GS二次小説 「せめて絶望のない世界をあなたに〜外伝〜」



第001話

荒れ果てた荒野、一見何もないように見えるが霊視に長けた者なら気付いたかも知れない。
大きな岩が大地に突き刺さるようにそびえ立っている。
その岩の陰になる空間が時折ラジオのノイズのようにズレ、黒い影のようなものが動くのを確認できる。

「くっ・・・しくったっ!」

右のわき腹を押さえながら一人の男がその痛みに顔をゆがめる。
えぐれた肉体は徐々にだがその男の持つ力によって塞がったが、その傷口からは未だに血が流れ続けている。
しかしその血も現在一生懸命傷口を舐めていてくれる九本の尾を持つ狐によって止まってきた。

「ふむ、無茶をしおる。もうその身体はお主一人だけの物ではないことを忘れたのか?」

そう口にするのは横たわる男とその傷を舐める狐から少し離れ、外の様子に気を配っている一匹の棍棒のような物を手にした老いた猿だった。
その辛辣な皮肉に男・・・横島は一瞬顔を顰めたが傷口から血が止まっても執拗に傷跡を舐める狐の頭を撫でながら言った。

「そんなこと言われなくとも分かっているさ老師。油断したつもりはなかったんだけどな・・・・・・あぁ、もういいぞタマモ。ありがとな」

クーンとそれでも心配そうに自分に甘えてくる狐・・・タマモはその横島の言葉に追随するように猿・・・猿神に文句を言った。

「タダオの言う通りよ!タダオは精一杯頑張ってるわ。それにこの結界だってタダオの文珠が無かったら張れなかったのよ!?」

ポンッと妙齢の美しい女性に変身したタマモに猿神は外の気配を探ることは止めずに横島の方を向いた。
そのまましばらく横島の眼を見ていた猿神だったが、タマモに視線を替えた。

「ふん、そのようなことは既に知っておるわ。単に確認しただけよ。此奴が今生きているのはどうしてか・・・・・・とな」

その猿神の言葉に横島もタマモも猿神が誰のことを想って話しているのか気付いて顔を伏せた。

「・・・・・・・・・すまない。俺がもっと強ければ・・・俺にもっと力があれば小りゅ・・・っ!?」

顔を伏せながら謝る横島に猿神はその言葉を殺気を放つことで無理やり止めさせた。

「驕るなよ小童が!・・・あれは誰のせいでもない。そう望んだのは小竜姫本人だったと言ったはずだ。お主もそのことについては既に了承ずみだったはず」

「ああそうさ!今もこうして胸に手を当て集中すれば彼女のことを感じることも出来る!!だけど・・・どうしても考えてしまう俺がいるんだよっ!!」

タダオ・・・タマモはそう言って優しく横島の頭を自分の胸に抱き背中をゆっくりと擦った。
猿神はそんな二人の様子をどこか悲しげに見守りながら過去の思い出に思いを馳せた。





現在横島たちはその命を狙って襲ってくる神魔族から逃亡していた。
その直接の狙いは横島ただ一人。しかしそんな横島を殺させないように横島を守ろうとする神魔族もいた。
横島を狙う理由は横島という存在の在り方にあった。かつてアシュタロスが反乱した際に横島はルシオラという一体の魔族と出会い恋に落ちた。
その恋は結局は叶わなかったのだが、彼女は横島の身体に置き土産を残していった。
それは彼女そのものと言って過言ではないモノ・・・・・・霊基構造だった。

横島はそのことで苦しんだ。小竜姫やヒャクメなどの話から自分の子供としてならルシオラの転生も可能性があるということだったが、はたして自分はそれで納得するだろうかと考えるようになった。
例え運よく結婚することが出来て、愛する女性が新しく出来てもその生まれてくる子供は嘗て自分が愛した女性の生まれ変わりであるかもしれない。
それは結婚した相手をただの道具にしているのではないか。・・・・・・そう思っていた。

