邂逅
怒声が辺りに響く。
馬が駆ける音、雄たけび、何かが切られる音、鎧を纏い、剣を掲げ二色に色分けられた者達が互いに殺し合っている。
そこは戦場だった。
九峪達率いる耶麻台国復興軍は今砦を落としていた。
と言っても規模自体はそこまで大きいわけではなく、砦に在中している狗根国の兵士達の数も僅か二百程しかいなかった。
しかしその砦は狗根国の兵士のみで構成されており、その砦の重要性は誰の目にも明らかだった。
「この砦の重要性は向こうも分かっていたはずですが、随分簡単に落ちそうですね」
そう言って戦場を一望できる復興軍の天幕にいる軍師の亜衣は、大将の席に座っている変わった服を着る青年に話しかけた。
「そうは言ってもな。今回は少数精鋭で行うって言ったのは亜衣、お前だろ?」
「そうですが九峪様。ここまであっさりしすぎているのもちょっと不安だったもので」
仲間が死なないに越したことは無いよと笑いながら亜衣に話す復興軍の総大将である青年九峪はそれでも視線だけは戦場から話さなかった。
「そうよ九峪様。なんていってもこの魔兎族である私達三人も手伝ったんだからむしろ被害があるほうが今後に不安になるわ」
二人の会話に割り込んできたのは小学生高学年位に見間違えそうな兎の耳を生やした女の子だった。
「でも実際に向こうに行ってるのは兎音と兎奈美だろ?兎華乃は行かなかったのか?」
身体的特徴から想像も付かないが、この少女こそ魔界でも最強といわれる種族の一つ「魔兎族」を率いる女王なのだが、九峪は気にした風も無く兎華乃に聞いてみた。
「私の能力知ってるでしょ?私の能力って変動が大きいからあんまりこういう集団戦って向いてないのよ。まぁ人間相手ならそれでも十分なんだけど、今回はあの二人も協力してるんだからいいかなって思って」
「そうですよ九峪様。それに兎華乃様まで向かわれたら九峪様の護衛はどうしたらいいんですか」
「そっか、今は清瑞も行ってるんだっけ?」
忘れてたと頭をかきながら謝る九峪に亜衣はしょうがないですね。とため息をついて天幕から姿を消した。
「それにしてもほんとにとんでも無い人選だったわね。思わず私は決まったとき驚いたわよ」
なにがおかしいのか兎華乃はくすくすと笑っていた。
「なに笑ってんだよ。別にいいだろ?確かにちょっとやりすぎたとは俺も思うけどさ」
今回の戦をする上で選んだ人達は、雑用や砦を落としたあとにそこを任せることになっている数人の兵士を除けば魔兎族三姉妹である兎華乃、兎音、兎奈美、大陸から来た紅玉(香蘭は本拠地で待機)。総指揮として亜衣、九峪の護衛の清瑞とその護衛対象の九峪の合計七人だけだった。
それでも亜衣と九峪を除く全員が一騎当千の猛者達だ。二百いた狗根国兵も残り僅かになっていた。
それから程なくして制圧完了を知らせる狼煙が上がったのを確認すると九峪と兎華乃は亜衣を引き連れて砦に向かっていった。
砦を落とした九峪達七人は砦を一緒に連れてきた兵に任せると伊万里や星華、志野達が待つ本拠地にすぐに引き返していた。
早く結果を伝えたいのもあったが、天魔鏡の精であるキョウが九峪にあんまり長い時間復興軍の総大将がいないのはダメだとしつこく言っていたのが大きかったが。
だが、この行動が無ければもしかしたら彼らは決して会うことは無かったかもしれない。
それはほんの小さな偶然。しかしそのあるはずの無い出会いがこれから先、復興軍にどういう影響を与えるかは現時点では誰にも分からなかった。
そしてその異変に気付いたのは感覚に優れた魔兎族三姉妹ではなく清瑞だった。
はじめは気のせいだと思っていたのだが、もう一度集中して確認してもその異変が無くなっていないのを再確認するだけだった。
「おい九峪。何かおかしいぞ」
九峪を呼び捨てにする数少ない存在のうち、最も九峪といる時間が長い清瑞が九峪に話しかけた。
「何だよ?そんなおっかない顔して」
それに答える九峪は普段以上に真剣な清瑞に何かを感じながら、それでも普段通りに返事をした。
