介入





はっきり言って今の状況はかなりむかつく。
けれど一応今は問題を起すのは良くないと理解しているため、黙って今の状況の維持に心掛ける。
というのも私達は今、それなりに広い部屋のど真ん中で晒し者になっているからだ。
周りでぼそぼそ言っている声に耳を傾けると、どうやら私達の目の前に座るであろう人物が 未だ来ない理由は寝坊だ。とか言っている。
自分の隣で大人しく正座をして待っている相方にラインを通して話しかけても 「今は大人しくしていろ」のみで、一向に私の気が晴れることは無かった。



「悪い悪い。ちょっとキョウが俺に話があって、それを聞いていたら遅くなった」

気配を隠すことも無く、ドタドタと足音を響かせながら入ってきたのは学生服を身に纏った 「神の遣い」、その人だった。

「九峪様、それならそれできちんと兵士などでこちらに伝えるなどして頂きませんと・・・」

眼鏡を掛けた利発そうな女性が神の遣いに対して言及する。
それに対して神の遣い九峪は

「だから悪いって言ってるだろ?亜衣。説教なら後で聞くから後にしてくれ。 ・・・・・・で?彼らがそうなのか?ってまぁ俺もあの現場にいたんだが記憶が無くてさ・・・」

「はい。間違いありません。私も含めあの時あの場にいた全員に確認を取りましたから」

そう言った亜衣と呼ばれる女性は自席に戻り私達に話しかけてきた。

「それでは簡単に自己紹介をしてくれないか?」

「ああ、俺は君影鏡耶という。それでこいつがタマモ。 那の津をふらふらと旅しているってところだ。 一応祓い師紛いなものをやって今まで稼いできた」

どうやら私は黙っていろということらしい。
私に何も言わせずに自己紹介を済ませてしまった鏡耶に嫉ましい視線を送るが、 神の遣い様が何か言い始めたのでそちらに意識を戻した。

「君影さんにタマモさんな。わかった、俺は九峪って名前だ。一応これでも 耶麻台国復興軍の総大将を務めている。・・・ああ、呼び方は特に気にしてないから適当に呼んでくれ。 本当ならあと耶麻台国神器の天魔境の精のキョウってのがいるんだが、今は鏡の中で寝ている」

「ふ〜ん・・・ま、よろしくね。って言いたいところだけど、なんで態々私達はここにいるわけ? 他の志願兵は簡単な面接で採用しているのに、私達はなんかお偉方の前にまで 引っ張り出させて・・・見世物じゃないんだけど?」

少しだけだが口を開くことが出来て気分が紛れたが、 まだまだ足りないと思ったのでもう少し続けることにした。

「それに私達がここに来てから既に十五日は経っているのに、 何で今頃こんなことやってるのよ?」

私の言葉に上座に座っていた髪が長く少し釣り眼をした女性が口を開いた。

「ああ、それは私達を待っていたんだと思う。伝令からは急いで戻って来るようにとしか 聞いていなかったんだけどな」

「あんたたちを?っていうかアンタ誰?」

私のアンタ発言に先ほど亜衣と呼ばれた女性が口を挟む。

「小娘!口を慎まないかっ!!彼女は火魅子候補なのだぞ!!」

私はその返答に冷たい視線をくれてやり、その火魅子候補に問いかけた。

「へー・・・アンタが今有名な火魅子候補様の一人なんだ。ふーん」

私のあからさまな挑発を気にする風でもなくその女性は話す。

「いや、すまない。こちらの配慮が足りなかったようだ。 私は伊万里と言う。そして隣に座っているこいつが私の乳母姉妹の上乃だ」

紹介されたまだ女の子の部類に入る青い髪の女性はいきなりの紹介に驚いたみたいだが、 すぐに気を取り直した。

「上乃だよー。よろしくね。ま、私も伊万里もあんまり身分とか気にしたりしないからさ、 気軽に声を掛けてよ」

そう言って手のひらを振る。
その言い様に伊万里と紹介された女性が注意しているが、私が見る限りあまり効果はなさそうだ。

「あー伊万里、そういうことは自分達の部屋でやってくれないか?」

神の遣いがそう言うと渋々ながら伊万里は姿勢を正した。

「でだ、今頃になってしまったのは今伊万里が言ってくれた通りなんだ。 本来なら俺達を助けてくれたことに感謝して、何か褒美とかを渡すのが筋なんだろうけど・・・ 亜衣、ああ彼女な。亜衣がその前にすることがあるって言ってな」

