GS二次小説 「せめて絶望のない世界をあなたに」



第006話

「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァアアアアーーッ!!!!!!!!」

ロンギヌスの槍に貫かれた横島はその槍から与えられる苦痛に絶叫を上げた。
その痛みはどれ程のものだろうか・・・それは客観的には知る芳もない。

横島は自分が今何を言っているのか分からないほどの苦痛を体験していた。
初めに感じたのは全身を切り刻まれる痛み。またそのバリエーションは富んでいて一寸に身体を切断されたり、ただ無造作に引き裂かれる、生きたまま内臓を抉られるなど。
それが終わったと思ったら今度は熱せられ身体が熔けていき、かと思えば逆に四肢の端から凍らされ壊死していったりもした。他にも窒息死、搾死、圧死、銃殺による死、殴打による死など今まで想像したこともないような死の体験をした。
それでも横島はその驚異的な精神力と自分に残された可能性を支えに耐えていた。
しばらくしてその幻痛もしなくなったと思ったとき横島は驚きに染まった。
目の前に会いたくてもう会うことを諦めていた女性が現れたのだから・・・

「ル・・・ルシオラ・・・・・・なのか」

横島はほとんど現実に近い幻の痛みに耐えそう口にした。
だがそのルシオラは横島の方を見るだけで何も口にしない。

「ルシオラ・・・ははっ、痛みで遂に幻覚でも見てるのか・・・?俺は・・・・・・」

幻覚だと思っていても横島はそのルシオラに手を伸ばして触れようとする。
あまりにも会いたかった彼女・・・初めて自分が好きになった女性・・・命を賭けて守ろうとして、逆にその命で自分の命を救ってくれた女性。何度夢に見ただろうか・・・あのときの苦悩、懺悔、苦痛・・・そして結局何も出来なかった、誰も救うことの出来なかった自分への怒り。
謝りたくて・・・でもその女性は既にこの世に存在せず、再び自分の子供として転生できる可能性があったにもかかわらず今度は人魔になったことで霊基が完全に融合してしまいそれも不可能になってしまった。
それでも謝りたくて・・・・・・でも本当はそれ以上に、何よりもまず「ありがとう」と伝えたくて・・・・・・その可能性を自らの手で無くしてしまったことにやはり怒りを感じ己を呪った日々。
その、そこまで自分が思っていた女性が今目の前にいる。たとえ幻覚であろうとしても目の前にいるのだ・・・。横島はその思いを伝えずにはいられなくなり口を開こうとした。

「ルシオラ、今までずっと言えなくて・・・でも出来なかった言葉を言うよ・・・ルシオラ・・・・・・あり「ヨコシマ・・・」っ!」

横島が伝えたかった言葉をまさに言おうとしたとき、その幻覚のはずのルシオラが口を開いた。

「ねえ、ヨコシマ・・・今まで会いに来れなくてごめんなさい。でもヨコシマに言いたいことがあって来たの」

「え・・・ルシオラ?」

「ねえ、何でヨコシマは生きてるの?私はもう転生することも出来ないのに・・・それに私の好きだったヨコシマはどのにいったの?」

ルシオラの思いもかけない言葉に横島はルシオラに伸ばしていた手を止めた。

「私の知ってるヨコシマはバカでスケベで鈍感で・・・でも決して他人を傷つけるようなことはせず、何よりも誰よりも優しかったあのヨコシマなの・・・あなたは・・・・・・ダレ?」

「ル、ルシオラ?・・・・・・何を言って・・・」

「ねえヨコシマ、周りを見て。ほら・・・何もないでしょう?あるのはただ荒れ果てた荒野だけ。これをやったのは誰?自分が生きるために他の人を犠牲にしてまで得た世界がこれなのよ」

「ヨコシマ・・・どうしてなの?ベスパやパピリオが殺されたのは誰のせい?私の姉妹を殺したのは・・・あなたでしょ、ヨコシマ。あなたが生きるために私の大切な姉妹を盾にして逃げたのよあなたは」

「違う・・・あのときはしょうがなかったんだっ!・・・・・・相手は魔神の一人で・・・「そんなことを聞きたいんじゃないの」・・・!」

横島が弁解をしようとしてもルシオラは耳を貸さずに続けた。

「違うのよ・・・確かにあのときはそうだったかもしれない。でも私が言っているのはそういうのじゃなくて・・・あのときのヨコシマは本当に守られるべき価値のある存在だったかと聞いているの」