「私達以外の動物はおろか、虫の鳴き声一つしていない」
清瑞がそういったのを聞いて九峪も確認してみるが、いつもはあんなに五月蝿い虫の声が確かに聞こえなかった。
「そう言われてみればそうだな。でもそれが一体何だって言うんだ?」
清瑞が話す内容を聞いた九峪以外の者はその内容が示すところを瞬時に理解し行動を起していたが、九峪だけはまだ分からないままでいた。
「九峪様。清瑞さんが言いたいのは何か良くないものがこの付近に潜んでいると言いたいのです。こんなに月が綺麗な夜は狼の遠吠えだってよくある筈なのにそれが全く無い。それが示している答えは唯一つです」
紅玉にそう言われて初めて九峪は事の重大さに気付いた。
「まさか・・・魔人が近くにいるって言うのかよ」
「魔獣・・・くらいでは虫は鳴き止んだりしませんから・・・おそらくは九峪様の言う通りかと」
懐から符術に用いる札を何枚も取り出した亜衣が緊張した面持ちで九峪の呟きに答える。
「でもそれなら私達が気付かないっていうのはおかしいんじゃないかな〜?」
唯一普段と変わらない調子の兎奈美は疑問に思っていることを言った。
「兎奈美、それは言ってみれば私達ですら気付かない様な奴がいるっていうことなのよ。そこんとこ分かってるの?」
兎音が兎奈美の疑問に答え、さらに続けようとしたそのときその声は聞こえてきた。
「大体兎奈美はいつも緊ちょ「見ツケタ・・・強キ力ヲソノ身ニ宿スモノ・・・」う・・・っ!?」
いつからそこにソレはいたのだろう・・・突然声が聞こえて来た方向に九峪達が一斉に顔を向けると、そこには口以外全てを戦国時代に出てくるような鎧兜を身に纏った男が一人立っていた。
即座に九峪を庇うような配置に立つ亜衣と清瑞。そして彼女達の前に紅玉が覇璃扇を構える。
魔兎族三姉妹は突然現れた鎧武者を囲むようにしてそれぞれの武器を構えていた。
「オ前達ニハ興味ハ無イ。ソノ男ヲ渡シテモラオウ」
「お、俺かよ!?」
「オ前カラハ力ヲ感ジル。我ハ力ヲ求メル者ナリ」
その言葉に反応したのは兎華乃だった。
「力を求める者!?ま、まさか・・・・・・なんでそんな者が人間界にいるのよ!」
「姉様は知っているんですか!?」
兎華乃の反応で今目の前にいる存在がなんなのか知りたかった兎音はすかさず聞いた。
「力を求める者・・・彼らは言うのなら天災のような物なの」
「天災・・・ですか?」
聴きなれない言葉に反応したのは亜衣だった。しかしその顔は青褪め、足は震え、目の前の存在から目を逸らすことが出来ないでいたが。
「そうよ。人間達が知らないのは当然だけど、彼等の存在を知っているのは魔界でも限られた者たちだけよ。更に言うなら最低でも五百年は生きていないとまず聞くことすらない存在ね」
「では何故兎華乃様は知っていたのですか?」
清瑞は額に流れる嫌な汗を拭うことすらせずあたりに気を配っていた。
「それは簡単よ。先代の魔兎族の女王から聞いたから。それに彼らが実際に戦うところも見たことがあるわ」
「それでその戦いはどうだったのでしょうか?」
「あれは戦いなんてものじゃなかったわ。ただの一方的な虐殺よ。打撃も斬撃も術も全く効果無く、逆に彼等の攻撃は簡単に相手の命を絶っていったのだから。でも唯一の救いなのかもしれないのが、彼らは常に一人なこと。目標に決めた存在以外には邪魔をされない限り特に何もしないことかしらね。更に言うならあいつは私が過去に見たのとは違うみたいだから何か有効な攻撃方法があるかもしれないということくらいかしら」
兎華乃があらかた話し、一旦言葉を止めると鎧武者が口を開いた。
「話シハ済ンダカ?大人シク渡セバ良シ。ソウデナイノナラ無理ニデモ渡シテ貰ウゾ」
そう言う鎧武者の言葉には返答することなく、九峪を守る彼女達は互いに目配りをして一斉に鎧武者に飛び掛っていった。
まず飛び掛っていったのは兎奈美だった。
彼女は英数字のZのような変わった武器を振りかぶるとその見かけとは違う強力な腕力でその鎧武者に切りかかった。
ガキン!