そしてその悩みから結局開放されること無く時間だけが無常にも過ぎていった。
タマモが美神除霊事務所にいついたり、美神美智恵に新しくひのめという子供が生まれたりした。
しかし横島は自分も何か変わらないといけないと考え、先の大戦から一年後から五年間美神に暇を貰い妙神山で修行することにした。
修行は前に猿神が横島や雪之丞に提供した時間の流れが違う空間で行い、横島の体感した時間でおよそ十倍の五十年間修行していた。
元々霊能の基礎なんていうものも学んでいなかったことから、横島は基盤をしっかりと作り直すことでその実力をメキメキと伸ばしていった。
また横島は特定の武術を学んでいなかったことから小竜姫は猿神に武術を教えようと提案するが、それだと数多の戦いで身につけた形に囚われない戦法という横島の長所を潰してしまうと考え、結局武術に関してもあくまで基礎のみとして、横島のスタイルを崩さないようにした。

修行を始めて十年後、横島は多少のハンデを貰いつつも小竜姫、猿神、パピリオと同時に戦ってもなんとか勝てないまでも引き分けになら持ち込めるまでとなった。ただし猿神についてはほとんど手加減してもらっていたが。





横島は五年間という間美神たちと連絡を取っていなかったことから、一度途中経過ということで美神たちと会うことにした。
しかし意気揚々と美神除霊事務所に挨拶に行こうと道を歩いているとき、たまたま会ったマリアに言われた一言に横島は愕然とした。

「お久し・ぶりです・横島・さん」

「おー、マリア。久しぶりだな。カオスのじじぃは元気か?」

「イエス・ドクター・カオス・元気です。・・・ところで・横島・さん」

「なんだ?なんか悩みでもあるのか?俺でいいならいくらでも聞くぞ」

「ノー・違います。マリア・横島・さんに・質問・あります」

何でも聞いてみろ。と胸を叩く横島にマリアはその一言を言った。

「何故・横島・さん・最後に・会った・ときと・同じですか?」

「・・・ん?どういうことだマリア。意味が分からんぞ?もう少し詳しく説明してくれ」

「イエス。横島・さん・最後に・会ったの・五年前。でも・外見的特長・身長・体重・変化・有りません。・・・これ・横島・さん・年齢・考えて・不可解・です」

「!?・・・・・・マリアもう一度説明してくれないか?」

マリアに言われたことの内容を理解しようとして失敗し、もう一度横島はマリアに説明を求めた。
しかしマリアから伝えられた内容は変化することなく同じだった。

横島はマリアに別れの言葉を告げると美神のところに行くのはやめ、急いで近くの公園の公衆便所にある鏡に自分の顔を映した。

「・・・・・・ははっ・・・どういうことだよ、これは・・・」

鏡に映っていたのはまだ年端もいかぬ生意気そうな青年の顔。それは横島の記憶が正しければまだ高校生だった頃の横島だった。

「そうだよ・・・よく考えてみればおかしいじゃないか・・・俺はあそこで五十年過ごしていた。なのに老けることも無かった」

妙神山で修行してしていた空間。それは時間の流れを変え、より少ない時間で多くの時間を得るための空間。
そして横島はそこに精神体ではなく肉体ごと入っていた。普通であればその空間で過ごした時間だけ横島の身体も時を刻むはずである。
しかしそれがない・・・横島は考えた末一つの結論に達した。

「・・・・・・なんだ、つまり俺は人間じゃ無くなったってことじゃないか・・・」

横島はこのことを美神たちには告げず、また挨拶をすることも無く妙神山に戻り恐らく気付いていたであろう小竜姫たちから話を聞くことにした。



妙神山に戻った横島を出迎えたのは沈痛な顔をした猿神にヒャクメとパピリオ。
そして横島の胸で泣きながら謝り続ける小竜姫だった。

詳しく話を聞くということで、横島たちは小竜姫が落ち着つくのを待って客間に足を運んだ。
全員が座り、落ち着いたのを見計らってヒャクメは説明しだした。

「今横島さんに起こっている現象を一言で言うと「魔族化」なのねー」

「魔族化?」

「そうなのねー。ルシオラさんの霊基構造が横島さんの霊基構造と癒着を始め、その結果その霊基構造によって横島さんの身体の造りも変わっちゃってきてるのねー」

「俺とルシオラの霊基構造が癒着・・・?」

「今まで横島さんの身体を構成してきたのは横島さんの霊基構造だったのねー。そして横島さんの霊基構造が少なくてその分を補っていたのがルシオラさんの霊基構造なのねー。それは前に説明したと思うのねー」