俺は詳しくは知らないんだ。そう言う神の遣いはどこか頬が引き攣っていた。





「成程な・・・つまりはそういうことか」

誰にも聞こえないように呟く。そしてようやく合点がいった。
神の遣い・・・好きに呼んでくれと言っていたから九峪でいいか。 九峪は本当に知らされていないらしい。しかし俺は亜衣や九峪の後ろで控えている清瑞、 副王の伊雅、踊り子の衣装を纏っている志野、さらには志野の副官に位置する珠洲と いった面々が俺に気付かれないように殺気を向けているのをずっと感じていた。
そしてそのことはタマモも気付いていたのだろう。抑えてはいるようだがイライラしているのは ラインを通じて感じていた。
・・・・・・ちなみに先ほどの伊万里を含め復興軍の主だった人物の名前と顔は、 すでに調べ終わっており本当は知っている。

先ほどの鏡耶の言葉に一部の人間の肩が揺れる。 それを確認し、さらに確信を深くする鏡耶は九峪に言った。

「つまりだ九峪。・・・ああ、呼び方は好きにしてくれと言ったから呼び捨てでも構わないな?」

「まぁな。じゃあ俺も鏡耶って言うぜ」

周りの責めるような視線を全く気にせずに鏡耶は自分の考えを言う。

「あのとき九峪たちが戦っていた相手は強かった。 魔兎族をもってしても決定打には欠け、ジリ貧一方になっていき、俺が出て行かなければ おそらく全滅していただろう程にあの敵は強かった。・・・そうだろ?」

鏡耶が亜衣に確認のように視線を飛ばす。

「認めたくは無いが・・・・・・事実だ」

集まっていた人達は鏡耶の言葉に息を飲み、亜衣が認めたことに顔を青褪めていた。

「で、そこにまるで見計らったかのように俺達が現れ、 それほど苦戦していた相手を瞬く間に斃してしまったとしたら・・・?」

「ふん。普通は疑うな」

そう言ったのは杯を傾け、鋭い視線をぶつける女性。

「ああ、確か藤那と言ったか?」

俺の言葉に藤那が驚いたような目をした。

「ああ、実を言うとあんた達のことはここ数ヶ月調べさせてもらっていた。 清瑞・・・何を馬鹿なっていう顔だな。別にお前に信じてもらう必要は無い。 実際俺達は調べ、その結果復興軍に手を貸そうと決めたんだからな」

その言葉にその場にいた殆んど全員が驚いたような声を上げる。

「ふん。手を貸す・・・か。なかなか言うじゃないか」

藤那は値踏みをするように鏡耶を観察する。

「ああ、そうだ。それに懐柔に失敗したらもともと逃がすつもりは無いのだろう? 何人からか抑えているようだが、殺気が洩れてるしな」

鏡耶の言葉に殺気を放っていた何人かは動揺したようだが、それでも殺気を 収める気配は一向にしなかった。

「おいおい殺気なんて物騒だな。何をそんなに皆カリカリしてるんだ? 手を貸してくれるって言っているのならそれでいいじゃないか」

まるで何でも無いような口調で言う九峪に、亜衣が理由を説明する。

「お言葉ですが、九峪様。私達はまだ十分とは言えませんがそれでも、 かなりの力を付けて来ました。ここでこれ以上素性の知れない者を引き入れるのは 今の復興軍には毒になる可能性が高いのです」

その言葉に返すのは鏡耶。

「ああそのことだが亜衣、何か思い違いをしているみたいだから言うぞ。 俺達は別にあんたらの意見なんて求めているわけでは無いんだ。 俺達が手を貸すのは決定事項で、それを復興軍に認めてもらう必要などない。 ・・・・・・わからないみたいだな。なら聞くが、ここで俺たち二人を止められる存在がいるとでも?」