「・・・ったあぁぁぁい!手がジンジンするよ〜」
鉄すら寸断する一撃を真っ向から受けても相手には傷一つ付かず、逆に兎奈美の手に衝撃が返ってきてしまった。
その隙を逃すはずも無く鎧武者は腰にぶら下げていた錆だらけの日本刀を引き抜きそして切りかかった。
「ヌンッ!」
その巨体からは考え付かないような速度で踏み込みそして横薙ぎにしてきた攻撃を避けるのは無理と考え、兎奈美は後ろに飛びながら受けることで衝撃を和らげようとした。
グギャ・・・
しかし兎奈美は嫌な音と共に吹き飛ばされる。
「兎奈美!・・・き、貴様ーっ!!」
吹き飛ばされる兎奈美をあっけに囚われ見遣ってしまったが、すぐに正気に戻った兎音は刀を振りぬいたままの状態の鎧武者に向かって飛び掛った。
「うおおぉぉぉぉ・・・!」
相手の後ろに回りこむ様に一瞬にして移動した兎音は鎧の隙間をめがけて己の武器を突き刺した。
「どうだ?いくら鎧が硬くても中身はそうはいかないだろう」
そう言って更に突き刺した武器を横にずらそうとしたとき彼女は気付いてしまった。
「感触がない!?・・・!し、しまっっ・・・・・・あああぁぁぁ!!」
鎧武者を突き刺した感触がないと兎音が理解してしまったときに、兎音の武器を体に入れたまま身体自体を回転させながら裏拳の要領で兎音を吹き飛ばしてしまう。
兎音は何とか空中で体勢を整えようとするが鎧武者は追い討ちをかけるように突進する。
しかしそれは亜衣が放った方術によって邪魔をされる。
亜衣は本能が逃げろと言っているにもかかわらず今自分が何を出来るかを精一杯考えていた。
「九峪様!ここは私達が食い止めます。ですから一秒でも、一歩でも遠くへお逃げください!」
しかし九峪は亜衣の声が届かないのかじっと鎧武者に視線を向けていた。
「清瑞さんはそこで九峪様を守っていてくださいね。あの魔人は足自体はどうやらそこまで速くは無いみたいですので、最悪は九峪様を気絶させてでも連れて逃げてください」
亜衣さんもそのときは一緒に逃げてください。とやわらかく紅玉は微笑み、表情を引き締めてこちらに向きを変えた鎧武者に向かっていった。
「ハァッ!」
手に持つ覇璃扇を鎧武者の間接目掛けて叩き込む。
並みの魔人なら軽くへし折ってしまう一撃は甲高い衝撃音を立てながらもびくともしなかった。
そして反撃が迫ってくる。右から左へ切り上げてくる斬撃を紅玉は必要以上に大げさに避けた。
「これだけ離れて避けてもこれ・・・ですか」
紅玉が大きく避けたにも関わらず紅玉が身に纏っている大陸の服は裂け、その下に現れた白い肌に一閃の赤い線が通っていた。
そこに先ほど吹き飛ばされた兎音が再び鎧武者に飛び掛る。
体を回転させつつ切り付けるが金属同士がぶつかり合う音のみで効果は見られない。
その兎音の攻撃の合間を縫うように亜衣が方術を仕掛け、紅玉は覇璃扇による攻撃から気功を用いた攻撃に切り替えながら応戦していた。
一方兎華乃ははじめに凪ぎ飛ばされた兎奈美の様子を伺っていた。
「大丈夫!?兎奈美!」
「だ、大丈夫ですよ〜お姉さま。でも・・・戦闘は無理かも〜・・・」
見ると兎奈美の両腕は見るも無残に押し潰されていた。
あの一撃で衝撃を逃がすことも出来ずに押し潰されてしまったらしい。
絶え間なく襲い来る激痛に耐えながらも兎奈美は姉に気を使っていた。
「・・・・・・さない・・・」
兎奈美の痛々しい腕を触れるか触れないかのところで撫でる仕草をしていた兎華乃は何かを呟いた。
「お姉さま・・・」
兎華乃は妹をここまで傷つけるまで何も出来なかった自分を責め、そしてその原因を作った鎧武者に対して怒っていた。
そして兎奈美はそんな兎華乃を察したのかいつも浮かべている笑顔で言った。
「私は大丈夫だよ〜。だからお姉さまは私のことは気にしないで、あんな奴ぶっとばしちゃお〜」
「・・・そうね。・・・・・・ありがとう兎奈美。あいつは私が許さないから」
その言葉をはじめに徐々に兎華乃の纏っている空気が変わっていく。
