GS二次小説 「せめて絶望のない世界をあなたに」
第014話
せみの鳴き声がその会場を包んでいた。
その会場で行われているのは、年に一度しか開かれず、合格者も参加者数百名で毎年三十二名のみという最難関な物だった。
GS資格試験―――――――――
そこに鏡耶は参加していた。
周りを見渡すとまだ高校生を卒業したばかりと思えるくらいの者から高齢者まで、また男性から女性までまさに老若男女といったところだった。
鏡耶はぼーっとした感じで会場の舞台となる建物の壁に寄りかかって他の参加者を眺めていた。
そんな鏡耶を周りの者は特に気にしていなかったが、それもある人物が鏡耶に近づいていったことで無くなった。
「あんたが来るなんて聞いていなかったがな・・・どういうつもりだ?」
鏡耶が近寄ってきた女性・・・・・・六道冥那にそう言うと、冥那は少し困った様に鏡耶に返事をした。
「どういうつもりもなにも〜君影君の応援に来ただけよ〜〜」
その答えを訝しげに想ったが、ここでそれを言っても仕方ないと想い鏡耶はため息を吐いた。
「まぁ、俺の邪魔さえしなければいい。それとあまり俺に話しかけないでくれ。ただでさえあんたは有名人なんだからな」
「・・・・・・わかったわ〜。ちょっと残念だけど応援席で静かにしてるわね〜」
「そうしてくれるとありがたい。それじゃあそろそろ一次試験が始まるから俺はもう行くぞ?」
「君影君に言うのは野暮かも知れないけど〜、負けないでね〜」
その声を背中に受けながら鏡耶は自分の番号を呼んでいる係員の方へ歩いていった。
「32番、35番、36番は合格だ!呼ばれたものは係員の指示に従って二次試験が始まるまで休憩を取ってくれていいぞ!!」
試験官の声が会場に木霊している。一次試験を突破した者はガッツポーズをしたり、叫んだりしていたが、突破できなかった者は肩を落として出口から出て行っていた。
「――――――ばん、―――番!46番の選手の方はいましたらこちらにお越し下さい!」
「おっと、呼ばれてる。―――はい!46番は俺です。遅れてすみません」
鏡耶は自分の番号、46番が呼ばれているのを聞いて係員の指示に従って自分の試験を受ける台座の上に立った。
一次試験は霊力の測定である。はっきり言うと鏡耶が落ちることは無いのだが、ここであまりに大きな霊力を放出してGS協会や陰陽寮に目を付けられる訳にはいかなかったので、鏡耶はどの位の大きさにすればいいか悩んでいた。
「(どうするか・・・周りで一番大きな奴よりほんの少しだけ大きくするか)」
そんなことを考えながら鏡耶は、他の受験者が必死に霊力を放出させようとしているのを横目に見ながらその中で一番大きい霊力よりほんの少しだけ大きく霊力を調節して難なく一次試験を突破した。
鏡耶が合格を言い渡されている頃冥那は、二次試験を何処で見ようか二次試験会場の観客席をぶらぶらと散歩していた。冥那は鏡耶が一次試験で失格になるとは全く思ってはいないらしく、二次試験で見られるであろう鏡耶の勇姿を想像したりしていた。
「六道女史」
冥那は自分に呼びかける声を聞いて足を止めた。そもそも自分のことを女史と呼ぶ人間は少ない。
その少ない人間の中でもこの声の主は冥那にとって信頼できる数少ない存在でもあった。
「あら〜、お久しぶりです会長〜」
「まぁ、つい先日電話を貰ったがこうして会うのはあのモグリのGSについて話し合ったとき以来だからそうかも知れんな」
「今回の件についてはほんとにありがとうございました〜。それで今日はどうしてここに?」
「いやな、六道女史がわざわざあのような無理な注文をするとは驚いてな。その件の人物を見に来たのだよ」
それに、私は表彰式に出席をしなくてはいけないのでね。
GS協会会長はそう言ってしばらく冥那との会話をしていた。
しばらくして冥那は二次試験が始まってから観戦する場所を決めてそこに座ってGS協会会長と話していたが、最近では気になってしょうがない霊圧を感じるとそちらの方に顔を向けた。