「守られるべき・・・価値?」

「そうよ。ヨコシマ・・・あなたはあのとき守られて当然って思っていなかった?ベスパやパピリオをただの自分を守る道具か何かと勘違いしていたんじゃないの?・・・・・・ねえ、そうなんでしょ?」

「・・・・・・そんなヨコシマに私は惚れたんじゃないわ。私の知ってるヨコシマはどんな状況でも決して諦めなかったし、たとえ相手が魔神でも怯むことなく向かっていったはずだわ」

ルシオラの糾弾は続く。

「ねえ、ヨコシマ・・・私の妹たちを返してよ・・・・・・どうしてあの時妹たちを助けてくれなかったの?あの娘達は死ぬ前何を思っていたか知ってるの?ヨコシマ、あなたの無事を祈って死んでいったのよ!?ヨコシマはそのとき何を考えていた?ただ助かったことを喜んでいただけじゃないの!?」

「!?・・・・・・それは、それは違う!俺はあの時二人の考えて・・・どうして一緒に逃げなかったのかって・・・」

「ほら・・・その言い方、結局は見捨てたんじゃない。ねえ、いい加減本当のヨコシマを返してよ。そして妹たちを殺した責任を取って・・・」

「違う・・・俺は・・・俺、は・・・・・・」



その様子を見ていたサッちゃんはキーやんに言った。

「なんとか上手くいったみたいやな。正直キーやんの考えた作戦、あんなん作戦とちゃうで。あんなのただのギャンブルや」

「ええ、そうですねサッちゃん。でも見ての通り成功したのだからいいじゃないですか」

「まぁそうやけどな・・・」

キーやんとサッちゃんの考えた作戦。それは単純にして明解であった。サッちゃんが自信の魔力の殆どを使い横島の目くらまし兼足止めをする。そしてキーやんが足止めされている横島に聖槍ロンギヌスを投げる。これだけだ。
しかし結果は成功。動くことの出来なかった横島はキーやんの槍の持つ特性、あらゆる防御結界を無効にする力を忘れていた。その結果それに気付き避けようとしたが既に遅く槍に貫かれてしまったというわけである。

「しかし・・・これであの槍の力を見るのは二回目やけど、やっぱりえげつない槍やな。ほんま持ち主によう似た槍やで・・・」

「サッちゃん・・・随分とひどい言われようですがまあいいです。でも槍の第一段階の苦痛に耐えたのは彼が初めてですよ・・・私でも第二段階を見るのはこれが初めてです」

普通例え擬似とはいえ死を体験すればそれに精神が引きづられそしてそれは肉体にも影響を及ぼす。
よく使われる例えとして「まだ幼い子供に火鉢を「ほら熱いっ!」と言って押し当てると、それを押し当てられた子供は本当にその部分が水ぶくれになった」という症例がある。
実際の横島はこれよりひどい体験をしている。何せ考えうる全ての死に方を体感したのだから。横島の心の強さの一端が垣間見れた瞬間である。

そして今横島に起きているのが肉体による苦痛ではなく、精神による苦痛である。これにより徐々に精神的に追い詰め最後には精神(心)を壊されるのだ。

「さて、恐らくこれでお終いだと思いますが一応魂を消滅させるための準備に取り掛かりましょう」

キーやんはかすかに残った魂すらも消滅させるために次の準備に取り掛かる。サッちゃんはもう少し横島の方を見ていたかったが見ていてもしょうがないと考えキーやんに従った。

何故、今の横島に追い討ちを仕掛けないのかというとちゃんと理由もある。キーやんの聖槍ロンギヌスによる特殊攻撃発動時は、そのときに相手に起こっている現象が稀に周囲にいるものにまで影響を及ぼすことがある。
そのためこの特殊攻撃が展開中の間、槍と対象者はここではないほんの少しだけずれた次元に移動しているのだ。よってこちらからの攻撃は次元が違うため届かないし、どうように槍の影響も周囲に伝播しないようになっている。
そのような理由からキーやんとサッちゃんは横島がどのような形であれ、こちらの次元に戻ってきたときのために準備を始めたのだ。