兎華乃の能力は「空」。相手の強さに合わせ力が上下し、そして最終的にはほんの少しだけ相手よりも強くなる。よって彼女に勝てる存在は殆んど存在しない。するとしたら兎華乃の能力である「空」ですら許容できないほどの強さを持つ存在くらいだ。そして今までそれが出来る可能性があるのは九峪の持つ「逢魔の鈴」の能力が開放された九峪くらいだろう。
そして僅か数秒で兎華乃に起こった変化が終了した。
その纏う気は全てを圧倒するほどに強く、肉体が高校生ほどにまで成長していた。
この変化は既に二度目だったため兎奈美は驚かなかったが、兎華乃は違うことで驚いていた。
「まずいわ。あいつに合わせて能力を使った結果がこれだとすると・・・兎音や紅玉さんには悪いけど絶対にあいつには勝てないわ」
それもそのはず、例え紅玉や兎音が本気を出しても兎華乃は肉体的に変化を起すまでには行かない。つまりそれの示すところは一つだけだった。
「それじゃあ兎奈美。じっとしてないよ」
そういい残すと兎華乃は一瞬にして兎奈美の視界から姿を消した。
再び戦場に戻るとそこには全く動かない鎧武者と、肩で息する紅玉と兎音が対峙していた。
「まずいですね兎音さん」
「そんなことは分かっている。亜衣の方術も効果なく、鎧の隙間を狙っても感触はない」
「そして私の気功でも殆んど効果は見られませんでした」
「唯一の救いはあいつが私達より遅いってことか・・・それでも」
「はい。それでも亜衣さんや九峪様より速いです。そしておそらくは九峪様を抱えて走った場合の清瑞さんよりも」
「はっ!逃げることは出来ず、また斃す方法すらわからない・・・可能性があるとしたら「空」を発動した姉様くらいか」
「そういえば兎華乃さんの姿がないようですが?」
「兎奈美の様子を身に向かっている。そろそろ戻ってくると思うが・・・」
しかしただ無闇に攻撃を仕掛けても効果はないため、体力の消耗を防ぐために膠着状態を維持し続け兎華乃を待つ二人。
「・・・清瑞さん」
その膠着状態を少し離れたところから亜衣と清瑞、そして九峪は見ていた。
「どうしました?」
「私達、逃げられると思いますか?」
「・・・無理でしょう。先ほどから私が動こうとすると意識をこちらに向けてくるところから、逃げようとしたら紅玉さん達の攻撃を無視して追って来るでしょうから」
「そうですか・・・九峪様?いいかげんこっちに戻ってきてください!九峪様!!」
亜衣は清瑞と現状を確認したところで、未だに正気に戻らない九峪に強めに呼びかけた。
「・・・!?あっ・・・俺は・・・」
九峪はそれでようやく意識を回復させ現状を清瑞から聞いた。
「一体どうしたって言うんだ九峪?こんな状況で呆けている雛なんて無いだろうに」
「なんかさっきあいつの「力を求める者」って言葉を聴いたときに、なんかずっと昔に同じ事を聞いたような気がしてよ。そう思ってから今亜衣に呼びかけられるまで全く気付かなかったんだよ」
「そうか・・・で、どうするんだ?といってもどうしようもないが」
「衣緒から聞いた魔人を一撃で倒した術を九峪様が使いこなせればよかったのですが・・・」
「何度も言ったと思うが、そんなこと言われてもどうやったのか覚えてないんだから無理だって」
「ですよね・・・結局できることは」
「はい、紅玉さんたちがあの鎧武者を退けてくれることを祈ることだけですね」
そしていつまでも続くと思っていた膠着状態も新たな参加者の登場で再び動こうとしていた。
「ドウシタ・・・イツマデコノ状態ヲツヅケルノダ・・・我ハ余リ気ハ長クハナイゾ・・・・・・」
「ならこの一撃を受けなさい!」
全く疲れを見せない鎧武者がそう口を開いたとき、それに対する返答の大声が辺りに響き渡った。
そして鎧武者の刀を持っていいないほうの腕を黒い炎が通り過ぎていった。
「姉様!」
兎音は自分の信頼する姉の声を聞き紅玉と簡単に話をしてから兎華乃の援護に回ることにした。
「どう?魔界でも最強の炎の攻撃力は?」
土埃が収まったときに現れたのは左腕を半分ほど無くした鎧武者だった。
九峪たちが力を求める者と対峙するその数ヶ月前――――――
耶牟原城・・・このとき既に征西都督府だったが・・・そこから程なく離れた山奥にそれは起こった。
突然空に裂け目が現れ、その裂け目がどんどん大きくなっていった。