「なっ!?貴様・・・!!」

鏡耶のあからさまな挑発に最早我慢出来ないのか亜衣は視線で清瑞、志野といった鏡耶達に 殺気を送っていた者に指示を出す。
それを確認して行動に出ようと行動をしようとした瞬間、その場にいた二人以外動きを止めた。

違う、止まってしまった。

止めた理由は簡単。まるで清瑞達の動きを制するかのように広まった殺気のせいだ。
しかし流石は復興軍の幹部といったところだろうか、誰一人として気絶するものはいなかった。

「へぇ・・・気絶はしなかったんだ。一応歴戦の戦士ってところかな?でもこの程度の殺気でそんな 様じゃあ話しになんないわ。鏡耶はもちろんだけど、私にすら傷を全く付けられないんじゃない?」

そういってイライラした様子を隠すわけでも殺気を放った人物・・・タマモは言った。

「それに、亜衣って言ったっけ?鏡耶のことを私がいる前で侮辱するようなことは今後 しない方がいいわよ。今回は初めてだったから手を出さないであげるけど、二度目は無いわよ」

タマモはそう言うと今まで充満させていた殺気をすっと収めた。
空気が元に戻った途端呼吸すら忘れていた復興軍の面々は深呼吸を繰り返し心を静めた。
体調が戻った亜衣はタマモを意識しながらも九峪に言った。

「九峪様、やはりこいつら・・・いえ、彼らをここに置いておくのは危険すぎます」

そう言われた九峪は額に浮かんだ冷や汗を拭いながらそれに答えた。

「・・・でもな亜衣。さっき鏡耶も言っていたが、俺達には 鏡耶を仲間に引き入れないっていう選択肢はないみたいだぞ」

「しかし!・・・そうだ!彼女達に頼めば」

亜衣は何とかして鏡耶たちを追い出そうと考え、普段はあまり頼らないがこの復興軍で 最も強いであろう者達を思い出した。
そしてその者達に頼もうと九峪に話そうとしたが、それは次の声に阻まれた。

「私達に頼ろうとしても無駄だよ。っと先に邪魔するよって言葉が必要だったかな?」

「兎音か。どうしたんだ?」

声のした方を九峪が向くとそこには派手なバニー姿の兎音が立っていた。

「あれだけの殺気を感じたらいくらなんでも気付くって。 で、話を続けていいかい?亜衣はどうやら私達に追い出してもらいみたいだけど それは無理ってもんだ。殺気っていうのはある程度相手の力量を図ることができる 材料の一つだけど、 彼女のそれは上級魔人に匹敵するよ。とどのつまり彼女は最低でも上級魔人程度の力は あることになる。そしてあのくらいなら私と兎奈美でも対処できるだろうが、今のは 本気じゃなかっただろう?」

タマモをみて不適に笑う兎音。それに答えるようにタマモは言った。

「当然じゃない。私の本気の殺気なんて浴びちゃったらそれだけで気絶するわよ? それに今のが私でよかったって思って欲しいわね。鏡耶の殺気だったら良くて失神、 悪くてこの世からさようならよ」

「へぇ。そこまですごいんだ。姉様が男の方には手を決して出すなと言ったのは正解だったかな」

兎音が話す内容に再び亜衣が復活した。

「それは本当なのか!?兎音殿!」

「私達はお前達と違って嘘は言わん」

その兎音の言葉で亜衣は呆然と鏡耶に視線を向けた。

「・・・・・・で、俺の話は聞き入れてもらえたと考えていいよな。 それに安心していい。俺は基本的に戦場に立つことはしない。位置的に言うと魔兎族の三人 と同じような扱いにしてくれ。相手にするのも魔人など、一般の兵士では相手になんない奴らのみ にしてくれればいい」

九峪は鏡耶が何故そう言ったのか分かったが、伊雅は分からず質問した。

「少しよろしいかな?確かに御仁達の力はとてつもなく強力なのだろうが、何故それを 戦場では使っては下さらぬのだろうか?」

それに答えるのは九峪。

「それはな伊雅のおっさん。前にも言ったと思うが、それでは意味がないんだ。 俺も含め兎音達魔兎族や鏡耶達はこの国、耶麻台国の出身ではない。 そんな耶麻台国と縁のない者が大きな戦果を挙げて復興を成し遂げたとしても、 それはこの国の皆で勝ち取った復興では無くなってしまう。 俺達はあくまで援助をするだけ。言わば縁の下の力持ちでなきゃいけない。 表立って活躍するのは伊万里や星華、藤那といった火魅子候補の皆や伊雅のおっさん達 耶麻台国の人達である必要があるんだよ」