「あぁ、それは聞いた覚えがある」

「よかったのねー。そのくらいは横島さんでも覚えていたのねー」

「ヒャクメ!余計なことは言わずにきちんと説明しなさい!!」

ヒャクメの話が脱線しそうになると、落ち着きを取り戻した小竜姫が神剣の鯉口をずらしながらヒャクメに言う。

「わ、分かったのねー。だから神剣を収めて欲しいのねーー!」

小竜姫は短気なのねー、だから胸が成長しないのねーとぼそぼそ言うのを神剣を首に持っていくことで黙らせ続きを言うようににこやかに微笑みながら小竜姫は言った。

「何か言ったかしら・・・ヒャクメ?」

半分泣きながら首を横にぶんぶんと振るヒャクメをため息とともに開放する小竜姫。

「それで、続きはどうなったの?」

「そ、そうなのねー。ただ、横島さんの霊基を補っているだけなら良かったんだけど、事情が変わってしまったのねー」

「それが霊基構造の癒着なんでちゅね?」

パピリオがヒャクメの言葉に答え、ヒャクメは頷く。

「横島さんの霊基構造は当たり前だけど人間という種の霊基構造なのねー。そしてルシオラさんの霊基構造は魔族という種の霊基構造なのねー。そして人という種と魔族、神族といった他種との霊基構造では力というか存在する次元が違うのねー。魔族、神族の方がより高次的な存在なのねー」

ヒャクメの言うことのほとんどはいまいち分かっていないが、それでも横島は何とか理解しようとして先を促す。

「だからより高次的な魔族の霊基構造は人の霊基構造を取り込もうとし始めたのねー。でもルシオラさんの想いが強かったのか分からないけど、取り込むのではなく共生しようとし始めたのねー。もし取り込もうとして人としての霊基構造が取り込められていたら、今頃横島さんはすでに魔族になってしまってるのねー」

「共生・・・でも、それなら俺は魔族にならなくてすむんだろ?」

「確かにその通りなのねー。でも魔族にはならないだけで、魔族よりの身体になってしまったのねー。つまり、癒着をしたことによって人としての特性と、魔族としての特性を持ってしまったということなのねー」

だから正確には「魔族化」ではなく「人魔化」と言った方がいいかもしれない。というヒャクメの言葉を遠くで聞きながら、横島は思ったことを言った。

「じゃあ・・・あの俺の子供がルシオラの生まれ変わりになるという可能性は・・・・・・どうなったんだ?」

その言葉に横島を除く一同ははっと息を呑み、気まずそうな顔をした。
そして横島はそんなみんなを見てその答えを簡単に予測することができた。

「そうか。無理・・・なんだな」

そう言った横島の声はとても寂しく聞く者のの心に突き刺さった。

「ごめんなさい横島さん。・・・・・・あのときそんな予想を言わなければ・・・」

そう膝の上で握り締めた拳を見つめながら言う小竜姫に横島は言った。

「謝らないで下さい、小竜姫様。むしろどちらかと言うとほっとしているんですよ・・・」

そして横島は今まで自分が閉まっていた気持ちを口にした。

「・・・・・・そうだったんですか」

小竜姫はそんな風に考えていた横島に気付かないでいた自分を叱ってやりたくなった。

「ヒャクメ。それで今の俺の身体はどうなっているんだ?」

「人として身体を持ってしまっていて、二種類あった霊基構造が切り離せないほど癒着してしまったから霊基構造が子供に移動することが無くなったのねー。もともと肉体を持つ人は霊基構造を簡単に切り貼り出来ないから当たり前と言えば当たり前なのねー。そして魔族としての霊基構造から得る影響というのが寿命という概念の消去。つまり外的要因以外では死ななくなったということなのねー」

「そうか・・・肉体を持っているからルシオラを復活させることも出来なくて、魔族としての力があるせいで年を取ることもできないってことか・・・随分中途半端な存在になっちまったんだな」