人が並んで二人くらい通れるほどに一頻り大きくなったその裂け目は、しばらくすると何事も無かったように元の普通の空間になっていた。
しかし先ほどと違うのは空間の裂け目があった場所には一組の男女が立っていたことだった。
「・・・着いたな」
「そうね」
「最近思ったことがあるんだがいいか?」
「ええ」
「あいつは俺達のことを玩具か何かと勘違いしてるんじゃないか?」
「・・・でしょうね。なんか「たまにはテレビとかない世界に行って、その俗まみれな身体を綺麗にして来い!」とか言ってたし」
「・・・・・・そうか。次に戻ったらぶん殴ってやる」
男と女はよく分からないことを一頻り話し合うと、さっそくこれからについて話し始めた。
「で、これからどうする?タマモ」
「とりあえずはここがどういった世界か調べるでしょ?服とかも替えないとダメかもしれないし」
「だな。じゃあさっさと人が住んでる場所を探すとするか」
「今度はどんな人達と出会えるか楽しみね鏡耶」
男と女・・・鏡耶とタマモはそう言うと誰の目にも付かないほどの速さで山を下っていった。
それから二人は麓の集落に着き、自分達に必要な情報を集めだした。
途中その鏡耶の特徴のある髪と瞳、タマモの外見から人だかりが出来てしまうこともしばしばあったが、それ以外は順調にことが進んでいった。
まず鏡耶たちが求めたのは情報。流行や噂、愚痴といったことまで何でも手に入れていった。
その結果分かったことが、今この国を治めている国家は狗根国といい、残念ながら国民の支持は受けていないこと。治安を収めるはずの兵士や領主が反抗できない民に対してかなりひどい仕打ちをしていること。そしてそれをよく思わず、奪還を志している旧統治国の耶麻台国復興軍と呼ばれる集団が存在すること。そういったことが分かった。
「なんかすっごく面倒な時代と時期に来ちゃったみたいね」
タマモは紺の紬を見事に着こなし、しかしその表情は疲れたように呟いた。
「そう言いたくなるのは分かるがしょうがない。でも狗根国や耶麻台国っていうのも面倒だが、魔獣や魔人って呼ばれる存在がいるってことは俺達にとってよかったかも知れない」
「まあね。根無し草じゃなくて私達の力を売り込めばどっちに協力したとしても、それなりの生活は出来るだろうし。・・・そういえば私達に掛かってる制限ってどうなってるの?」
「今回は随分と緩いな。・・・およそ五割ってとこだ。でも厄介なことがある」
「厄介なこと?」
「ああ。同期が出来ないってことだ」
「えっ!?それってマジなの?」
「マジだ。ほら、あいつからの手紙だ」
タマモが鏡耶から渡された手紙を見るとそこには見たことのある文字で、「今回は反則気味になっちゃう同期合体は封じさせてもらったから!あ、でもそれ以外はかなり制限を緩くしておいたから死ぬことは無いと思うからいいよね?じゃ、そういうことで!」と書かれていた。
「頭が痛くなってきた・・・まぁいいわ。それでこれからどうするの?」
額に手を当てて疲れきった雰囲気を無くすとタマモは聞いた。
「おそらく狗根国は俺達みたいな不審人物なんて雇わないだろうし、あそこからは嫌な気配もすることだし」
鏡耶は見る先には嘗て栄えた耶牟原城を水で埋めた上に建てられた征西都督府があった。
「ふーん。じゃあ復興軍のほうに手をかすんだ。」
「いや、そんなすぐには手を貸さない。彼等の実力も知っておきたいし、何より復興軍の内情についても知っておく必要もあると思う。それと・・・」
「それと?」
「神の遣いとかちょっと気になるしな」
「たしか見慣れない服を着てるのよね?もしかしたら私達と同じ存在がいるってこと?」
「そこまでは分からないが、なんだかんだ言ってもあいつが意味も無くこの世界に俺達を送り込むはずが無い。「世界書」通りに事を運ばせるために送ったんだろうからな。それを見極める必要がある」
「そ。鏡耶がそこまで考えてるなら私は付いていくだけよ。それじゃあ早速彼らがついこの間攻め落としたっていう当麻の街に向かいましょう」
そして彼らは行き先を当麻の街に決め、道中さらに情報を集めながら三世紀の九洲での第一歩を踏み出した。