「君影君、一次試験は終わったの〜?」
「ああ、何とか無事に通過することが出来た。二次試験は午後からだからお昼を食べようと思ったんだが、冥那が来ていることを思い出してな。どうせなら一緒にどうかと思っていたんだが・・・邪魔だったか?」
鏡耶はそう言って視線を冥那からGS協会会長にずらした。
彼は目の前に現れた少年があのモグリのGSということに気付いたが、それよりも冥那がとても嬉しそうに少年と話す姿を見て驚いていた。
「ああ、私は邪魔なようだからこれで失礼するよ。君は一次試験を突破したんだろ?その調子で二次試験も頑張ってくれたまえ」
GS協会会長はそう言葉を残して本部テントに向かって去っていった。
「なにやら気を使わせてしまったようだな。冥那、彼がGS協会の会長なのだろ?」
GS協会会長が去ってしばらくしてから鏡耶は冥那に声をかけた。
「そうよ〜。ああ見えてかなりのやり手なのよ〜。それに考え方も今よりだから最近のGS協会上層部では珍しくいい人材なのよ〜」
冥那は先程まで一緒にいた人物について簡単に説明した。
「彼がいなかったら今回君影君から頼まれていたことは、どれも達成できなかったかもしれないわ〜」
「そうだったのか。では次に会ったときは是非お礼を言わないといけないな。・・・・・・で、昼だが、どうする?もうすませたのか?」
話はこれで終わりという風に切って、ここに来た目的をもう一度冥那に伝える鏡耶。
それについて冥那の返事は決まっていた。なんとなく誘ってくれることを期待している様だったと後に冥那の警護をばれないようにしている者達は思ったという。
午後、GS資格試験二次予選――――――
厄珍と実況が突っ込み漫才を披露しているころ、冥那との食事を済ませた鏡耶は二次予選のトーナメントを確認するためにラプラスのダイスを振る場所に来ていた。
「まぁ、分かりきっていたことだが・・・それほど強い奴はいないようだな。これならわざわざトーナメント表を確認するまでもなかったか」
鏡耶と同じような考えを持ってトーナメント表を確認してきた他の二次試験出場者を見ながら、そんな独り言を口にしていると後ろから冥那が話しかけてきた。
「あら〜そんなに余裕ぶってると足元をすくわれるかも知れないわよ〜」
「ん?冥那か。どうしたんだ?てっきり既に観客席の方へ行っているものだと思ったんだが」
どうして冥那がこんなのところにいるのか不思議に思い鏡耶は尋ねた。
「私が何処にいようといいじゃないの〜・・・それともこんなおばさんと一緒にいるのはいやなの〜?」
どこか悲しみを含めた言葉に鏡耶は少々慌てながらも冥那に思ったことを言った。
「いや、それは違う。俺の言い方が悪かったみたいだな。・・・俺も冥那と話をしているのは好きだ。なかなか俺と話がまともに出来る人間っていうのがいなかったからな。それにさっきの俺の発言に関してはただ疑問に感じたから言ったまでで、特に他意はないからそう悲しそうな顔をしないでくれ」
鏡耶はわざとなのか無意識なのか、途中から冥那の頬に手のひらを当てながら穏やかな表情で言って聞かせていた。
これを逆にされた冥那は自分でも顔が赤くなっていくのを感じたが、周りから感じる好奇の視線のおかげでなんとか理性を保つことに成功していた。
「・・・・・・・・・どうやら抽選も終わったみたいだな。もう試合が始まるから冥那は観客席に戻った方がいい」
鏡耶は今までのがまるで無かったかの様に平然としてそう言い、まだ顔を真っ赤にしたまま目が虚ろになっているままの冥那をそこに置き去りにして試合会場に向かっていった。
ちなみに冥那が正気を取り戻したのは鏡耶の試合が始まる直前で、鏡耶の試合に間に合ったことに安堵の息を吐いていたらしい。
第一試合
鏡耶は先日に冥子との除霊で見せた技を使わずに戦っていた。
鏡耶の実力ならそれこそ秒殺できるのだが、下手に能力を使ってしまうと相手を再起不能にしてしまうかもしれないのでどう倒そうか考えているからだった。