「それと、霊基構造の癒着によって身体が造り変わったといったけど、それによって変わったことも言うのねー」

横島は黙ってヒャクメの言葉をまった。

「まず、体内外での耐久力が上がったのねー。これによって普通の人間では耐えられないほどの霊力でも扱えるようになったのねー。そして視力や腕力などが強化されたのねー。そして、癒着した霊基によって霊力、魔力の両方が扱えるようになって、その二つが互いに共鳴しているのねー」

横島はヒャクメの難しい言い回しを何とか自分なりに解釈し、ヒャクメに確認した。

「つまり、強くなって霊力以外にも魔力が使えるようになったんだろ?」

「身もふたも無いのねー」

ヒャクメが言うには横島は最大で既に三千マイト程あるらしいが、横島には実感できていない。
本来の人間ではここまで大きな霊力をその身に宿すことはできない。
美神美智恵がアシュタロス戦で見せた空母での攻撃では七千マイトあったが、あれは自分の身体にそれだけの力があったのではなく魔方陣によって集め、それを溜めることなく打ち出していたから平気であったのだ。
横島が三千マイト程の霊力に耐えられるのは肉体が作りかえられていたからである。
また、実感できないのについても、それは今までの霊力に体が慣れていてそこまで高い霊力を出す方法を知らないからだ。

「随分と軽そうに言うが、もう純粋な人ではなくなったのだぞ?」

横島が以外にもあっけらかんな態度に少々疑問に思った猿神は横島に聞いた。

「俺は俺らしく。アイツが俺に言ってくれたことだ。俺の身体がどれだけ変わろうが俺の意識があって、俺の考えで俺が行動できるのであればアイツを裏切ったことにはならないだろ?・・・それにもう二度とアイツに会うことは出来なくなったけど、アイツは俺の中に確実に存在することは確かだしな」

「ふむ。お主がそう言うならワシは何も言わん。だが、どうするのだ?このことは美神たちには言わないでおくのか?」

「いや、折を見てちゃんと話すさ。でもその前にこの身体に慣れてからにしようと思う」

そして横島に起こった現象は周りの者たちの反応に比べ、本人が特に気にしていないことからそのままうやむやの状態で終わった。

それから一年後、横島の感覚では十年後ようやく魔力の扱い方にも慣れ横島は美神たちに今の現状を報告することにした。
魔力についてはパピリオの助力があったおかげでかなりスムーズに修行は進み、文珠に二つの文字を入れることが出来る双文珠についてもなんとか使いこなせるようになった。





事務所に向かう前に電話で知らせておいたため、事務所に着いて所長室の扉を開けたときに嘗ての仲間達が皆そろっているのを見て横島は思わず涙が出そうになった。
それとは逆に横島が六年ぶりに姿を見せに帰ってくると聞いて美神の事務所に顔を出した連中は、横島が扉を開けて姿を見せたときにその六年前と全く変わっていない容姿を確認して固まった。
しかし、それでもなんとか一番初めに活動を再開したのはやはり一番付き合いが長かった美神だった。

「ちょ・・・ちょっと横島クン。どうしたのそれ・・・?全然変わってないじゃない」

「あ〜・・・・・・なんというか・・・ですね・・・。ぶっちゃけたこと言うと・・・」

「・・・・・・・・・・・・言うと?」

「俺、半分魔族になっちゃいましたーーーっ!!」

その言葉に再び凍りつく美神とその他。
今度は美神もなかなかこちらに戻ってこない。そこで横島はため息を着いてから行動を起した。

「美神さ〜〜ん!!今まで会えなかった分、今日会えた喜びをその体で受け止めてーーーっ!!!!」

横島は天井すれすれまで飛び上がり、美神のその抜群のプロモーションの身体に飛び込む。
しかしあともうちょっとというところでそれは叶わなかった。

「何しとるかおのれはーーー!!!!六年経っても結局それかーーーーーーーっ!!!!!」

「ぎゃぁーーー!!しかたなかったんやーーー!!!!勝手に体が動いてしまうんやーーーーーー!!!!!ああっ!でもなんか懐かしい〜〜〜!!」

頭からどくどくと血を流しながら美神の折檻を受ける横島の顔は何故か輝いていた。
美神も六年ぶりの突っ込みにその表情はどこか満足そうだったとのちにおキヌちゃんは言った。
そんないつもの光景に固まっていた面々は活動を再開し、横島に再会の挨拶をした。