一ヵ月後、鏡耶たち二人は当麻の街の麓まで来ていた。
しかしあともう少しのところで運悪く魔獣に遭遇してしまっていた。
「こいつらが魔獣か・・・どう思う?」
その手に大太刀を手にした鏡耶が背中を任せているタマモに言った。
「たいしたこと無いわね。ひよっこ死徒が二十七祖に見えてきそうだわ」
「ま、そんなものか。魔獣でこのくらいだと魔人って言うのは二十七祖くらいって思っていいかもな」
「断定するのはよくないけど、概ねいいんじゃないかしら・・・それじゃあ確認も終わったことだしさっさと片付けましょうよ」
「そうするか」
そして僅か数分後には何十といた魔獣は全て切り伏せられたり燃やし尽くされていた。
「いつ見てもその大太刀すごい切れ味ね。まぁ鏡耶の技量もあるんだろうけど」
「これか?まぁ伊達にミステスって呼ばれていたものの贋作じゃないってことだな。特殊能力そのものは無いが、その神秘はオリジナルと全く同じだからな」
そう言って鏡耶はあれだけの魔獣を切ったにもかかわらず、刃毀れどころか血糊すら全く付いていない大太刀を掲げた。
「士郎だっけ?それを創ったの。あいつの在り方はちょっとムカついたけどそれについては感謝しないといけないわね」
「ああ。蓮螢、蒼竜は強すぎるうえに普通の剣じゃないからな。こればっかりは士郎とこの「天目一個」のオリジナルを触らせてくれたシャナに感謝をしないといけないだろうな」
そして鏡耶は自分の影に同じ名前は彼女に失礼だろうということで、前に持っていたというミステスの名前を付けた大太刀を沈めていった。
「さて、余計な時間を費やしてしまったからさっさと当麻の街に入るぞ」
「ちょっと待って。こいつら燃やしてから行くから」
彼らが去った後、そこは周りの木には全く被害が見られない、何かが燃えた匂いがするだけの空間が残った。
当麻の街に入ってからは文珠で「隠」れながら復興軍について調べていった。
文珠を使ったのはかなり気配などを探すことに長けている乱破がいたからだ。昼間は街に入れるが、夜は追い出されてしまう。しかし、だからこそ夜に知りたい情報が手に入ると考えた鏡耶は夜になると文珠を使って少しずつ情報を集めていった。
「あの九峪っていう神の遣いだけど・・・どうみたってブレザーよね?」
「だな。しかしあのズボンのポケットに入っている何かからは何か強い力を感じる」
「ええ。それ以外は普通の何処にでもいる高校生ね。なんであんなのが神の遣いなんてばれずにいるのか不思議だわ」
「それもそうだが、異様な程に幹部に女性が多くないか?それも未亡人から幼女まで・・・関西弁を使う奴もいるし、ここはビックリ館か?」
「ふーん・・・鏡耶は私という存在がありながらそういうことを思ってたんだ?まぁタダオ時代に比べたらあんまりもてなくなったけど」
「ここでそんなことを言うか普通。何度も言ってると思うが俺が愛しているのはタマモだけだぞ」
「そう。ならいいんだけど・・・マージョリーさんとは気持ちよかった?」
「あの身体は反則だよな。しかも俺が初めてだったみたいで、あのギャップはすごかった・・・ってタマモ?その手に持つ蒼白い炎はなんだ?」
「浮気の心配はしてないけど、浮身体をするその体にちょっとお仕置きしようかと思って・・・」
ポロっと秘密にしていたことを言ってしまった鏡耶にタマモは、すっごくいい笑顔で鏡耶に対して必殺の炎を放とうとしていた。
「落ち着けタマモ。せっかくの美人が台無しだろ。そういえば最近は抱いてなかったし、今日辺りするか?まぁ他の女を抱いた俺とは寝たくないなら構わないが」
「うっ・・・私が断れないの知ってるくせに・・・。でもね鏡耶」
タマモの表情が真剣に、でも泣きそうになるのを鏡耶は黙って見つめ、続きを待った。
「他の誰でも抱いていいけど、最後は絶対に私のところに戻って来てよね・・・」
「・・・・・・」
鏡耶はそんなタマモを優しく抱きとめ、耳元で何かを呟いた。
それを聞いたタマモは泣き出してしまったが、鏡耶を強く抱きしめた。
