眠っているであろう結界の中に戻っていく横島を見ながら、大竜姫は既に存在しない妹に何事か言葉を送ってゆっくりと大地に倒れていった。







―――タマモ

横島は結界内に戻ると、戻る前は寝ていたはずの場所にタマモがいないことに気付いた。

――――――お前が誓ったように俺も誓う

迷うことなく文珠でタマモの位置を「探」し、その場所に向かって飛んでいった。

―――――――――何があっても俺がお前を守るから・・・だから

そして緩やかに流れる川をじっと見つめているタマモを発見して、その隣に降り立った。

――――――――――――いつものようにいつまでも俺と一緒にいてくれ



俺が馬鹿なことを言ってお前がそれに対して突っ込みを入れる。

狐になったお前を俺が膝の上で撫で、お前が気持ち良さそうに鳴く。

俺が近接戦闘をしているときに、後ろから遠距離攻撃で援護をする。

夜は一緒に眠りに落ち、朝も共に目を覚ます。

他にもいろいろしたけれど、これからもずっとそうやっていこう。

そうすれば俺は決してこの世界に絶望することなく、辛くとも生きていけると思うから・・・

だからタマモ・・・

俺をいつものように呼んでくれ。



「―――――――――タマモ―――」

タマモの横に降り立った横島は万感の思いを籠めて呼んだ。

そして呼ばれたタマモは横島の顔を見て一瞬頭を傾げたが、何かに気付きその場で跪いて言った。















「―――――――――はじめまして――――――マスター」















そして物語は世界の終焉へ歩み始めた・・・・・・・・・













せめて絶望のない世界をあなたに〜外伝〜  おわり
第005話へ







あとがきのようなもの

はい。Mirrorです。
ついに完結です。いやー長かった。いろいろと初めてなことが多くて大変でした。
文体がころころ変わったり、日本語が変だったり、とにかくこうして形にしていくことの難しさを実感させていただきました。

本来は一話で終わらせられると思っていた外伝ですが、書くことをちょこっと増やそうと思ったらなぜか六話まで引っ張ってしまいました。

ここで外伝は終わり、更にものすごく長い年月をかけて本編に続いていきます。
もちろん外伝と本編との間にもいろいろと二人の前には数多くの敵が現れてきたはずです。
そして二人の間にもいろいろあったと思います。
ですが、それはこれを読んでくれた読者の皆様が自由に想像してくださって構いません。
きっと彼らはそのように歩んでいったはずですから。

最後にこれを読んでいる方へ感謝を籠めてもう一度ありがとうと言わせて貰いたいと思います。

駄文で、ほんとうに読みにくかったと思いますが外伝を読んでくださって本当にありがとうございました。
引き続き本編も書き続けますので、そちらも読んでくださると嬉しく思います。

それではこれにて「せめて絶望のない世界をあなたに〜外伝〜」を閉じさせて頂きます。



本当にありがとうございました。





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