「むぅ・・・そうでしたな」

九峪の説明に一応の納得はしたが、やはり力ある者が表立って手伝えないのは残念なのだろう。 伊雅は唸るように黙り込んでしまった。

「さて、それじゃあもうここにいる必要は無くなったはずだ。 九峪、俺達は何処にいたらいい?」

鏡耶はこれ以上周りが何か言いたそうにしても口にしないことを確認すると、 九峪に対して今後の行動について尋ねた。

「ああ、そうだったな・・・・・・」



九峪は部屋の外に待機している兵士に鏡耶達の案内を頼み、鏡耶達の姿が見えなくなったのを 確認すると部屋の中で未だ難しい顔をしている幹部の皆の元に戻った。

「・・・・・・で?何がそんなに気にくわないんだ?」

九峪は自分が席に着いても誰も気付かなかったので、出来るだけ気軽に聞いてみた。

「九峪!九峪はよくもあれだけの振る舞いをされてそのようなことが言えるな!」

藤那は余りに何でもないように話す九峪に対していい加減キレてしまったようだ。

「藤那ぁ、そんな言葉遣い九峪様に失礼だよ」

「うるさい。閑谷は黙ってろ!それにお前もムカつかなかったのか!? 私達はこれ異常ないほど侮辱されたのだぞ!!」

「まぁ、確かにいい気はしなかったけど・・・・・・」

閑谷はいつもは見せない本気で怒っている藤那に内心ビビリながら答えた。

「だろう!?それにあいつはよりにもよって火魅子候補の私にすらあのような態度で・・・」

一向に怒りを納めようとしない藤那にストップをかけたのは以外にも紅玉だった。

「まぁ藤那様。火魅子候補であらせられるそのように感情に振り回されてしまっては 示しがつきませんのではないでしょうか?ここは今一度お気を静めて冷静にことを 見つめる必要があると思いますよ?香蘭もそう思うわよね?」

突然話を振られた香蘭だったが、目を白黒させながらもはっきり言った。

「母上の言うとおりね。それにタマモの言葉、嘘ないね」

「嘘がないとはどういうことです、香蘭様」

九峪の後ろで控えていた清瑞が聞きなおす。

「嘘というのは、タマモ強いとのことよ。まだ一撃も入ったことないね」

突然の話の内容に理解できなかったのか、清瑞は紅玉に視線を向けた。

「すまない紅玉さん。説明してくれ」

「わかりましたわ。実は五日ほど前から香蘭はタマモさんに、私は鏡耶さんに毎朝 鍛錬に付き合ってもらっているのです。香蘭もいつまでも私が相手だと応用が 利かなくなってきますのでいい機会だと思いまして。それに 私もまともに試合が出来る相手が現れてくれたので、自分の鍛錬をすることが出来る ようになりましたわ」

「おいおい紅玉さん。ってことは何か、最低でもあのタマモって娘は香蘭並に強くて 鏡耶に至っては紅玉さん並ってことなのか?」

「違いますわ。鍛錬に付き合ってもってといったように、私達は彼等の胸を 借りている状態なんです」

つまり紅玉はこう言っているのだ。彼らは私達よりも強いと。といっても それは白兵戦だけのことだが。
その事実に魔兎族の兎音以外の面々は沈黙するしかなかった。
確かに先ほどの殺気は尋常ではなかったし、魔兎族の兎音の言葉も嘘ではなかっただろう。 しかしどこかで殺気だけなら実力がなくても出せるのでは? 魔人の言葉はどうしても素直に信じられないといったことがあり、彼等の実力に対し 半信半疑であったが、ここにきて紅玉というある意味人間として分かりやすい 実力で、ほぼ復興軍最強の白兵戦力を持つ人の言葉となると話は変わってくる。 一気にその言葉が真実味を帯びてくるのだ。そして次の言葉に再びその場は 約十分の間停まってしまった。