鏡耶はこの話を始めてすぐに「防/音」の文珠を「隠」と併用して使っていたから誰にも気付かれなかったが、それでも鏡耶は結構冷や汗を掻いていた。
なぜならそこは復興軍が軍議をしている部屋の屋根裏だったのだから。
さらに時間は過ぎ、伊万里と呼ばれる女性が蟲に操られたこともあった。
このとき鏡耶たちは初めて魔人を見たが、左程脅威に感じなかった。しかしそのときに見せた九峪の力には驚かされ、その潜在的な能力の高さに舌を巻いていた。
そして魔兎族を見たときは二人してこの世界の常識を疑ったほどだった。
復興軍は兵士こそ消耗していたが幹部には全く欠員が出ずに驚くほど順調に進軍していく様を、鏡耶たちはただ静かに観察していた。
そんなある日。
「でもさ、ちょっと順調すぎるくらいに順調じゃない?」
タマモは遥か上空から足元で行われている城攻めを見ながら鏡耶に言った。
「おそらく本の力だろうな。途中経過は分からないが、殆んど最後まで復興軍の幹部に欠員は出ないと思う。出るとしたらそれは征西都督府に攻め込むときか、あの枇杷島ってのが攻めてくる時、他には四天王、上将軍、左道士監との決戦の時くらいだろうな」
「そっか、でも最近なんか背筋がぞわぞわすることがあるのよね。何も無きゃいいんだけどさ」
鏡耶はいつの間にかタマモが復興軍に肩入れしているのに気付いたが、特に何も言わずにタマモ同様足元で行われている少数精鋭による城攻めを見物することにした。
「そういえば鏡耶」
ふとタマモが鏡耶に聞く。
「いつごろ復興軍に混じるつもりなの?もう随分見てきたし、そろそろいいと思うんだけど」
だが鏡耶はタマモにそれを言われたとき微妙に目をそむけた。それに気付いたタマモは何かを察したのかジト目で言った。
「さては考えてなかったでしょ?たまにどっか抜けてるのよね鏡耶は。で、どうするの?」
「何とかして恩を売るような形で参加できるのが理想なんがな。そう上手くは・・・!・・・・・・いったみたいだな」
突如ここから山二つ程離れた場所から強力な力を感じた鏡耶は口元を吊り上げながら言った。
「これは・・・老師が妙神山にいたときくらいの力はあるわね。距離のせいで彼らは気付いてみたいだけど、何故かこっちに向かってきてるわよ」
「どんな奴か知らんが穏やかに解決出来そうな相手じゃないみたいだしな。・・・おっ、力を隠した。これはますます彼らでは荷が重そうだ」
「すごいわね。さっきの力を感じてなかったら私でも追跡出来ないくらい完璧に力を隠すなんて」
「さて、恩の売り方は決まった。あとは上手く彼らがぶつかってくれるのを待つだけだ」
そう言った横島はタマモに向き直った。
「タマモ、これからいつも通りこの世界に介入するわけだが・・・」
「わかってるわよ。もう毎回言うからいい加減耳にタコができたわ。・・・存分に楽しみましょう!」
「よし!じゃあいくか」
そして二人は砦の入り口側まで降りて行き、九峪たちが砦から本拠地に戻るまで身を隠した。
そして鏡耶たちが隠れてみている中、九峪たちはぼろぼろにされていた。未だ死者がいないのが唯一の救いだろうか・・・
すでに亜衣の符術は符が無くなり、符力も無くなったため方術も使えず、清瑞も戦闘にあとから加わったが忍刀が折られ九峪の腕の中で今にも気絶しそうになっている。兎奈美は腕が潰され痛みから気絶し、兎音と紅玉は武器を破壊され兎音は右腕が、紅玉は左腕が力なく垂れ下がっていた。
兎華乃だけは未だ五体満足で戦ってはいるが、既に黒い炎を出すほどの力は無くなり、「空」の能力で力が上がっても効果的な攻撃が出来ずにただ睨んでいた。
そして九峪は目の前で起こったことにどこか遠くを見ているようなトランス状態になっていた。
「男ヨ。オ前ハ身ヲ挺シテ庇ッテクレテイル者達ヲ前ニシテソウヤッテ震エルコトシカ出来ナイノカ?ドウヤラソノ力ハオ前ニハ過ギタ物ノヨウダ・・・我ハ必要ノナイ殺シハアマリシナイノダガ、ソコデコノ娘達ガ死ヌノヲ見物スルガイイ・・・!」
そう鎧武者が言い終わると同時に鎧武者は左腕を半分失っているとは思えないほどのバランスで走り、一番近くにいた兎華乃に向けてその錆びた刀を振り下ろした。
・・・・・・ザク・・・・・・・・・ボゥッ!!