「サイキックソーサーは・・・だめだ。圧縮率が高すぎて相手の霊気の流れを壊すな。だったら圧縮率を低くするか?それだとどのくらいまでなら下げてもいいのか分からないからこれも却下だ。霊波刀?これは殺してしまうから即却下。同様に霊糸も却下・・・蓮螢は霊波刀がダメなのにこれがいいはずが無いしな・・・・・・。うん、やっぱりここは霊波砲でいくか。拡散してやればまぁ死ぬようなことは無いだろうし・・・」
どうやって勝とうか考えているときも相手の攻撃は当然あるのだが、鏡耶はものの見事に最小限の動きで避けていた。
そして攻撃の手段を決定したと同時に鏡耶は、一旦相手との距離を取るために後ろに下がり相手に向けて手のひらを向けた。
相手がその突然の行動に戸惑っているうちに鏡耶は拡散霊波砲を放った。
その反動で辺りの埃が舞散ってしまって審判は煙の中がどうなっているのか把握し切れていないが、徐々にその埃も落ち着いてきて埃に隠れていた二人の状態が確認できるようになって来た。
「勝負あり!勝者46番、君影鏡耶!!」
埃が落ち着いて立っていたのは鏡耶だった。鏡耶を確認した審判はすかさず会場に勝利者の名前を伝えた。
「すごいわ〜。あそこまで広範囲に霊波砲を撃てるなんて、今のトップクラスのGSにだって無理でしょうね〜。それにあの体裁きもまるで舞を見ているようだったし〜・・・。かっこいいわ〜」
まだ少し目が虚ろだが、冥那は見ているところは見ているらしく、少しでも鏡耶の秘密を知ろうとしていた。そんな冥那にどこかで聞いたことのある女性の声がした。
「冥那様、記録の方無事に終了いたしました」
「分かったわ〜、ちゃんと確認はしたのかしら〜?」
「はい、記録した後全て三度ずつ確認しましたがどれも無事でした」
「ならいいわ〜。・・・・・・あなたもその仕事は他の人に任せて私と一緒に彼の試合を見ましょう〜?」
「いえっ!そんな・・・私ごときが冥那様とご一緒に君影様の試合など見るなんて・・・」
「誰も君影君なんて言ってないわよ〜」
「っ!?あ、いえその・・・なんていうか・・・・・・も、申し訳ありません!」
冥那にからかわれているのにも気付くほどの余裕もなくその女性は勢いよく冥那に頭を下げた。
彼女達六道家で働く者たちの中では暗黙の了解という物がいくつかある。
「六道冥子を決して泣かせてはならない」というのももちろんあるのだが、その中の一つに次のような物がある。
「一の命令でで十を行え」これは決して冥那に気に入られようと考えられた言葉ではない。これはその言葉の通り、冥那の命令を受けたら冥那が口にしなかったことも考え行動し、実行し、結果を得なければならない。ということで、これが出来ない場合最悪首が胴から物理的に離れることになる。
それと同様に「冥那の機嫌を損ねるな」というものもある。彼女はまさに今これを行なってしまったと思い頭を下げたのだ。
しかし、冥那は彼女に対して特に何もすることはなかった。
「いいから私の隣に座って観戦するのよ〜。それとも私なんかと一緒に観戦をするのは嫌なのかしら〜」
「そ、そんなことありません!!僭越ながら冥那様のお隣に座らせていただきます!!」
そうしてがちがちに緊張しながらも彼女は冥那の隣に座り、鏡耶の二回戦目が始まるのを冥那と二人で待つのだった。
二回戦目も鏡耶は一回戦目と同様に拡散霊波砲を放って勝利した。
この瞬間、鏡耶はGSの資格を取得したことになる。
しかしランクつきのライセンスを手に入れるためには翌日の残りの試合に全て勝ち、優勝することが条件になっている。
鏡耶はトーナメント表を見て、残りの相手たちも今日と左程変化がないと確認した。
そして自分のことを応援してくれていた冥那たちの元へ向かった。
「わざわざ応援すまなかった」
「いいえ〜、こういうときはもう少し気の利いたことを言ってほしいわ〜」
「ふむ。・・・ありがとう・・・な」
「どういたしまして〜、でも流石ね〜。あんな動きや広範囲に放つ霊波砲なんてなかなか使える物ではないはよ〜」