横島はさらにひどい状況になっていた。ルシオラだけではなく二人目の自分にとって大切な人にまで責められていたからだ。
横島はかつてルシオラを失ったとき以来非常に自分に親しい者が傷つくことを恐れていた。またその親しい者たちを失うことを恐れていた。逃亡中に仲間が死ぬたびに横島は仲間を殺した相手に凄まじい勢いで特攻しそうになり、その都度猿神に無理やり止められそして激しい自己嫌悪に陥っていた。
それを慰めていたのが美神令子、氷室キヌ、小竜姫、シロ、タマモといった横島に好意を持っていたものたちであった。
だが横島は今、自分のために死ぬまで一緒にいてくれた彼女に・・・自分を愛していると言ってそして信じて己の死と交換に霊基構造を渡してくれた彼女に責められていた。

「忠夫さん・・・私はあなたを信じていたのに・・・・・・私が死と引き換えにして渡した力であなたは何をしましたか?」

芯の通った力強い眼だった・・・他人に厳しく、でもそれ以上に自分に厳しかった女性。
弱い自分に負けないよう、いつも優しく支えてくれた女性。
本当は弱いところもあってそれを一生懸命隠そうとするところがとても可愛らしく感じた女性。

―――私は忠夫さん・・・あなたの弱さを知っています。でもそれ以上に強いことも知っています。そして何より世界中の誰よりも、私自信よりも信じています。だから・・・先に逝く私を許してください―――

そう言って優しく微笑み、暖かい涙を流しながら霊基構造を唇から渡し消えていった女性・・・・・・小竜姫

「私は大切なものを守るために力を渡したのです。でもあなたは何をしましたか?」

「もちろん守るために使ったさ!・・・小竜姫、俺はちゃんと・・・・・・」

「なら何故、今のあなたの周りには誰もいないのですか」

「そ、それはっ!」

「それは私の力を守るためではなく、奪うために使ったからですよね。信じた私が間違いでした・・・・・・・・・横島さん」

「っ!?しょ・・・小竜姫・・・?」

「なれなれしく呼び捨てにしないで下さい横島さん。・・・それでどうなんですか?本当のことを言って下さい」

横島にとってそれはまさに青天の霹靂だった。小竜姫は初めて横島の才能に気が付いた初めての女性。
そしてそれからずっと横島のことを理解し、諭し、共に歩んでくれた女性だった。
確かに今横島の周りには誰もいない。横島一人になってしまった。でもそれは仕方の無いことだった。
いかに横島が強くても結局は一人。どうしても守りきることは出来なくなってしまう部分があった。
横島自信知っていたし、それでも守れなかったことを嘆いたりもした。それでも横島は戦いながら逃げるしかなかったのだ。
だからこそ、小竜姫の言葉は横島を深く傷つけた。

「う・・・あぅ・・・・・・言わないでくれ!頼む・・・もう止めてくれぇぇぇぇぇ!!」





そして横島の心が音を立てて壊れていく・・・・・・





つづく
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あとがきのようなもの

やってしまった・・・・・・こういう心のお話とかってどう書けばいいのか分からなくてなんかもう意味不明な内容になってしまいましたね。
大丈夫だったかな?まぁ相変わらず説明尽くしですが・・・

これを書くに当たって本当はアシュタロス戦以降のコミックを読めればよかったのですが、今家にあるのが丁度ルシオラなどが出てくるところまでなんですよ。
本当は全巻そろえたいのですがなかなか売ってなくて・・・
でも一応原作は連載中に全部読んだのでまぁそれなりに書けるのですけどね・・・

ちょっとした予告です。さて、次回に再びタマモ嬢の登場です。まぁ予想はされているでしょうが・・・
実は私はかなりのタマモスキーで(え?そうは見えないと・・・?)今後は頑張ってタマモ嬢の出番が増えたらな〜って思ってます。
でも恐らく次の話以降しばらくは出番は無いと思いますが・・・あ、でもでもタマモ嬢の短編と小竜姫様の短編は書くつもりですよ。
短編というか外伝ですね。もうちょっと詳しく二人のことは載せたいので。馴れ初めとかそういうのが書けたら嬉しいです。でも18禁は無理ですよ。
シリアスな感じで進んでいくと思います。



では次回はタマモ嬢の登場ですが、上手く書けるか甚だ疑問です。
でも頑張るので楽しみにしててください!
それではまた、次のあとがきで・・・





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