「ちなみに私は鍛錬初日、鏡耶さんの一撃に気付くことすら出来ずに受け、 そのまま気絶してしまったんですよ」





兵士に送られ辿り着いた部屋で何をするわけでも無くタマモと二人でのんびりしていた鏡耶は、 自分達の部屋に近づく気配に気付きそちらに意識を向けた。
気配は鏡耶達の部屋の前で止まり、じっと中の様子を探っているようだ。

「なんのようだ?特に用事は無いから入ってきていいぞ」

鏡耶はそう言うと部屋の外にいた存在に声を掛けた。

「あら、流石にばれちゃったかしら?」

「まぁ気配を隠そうとしていなかったしな」

そう言って部屋に入ってきたのは頭にフードをした小柄な少女。

「立ったままなのも疲れるだろう?こっちに来て座ってくれ」

「ありがとう。そういえばちゃんとした挨拶はまだだったわよね? 私は魔兎族の長を務めている兎華乃よ。一応他の二人、兎音と兎奈美の姉になるわ」

「長女・・・まぁ確かにアンタからは不思議な力を感じるからそうなのかもしれないな。 あっと、俺達も挨拶しないとな。俺は君影鏡耶、鏡耶でいい」

「わかったわ鏡耶さん。私は兎華乃と呼び捨てで構わないわ。・・・それでそちらの女性は?」

「私はタマモよ。一応妖狐ね。今は鏡耶の使い魔みたいなものかしら。私のこともタマモでいいわ」

「そう、タマモさんねわかったわ」

そして兎華乃は鏡耶に勧められるままに差し出された座布団の上に座った。

「・・・で?何の用で来たんだ?」

鏡耶はさしたる風でもなく兎華乃に聞く。
そんな直球な質問に兎華乃はニコニコと笑いながら言った。

「さっきの話しは私も聞いていたんだけど、全部とは言わないけれど嘘もあったでしょ」

「まぁあの場で全部馬鹿正直に話す必要もないだろうしな」

そう言う鏡耶の顔は特に動揺しているわけでもなく、淡々と話している。
しかし兎華乃は次の言葉でどう相手が反応するのか気を付けながら言った。

「本当の目的はなんなのかしら?・・・・・・ねぇ、鏡耶さん」

「・・・・・・」

先ほどまでと違い、部屋の中に不思議な空気が流れる。
触るか触らないか、温く、しかし何処か剣呑さを含んだ気配が微かに零れだしてきたのを、 兎華乃は敏感に感じながら言う。

「私は正直貴方達、いえ鏡耶さん、貴方が恐ろしいわ。この私ですら見通すことの出来ない強さ。 鏡耶さんが本気になればそれこそ一瞬にして狗根国を滅ぼすことが出来るんじゃないの?」

「・・・・・・・・・さあな。だが俺は基本的に裏方に回るつもりで、表立って戦うことはしないつもりだ。 そんなに気になるなら監視でも付けたらいいだろう?」

不敵に嗤う鏡耶を数秒じっと観察する兎華乃だったが、ふっと今度はタマモに向き直った。

「監視・・・ねぇ。タマモさんはどういうつもりなのか聞いてない?」

そう聞かれたタマモは鏡耶を一瞥するが、何の反応も無い鏡耶にため息を吐いて答えた。

「私は基本的に鏡耶に従うだけだから何とも言えないんだけど、まぁこれだけは言えるわね」

「何かしら?」

「復興軍に害を及ぼすことは絶対にしないわ。・・・・・・狗根国と耶麻台国。ここに来る前にいろいろと 調べてたんだけど、その結果狗根国は今の九洲には求められていないからって結論になったのよ。 それで私達はこちらに来た・・・・・・それじゃあだめかしら?」

そのタマモの答えを吟味するように目を閉じて考えていた兎華乃だったが、目を開けたらすっと 立ち上がり部屋から出て行こうとする。そして戸を開く前に口を開いた。

「鏡耶さん。私はタマモさんの言葉に嘘は無かったと感じました。ですからこれ以上の ことは今は止めておきます。・・・・・・・・・ですが覚えていてください。私は今の復興軍を気に入っています。 もし今のこの状態を壊すようなことがあったら私は全力でそれを排除するつもりです。 例え敵わないと分かっていても・・・・・・・・・それだけは覚えていてください」