それぞれとの再会も済ませ、横島から現状を聞かされた集まった人達はそろって表情を暗くした。

「おいおい、みんなそんなに気にしないで下さいよ。当事者の俺が気にしていないんですから」

横島はそんな皆を元気付けるように軽い調子で言った。

「でも横島さん。これからどうするんですか?」

おキヌちゃんは横島の現状を聞いて思った。もしかしたら横島はこの事務所から出て行ってしまうのではないかと。
そしてそれは現実となる。

「うん。いくらおれ自身が騒ぎを起さなくても半分は魔族だからね。どうしても問題になるだろうから妙神山で暮らすことにしたよ。あそこなら何かと融通が利くからね」

妙神山と聞いて小竜姫と何かあったのではないか。と深読みした者のいたが、横島からは特にそんな感じは受けない。

「まぁ、そういうわけです。美神さん、今まで本当にありがとうございました。たまには俺に会いに妙神山に来てくれると嬉しいです。・・・・・・・・・それでは失礼します」

仕事で来られなかった隊長とひのめちゃんにもよろしく言って置いてください。とそういい残して横島はさっさと事務所から去って行ってしまった。

「・・・・・・おい、美神の旦那。いいのかよ放って置いて。あの感じからしてマジだぜ?」

「そうですジャー、もう横島サンと会えなくなるのは嫌ですジャー!」

雪之丞とタイガーは横島を追おうとするが美神はそれを止める。

「アイツがマジなのは分かってるわよ!・・・でもあんな眼で言われたら止められないじゃない。私だって・・・・・・」

最後までは声が小さくなって聞こえなかったが、美神は顔を上げはっきりと言った。

「丁稚の一人や二人いなくなっても全然平気よ!それにべつに一生会えなくなる訳じゃないでしょ?アイツは妙神山にいるっていったんだから。・・・さぁ、もう皆ここにいる用事は無くなったでしょ?さっさと出てく!ここは私の事務所、美神令子除霊事務所なのよ?用がないなら帰ってちょうだい。それとも除霊の依頼でもあるのかしら?」

その言葉に雪之丞をはじめその場にいたほかの人達、タイガー、エミ、巣鴨、ピート、冥子、カオス、マリア、小鳩、魔鈴はまさか美神がそんなことを言うとは思わず美神の顔を見るが、それも美神の顔を見て考えを改めゆっくりと事務所から出て行った。

「・・・拙者、先に部屋に戻っているでござる」

美神のとこで預かっているシロも尻尾がシュンと垂れ下がりとぼとぼと自分に用意された部屋に引き上げて行った。

「私も部屋に戻りますね。・・・タマモちゃんはどうする?」

「私ももう少ししたら部屋に戻るわ」

扉に手を掛け部屋から出ようとしたおキヌちゃんは、まだ部屋に残っているタマモに声をかけそれじゃあお先にねという言葉を残して部屋から出て行った。

所長室に残っているのはじっと美神のことを見ているタマモとその見られている美神だけになった。

「・・・・・・で、泣くほど行かせたくなかったならどうして思ったとおりに行動しないのよ?」

「っ!?・・・泣いてなんていないわ。それより今日はもう仕事もないからとっとと寝たら?」

頬に感じる物を手の甲で拭って美神はタマモに言った。

「・・・・・・・・・はぁ、ねえちょっとグチに付き合ってくれる?」

とうとう根負けして美神はタマモに語った。

「アイツはさ、優しいのよ。それも底抜けに・・・自分のことよりも先に守りたいものを優先させるの。もういやんなっちゃうでしょ?アイツが・・・横島クンが側にいるだけで何とかなっちゃう気がするのよ」