「そうなのか?」
「ええそうよ〜」
鏡耶と冥那の二人が話をしていると、冥那の傍らでなにやらこちらの様子を伺っている女性がいることに鏡耶は気付いた。
そしてその女性は見覚えがあると鏡耶は感じた。
「お前は?」
「は、はい!私は六道冥那様に仕えるメイドの一人です!」
突然鏡耶に話を振られた彼女は緊張で声が裏返っているのにも気付かずに鏡耶に答えた。
「冥那、そうなのか?」
「そうよ〜これでも一応私の側近になれるくらいだから霊能力もなかなかなのよ〜」
「ほう、それは興味あるな。もし機会があれば見せてもらうことにしよう」
「私のなんかでよければいくらでもお見せします!!」
「あぁ、そのときは頼む」
そして鏡耶は明日にそなえて先に帰ると二人に伝えてからGS資格試験会場を後にした。
―――昏く深い森の奥―――
その森の中心に位置する誰にも気付かれることのない結界の中、そこに鏡耶は姿を見せていた。
「タマモ・・・・・・明日になったらお前をここから出してあげることが出来る。お前は俺のことを覚えてはいないだろうが俺は早くお前に会いたい・・・・・・」
そして鏡耶は結界に以上が無いことを確認してタマモが封印されている殺生石の前から姿を消した。
GS資格試験二日目
鏡耶は全く危なげなく勝ち進んでいた。
二日目になって人間に対する強すぎない霊力の量が分かったので、拡散霊波砲以外にも霊力を込めた格闘戦を新しく試合で使うことによってまさに向かうところ敵なしという感じだった。
そして決勝戦。
これも一瞬にして背後に回り、相手の霊気の流れを壊さない程度に自分の霊気を相手に叩き込むことであっけなく終わってしまった。
そしてこの瞬間最短でE級ライセンスを手に入れたGSが誕生した。
この日は冥那が優勝おめでとう会を開くと言っていたのでおとなしく鏡耶は冥那の申し出を受けることにした。
と言っても実際は鏡耶の顔見せが一番の目的らしく、恐らくGS協会などの上層部であろう人達が休む間もなく鏡耶に挨拶をしてくる。適当にそれらに返事をしつつ鏡耶はうんざりとしていた。
「ごめんなさいね〜、本当なら身内のみで開く予定だったのに、どこからか聞きつけた人がいたみないなのよ〜」
「いや、構わない。中には本当に祝ってくれている人もいるみたいだしな」
ようやく一段落がついた鏡耶に冥那は近づいていき、そう労った。
手渡されたワインを口に含みながら鏡耶は本当に自分のGSライセンス所得を喜んでくれた人のことを思い出した。
「君が君影鏡耶君だね?」
「・・・・・・あなたは?」
鏡耶は自分に声を掛けて来た人の顔を見て、あぁこの人は変わらないなと心の中で思った。
「おっと、自己紹介がまだだったね。私は唐巣というただのしがない協会の神父だよ」
「あなたがあの有名な唐巣神父ですか。あなたの話はよく聞きます」
「そうかな?そう言ってくれるのは嬉しいけどね。・・・ところでその口調は地ではないだろう?普通に話してくれて構わんよ」
「・・・・・・やれやれ、流石はS級ライセンスを持っているだけのことはあるってことか。まぁ、そういうならお言葉に甘えるとするか」
「はっはっは。これでもいろんな人間を見てきたからね。そのくらいなら分かるよ」
「ほう」
実際には神父の数十倍を生きているんだが・・・と思ったりもしなかったが、鏡耶は唐巣にそれだけ言うと話は終わりだといわんばかりに背を向けて去ろうとした。
「まぁ、待ちたまえ。祝いの言葉くらいは聞く時間は有るだろう?」
しかし唐巣はそう言って鏡耶の足を止めた。
「なんだ?」
「いやいや、単純におめでとうと言いたかったのだよ。しかしこんな業界だ。君は嫌でもこれから注目されるだろう。いい意味でも悪い意味でも」
「・・・・・・・・・だろうな」
「そこで一応人生の先輩として忠告をと思ってね。まぁ杞憂で終わればいいのだがね。でも注意するにこしたことはないからね」
「やはりな」
「?どういうことだい?」