そう言うと鏡耶の返事を待たずに兎華乃は鏡耶たちの部屋から去っていった。
鏡耶は兎華乃の気配が部屋からかなり離れたことを確認するとタマモに言った。

「タマモ。正直俺はここに飛ばしたあいつの考えがまだ分かっていない。 だが予想なら今の兎華乃の言葉でつけることが出来た」

それにタマモは耳を傾ける。

「俺達は狗根国についても探りを入れていたが、タマモはどう思った?」

「そうね、四天王だっけ?あの四人、それと左道士監、上将軍の二人の彼ら七人に関しては 今の復興軍では打ち破るのは不可能ね」

鏡耶がどのような返答を期待しているのか考えながらタマモは言う。

「ああ、その通りだ。まぁ四天王の一人、天目だけは何か他の目的がありそうだったが、 純粋に戦うことになったらいいとこ相手になるのは紅玉と伊部くらいだろうな」

「確かにそうだけど、それとさっきの兎華乃の言葉がどう繋がる・・・・・・あぁなるほど」

何かに気付いたタマモは納得したように鏡耶に言った。

「そのための私たちなのね」

「そうだ。俺達がするのは九峪を含めた彼女達の能力の開放。始祖姫神子の血を引きし者達の その血に宿る潜在能力を開放し、今のままでは確実に誰かを失ってしまうであろう復興軍 を、誰一人欠けることなくさせることがあいつの俺達に求めていることだと俺は思う」

その日、旅人は自分に与えられた役目を自覚する。
そしてその従者は黙ってそれに付き従う。嘗ての己がそうしたように。
旅人は考える。その最適な方法を。自分が直接手を差し延べるではなく、あくまでも 本人が己の力で目を覚まさせるためにはどうしたらいいのだろうかと。
そして辿り着く。それはとても悲しく、残酷で、なによりも危険な方法。
しかし旅人は思う。彼女達なら・・・あの強く眩しく思えるほどの瞳をもつ彼女達なら乗り越えてくれると。






二人の異邦人を含んだその世界は急速に本来の歴史からは違った道を進んでいく。
標を失くしたその世界の先に待つものは・・・・・・・・・
そして世界書は新たな可能性によって分裂し、独立した一冊の書になっていく。
世界の外側。全ての頂点に君臨する存在は夢想する。
強大な力であるが故に干渉することは出来ず、始まりの書を創って以来は決して 書を創らないと誓ったが故に既にある世界からの分岐をさせていくしかなく、 それを彼らに託すしかない己に自嘲する。

「しかし・・・・・・今の俺はそれでもいいと考えている。・・・・・・お前達はこんな俺をどう思う?」

それに答えるは二人の女性。

「・・・・・・・・・(ニッコリ)」

「私はお父様が楽しいならそれでいいと思うわ」

二人の言葉に苦笑を禁じえなかったが、何とか堪えると再び目の前に広がる映像に視線を移す。



――――――世界図書館
その最も深いところに位置する別名本館の館長室と呼ばれる部屋で、一人の男性と二人の女性は 旅人にした一人の男と、それに付き従う一人の女性が織り成す物語を楽しそうに、そして愛おしそうに 見続けていた。











あとがきのようなもの

どもども、五万HIT記念です。

うーん最初のコンセプトはそれだけで読める短編にするつもりが・・・なってるのかな?って思う次第です。
いろいろ最後に伏線はりまくりですが、どこまで実現できるかは不明。
正直只深とかどうしろっていうんだ・・・orz
ゲーム版ではなんか銃とか撃ってたような気もするけど、なんだかなーって感じです。

そしてこんなところでちょっとだけ世界図書館の設定をいうあたりMirrorのいい加減さが垣間見れます。
といってもこんなの言う前から知ってた人が殆んどでしょうが・・・

次回は七万で更新予定です。その次は十万を予定。そしてその後は不定期連載になるのかな〜って思います。
記念は記念で別に番外編とかにしようかな〜って思う今日この頃です。

それではここまで読んでくれた方ありがとうございました。



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