「ヨコシマがいるだけで?」

「そう。横島クンがいるだけで。そういえばタマモは世間では核ジャックとか言っている事件の真実は知ってる?」

「ああ、あの事件のこと?何?核ジャックじゃなかったの?」

タマモが知らないと言ったので美神はどうしようか悩んだが、結局話すことにした。

「これから話すことはトップシークレットになってるからシロに聞かれても答えちゃダメよ?それを条件にあの時本当は何が起こったのか教えてあげるわ」

タマモは突然の展開に驚いたが、聡明な彼女はそのことをしっかりと認識した上で頷いた。



話し終わったときタマモはどこかで納得している自分を見つけていた。

「あぁ、だからアイツたまにあんな似合わない表情しているときがあったんだ・・・・・・だから私は・・・」

「まさかタマモに話すことになるなんて思ってもみなかったけど・・・どこかで誰かに聞いて欲しかったのかもね」

そういうと美神は少し眼を瞑ったあと、再び続けることにした。

「横島クンの霊力の源って煩悩ってことになっていたけど、本当は違うと思ってるのよ・・・」

「そうなの?私としてはやっぱり煩悩って気がするわよ?」

「確かに煩悩によって霊力が回復したり増えたりしていたけど、それはあくまで一時的な物・・・横島クンが本当に本気になってピンチを切り抜けてきたときはいつも誰かを守ろうとしたときだった」

そのことを思い出しているのか美神の口調がどこか優しさを含んでいるのに本人は気付いているのだろうか?

「それで?結局何が言いたいわけ?」

「今日、会った横島クンね・・・そのときの表情をしてたのよ。誰かを守ろうとしたとき・・・きっと横島クンが選んだ道っていうのは私達を巻き込まないため・・・だからそれを知っている私は彼を止めることが出来なかった」

「そう。美神が言いたいことは分かったわ。でも結局は諦めるってことでしょ?」

「・・・そうね。そうなっちゃうのかな?」

そして美神も部屋から出るために席を立ち扉に向かっていった。
美神が部屋から出ようとしたときタマモは尋ねた。

「ねぇ、人間の言葉で初恋は実らないってあったけど・・・美神の場合はどうだった?」

「そうね・・・・・・








       ・・・・・・聞かなくても分かるでしょ?」

そしてタマモひとりだけ残して扉は閉まった。



部屋に一人残ったタマモは強い意志の眼を窓の外に向け口を開いた。

「馬鹿でスケベで鈍感で・・・・・・そう思っていたのはヨコシマの本質を見ていなかったからか」

これじゃあ傾国の美女と言われた私の人を見る眼っていうのも曇ったのかな?っと思ったりしながらタマモは人工幽霊一号に話しかけた。

「ねぇ、人工幽霊一号!妙神山までの行き方教えて欲しいんだけど」

アイツを見ていつも感じていたあのイライラの正体が今分かった。
人工幽霊一号が教えることをメモ用紙に書き取りながらタマモはすっきりしていた。

「自分が気に入った男がうじうじ悩んでいるのが、自分以外のことで悲しそうな顔をするのが許せなかったんだ・・・」

だからイライラしていた。着替えは用意せず、今持てるだけのお金を用意してタマモは扉を開け廊下に出た。

「私は金毛白面九尾狐の生まれ変わり、タマモよ!私は欲しいと思った男は絶対に逃さないんだから!!」

そして事務所の玄関を開け放ち、人工幽霊一号に行ってくるわ。と挨拶をして彼女は颯爽と一歩外へ踏み出した。









「待ってなさいよ!ヨコシマ!!」







つづく
第002話へ







あとがきのようなもの

はい、外伝の第001話です。
本当はこんなんじゃなくてもっと短くスマートにしたかったんですが、なぜかこんなになってしまいました。次回は一気に時は進むのかな?って思います。もしかしたらまた脱線して長々と書くことになるかもしれませんが・・・

少々話しの展開として無茶な場所が多々あると思いますが、出来る限り無視して欲しいです。
こんなの美神令子じゃない!って思ってる人・・・私も書いてて思いました!・・・ダメジャン!!

今回書いてて思ったこと。マリアは何処で区切ればいいのかよく分からない。セリフだけだと誰が誰だか分からなくなる。どうやらMirrorは大人数が出てくるとそいつらに喋らせることが出来ない。といったところです。
よく、その場にいるキャラ全てにセリフを与えている人がいますが、その人達を私は尊敬します。

ではまた次回のあとがきのようなもので会いましょう。





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