「なに、随分前から監視もされているし、神父以外の連中からは快く思われていないらしいからな。殺気がだんだんと心地よくなってきたところだ」
そういって鏡耶は周りをぐるりと見回して、自分を監視したり、写真を撮っていたものたちに手を振りかざし全て壊していった。
「すごいな、どうやったんだい?腕の一振りでああも完璧にカメラを壊してしまうとは」
何をやったかはわからなかったが、鏡耶が何かをしたおかげで起こった現象というのは即座に理解することができた。
「じゃあな。こんどこそ失礼させてもらう」
「機会があったらまた会おう」
「・・・・・・そうだな」
そして今度こそ鏡耶は去っていった。
「・・・・・・・・・君に主のお導きが有らんことを・・・」
「そうだったの〜、唐巣君はいい人だから何か困ったことがあったら頼るといいわよ〜」
鏡耶の話を聞き終わった冥那はそう言って鏡耶を今度は会場から少し離れた人気の無い場所に鏡耶を引っ張っていった。
「で、なんのようだ?まさか愛の告白でもないだろうに」
「そうね〜私としてもそれでもいいかな〜って思ったんだけど、ちょっと気になることを耳に入れたのよ〜」
「・・・・・・・・・」
「六道家は仕事の一環としてこの関東圏一帯の霊的に重要な場所を管理する仕事もしているんだけど〜、先程その中の一つがどうやっても発見できなくなったっていう場所があるのよ〜」
しかしそんな言葉には何も反応せず、鏡耶は冥那に先を促した。
「でね〜、その場所っていうのは殺生石なのよ〜」
「ほう・・・で、何故そんなことを俺にいう?」
鏡耶は目をそらさずに聞く。
「犯人って君影君でしょ〜」
「どうしてそう思う」
「そうね〜・・・確証は無いんだけど、強いて言えば女の勘かしら〜」
そしてにっこりと笑う冥那に対して軽くため息を吐きながら白状することにした。
「まさか女の勘と言うとは思わなかったな。確かにあれをやったのは俺だ。それで、俺にどうして欲しいんだ?」
「本当なら元に戻して欲しいって言うところなんだけど〜、無理よね〜・・・」
「分かってるなら話は早いな。でももう少し待て。もう少しすれば元に戻す」
「ふーん・・・それは九尾の狐を復活させるからかしら〜」
しばらくお互いに黙っていたが、唐突に
「邪魔をするなら容赦はしないぞ―――」
そう溢して鏡耶は再び屋敷に戻っていった。
深夜―――
鏡耶は殺生石の前に来ていた。
「タマモ。最低ランクだけどGSライセンスを手に入れることが出来た。これでお前を保護することが出来る」
殺生石の周りに張ってある結界からは回りに中に入ってこようとしている六道家のものがいる。
しかし鏡耶はそんなことに眼を向けることなくただまっすぐに殺生石を見ていた。
「復活しても俺の知っているタマモじゃあないかもしれないが、それでも俺はお前に会いたいんだ・・・」
鏡耶は殺生石の前まで歩いていき、耳に嵌めている封具を外していった。
「今から殺生石に俺の霊力を送り込む。そうすればあと数年も待つことなく産まれてくることが出来るはずだから・・・」
全ての封具を外した鏡耶は両手を殺生石に当てて、その中で眠っているタマモにゆっくりと・・・タマモが自分の霊力で耐えられなくなるようなことが無いように、丁寧に自分の霊力を送っていった。
今現在の鏡耶の霊力は4000マイト。ここに来たときよりも1000マイト程霊力が上がっている。これはいま鏡耶がいる世界に鏡耶自身の身体や因子が適合し始めているからである。
鏡耶はタマモが目覚めるまで霊力を送り続けた。タマモはあの金毛白面九尾の狐の転生体である。その潜在的なポテンシャルはとてつもなく高い。それは既に前の世界でサッちゃんと対等に戦うことが出来ていたことからも分かる。
100マイト、200マイト、300マイト・・・鏡耶はゆっくりだが確実にタマモに霊力を送り続けた。そして送り始めてから1500マイト程送った頃になって、殺生石に変化が現れた。
ただの岩にしか見えなかった物が光だし、殺生石に貼ってあった封印の札が風に靡かれるように泳いでいる。そして殺生石の中に感じる何かが急速に形になっていくのを鏡耶は霊力を更に注ぎながら見つめていた。
殺生石は鏡耶から送られてくる霊力を貪欲に吸収し始め、ついに3000マイトを超える量の霊力を吸収していた。流石に鏡耶も疲れを見せ始めたが、ここで倒れるわけにはいかないとますます霊力を送り始めた。
そして殺生石から発せられる光が強くなり、辺りいったいがまるで日中のようになった頃ついに鏡耶は限界を迎えようとしていた。
「ぐ・・・まだだ。ここで倒れちまったら・・・・・・くそっ、タマモ・・・・・・」
鏡耶の限界など気にしないように殺生石は無理やり鏡耶から霊力を奪っていく。
殺生石が鏡耶から霊力を奪えば奪うほど殺生石から発せられる光は増していき、いつしかその光は一面から風景を消していった。
「ハァハァ・・・・・・も・・・もう・・・っ!?ガハッ!!」
霊力を奪われすぎてほとんどからに近い状態になっても殺生石の勢いは止まらず、鏡耶は遂にその影響が人体にまで及ぼし始めていた。
そしてそれは直接鏡耶の身体を構成しているところまでに進入し、遂にはその中心部である上位エーテル体にまでその矛先を向けようとしていた。
そして殺生石の侵攻が上位エーテル体に接触した瞬間、それは起こった。
光が鏡耶の身体を一瞬で手放したのだ。風景さえも殺生石から出る光で見えなくなっている中で、影すら存在を許されない世界において鏡耶の体だけがはっきりと認識できるようになっていた。
すでにかなりの侵攻を受けていたせいで鏡耶は気を失っていたが、その鏡耶の体から何かが浮かび上がってきた。
そしてその何かは更に鞠くらいの大きさの紫色に輝く何かを出して殺生石に向けて放った。
殺生石はその何かをまるで大事な物が戻ってきたかの様に受け入れると、今度は急速に今まで発していた光を収束させてあっという間にもとの森が姿を現した。
気絶した鏡耶は夢を見ていた。
その夢は特に変わったことが起きることも無く、何の変哲も無い普通の一日がただ延々と続いているだけだったが何故か鏡耶は幸せで胸がいっぱいになっていた。
「――――――なんで泣いているの?」
声が聞こえた。その声はとても優しくこんな自分さえも全てを許して包んでくれるような暖かさを感じた。
「―――大丈夫。私はこれからずっと一緒に歩いていってあげるから」
太陽のように全てを照らして汚いものを隠して見えなくするようなそんな眩しい光ではなく、それは月のように直接目で見ても大丈夫なような汚いものさえもそのままとして受け入れてくれるような優しい光を感じた。
「―――――――――だから、もう目を覚まして」
その声を聞きたときには既に意識は目覚めはじめ、鏡耶は現実の世界に戻ることを認識した。
夢の中でしか得られない幸せに背中を向けて・・・・・・
「――――――――――――」
だから鏡耶は最後に何かを言っていた声を聞くことが出来ず、また気付くことがなかった。
歴史にIfはない。しかし思ってしまう。あのときああしていれば!・・・・・・・・・と。
そして鏡耶は自分の頭にやわらかい感触を感じながらゆっくりと目を覚ましていった。
「――――――――――――私に早く気が付いて」
つづく
第013話へ
第015話へ
あとがきのようなもの
お久しぶりです。どうもMirrorです。
地の文がむずい!おかしなことになってます。
まぁ、なんだかんだで久しぶりの「せめて絶望のない世界をあなたに」の第014話です。
今回はGS資格試験編。まぁ、この時代というかぶっちゃけ鏡耶君に敵う存在というのは稀有なのでこの程度ならこんなもんでしょ?って感じでささっと進めちゃいました。
唐巣神父登場ですがこの人ってこんなんでいいんでしたっけ?っていうか下の名前有りましたっけ?
そんなことを思いつつゆっくりとこの話も進展していってます。
それではここまでお付き合い下さいました方はありがとうございました。
では次のあとがきのようなもので会いましょう。
それでは今回はこの辺で・・・
GS美神に戻る