力が上がっても既に体力の限界に来ていた兎華乃は、自分が殺されるその瞬間にもかかわらずしっかりと相手の顔を見据え睨んだ。
そして振り下ろされ、自分が切られる直前に鎧武者が横に吹き飛ばされるのを見た。
「・・・・・・・・・テメェ。・・・いい加減にしろよ・・・・・・確かに俺が不甲斐無かったせいもあるだろうが、お前の狙いは俺一人だったんだろ!?それなのに清瑞たちをこんなにしやがって・・・お前だけは・・・お前だけは絶対に許さねぇ・・・・・・!!」
リリリリィィィィィィィィィン・・・・・・・・・・・・
いつのまにか辺りに鈴の音が鳴り響く・・・
鎧武者は九峪の蒼く燃える右腕を見やり、そして自分の左腕に刺さっている折れた忍刀を見た。
その傷口をそのままにしておくのは本能でまずいと思った鎧武者は次の瞬間驚く行動に出た。
ザシュ・・・
「何ヲ驚ク。コノ身体、元々痛ミハ無イ。成程・・・天ノ炎カ・・・益々欲シクナッタゾ・・・!」
自分の左腕を肩から迷うこと無く切り落とした鎧武者はその体に見合った大きさの声で嗤った。
「今度ハ此方カラダ!」
そう言うと鎧武者は九峪に向けて大きく踏み込み最短距離で腕を突き出した。
「刺突!」
「刺突は遠近が取りにくいからな。さてどうする?」
思わず声を挙げてしまったタマモに鏡耶は思ったことを口にした。
二人が気付かれないように今だ観戦を続ける中、九峪は躊躇うことなく右腕を向かってくる刺突に突き出した。
「・・・!?無茶よ!いくらあの炎で覆われているとはいえ適うはず無いわ」
タマモが九峪の行動に目を疑う。
「蛮勇・・・?それとも考えがあるのか・・・」
しかし鏡耶は落ち着いて目の前の九峪の行動を観察し、両者がぶつかる瞬間を待った。
「・・・・・・そうか。成程な」
鏡耶は今目の前で起こった現象を見て何かに納得した。
しかし突然そんなことを言う鏡耶にタマモは何を言っているのか全く分からなかった。
「ちょっと鏡耶。何が成程なのよ。それにどうしてあいつはあんな行動をしたのよ」
タマモは何が起こったのか見えてはいたが、どうしてそういう行動をとったのか分からないでいた。
そして二人の目には九峪がお腹を抱えて蹲っている九峪と、刀をずらす代わりに膝で九峪を蹴り飛ばした鎧武者が写っていた。
「かはっ!・・・・・・なんで刀で刺さなかったんだ・・・」
九峪はまるで親の敵を見るかの様に鎧武者に対して睨んだ。
「マダオ前ハ力ガ出ルハズダ・・・我ニハ分カル。サア我ニソノ真ノ力ヲ見セテ見ロ!」
鎧武者はそう言って九峪に再度刀を向ける。
しかし九峪は先ほどの一撃でまともに動けないでいた。
「・・・・・・如何シタ?マサカアノ程度ノ一撃デ動ケナクナッタノカ・・・?・・・・・・何タル無様。ソレナラバ我ガ動ケルヨウニシテヤロウ」
そう言うと鎧武者は何を思ったのか九峪から体の向きを変え血を流しすぎて今にも倒れてしまいそうな紅玉の方に向かって行った。
「テメェ・・・な、何をするつもりだ・・・」
嫌な考えが頭を横切る中、それでも九峪には聞くしかなかった。
「知レタコト・・・仲間ガ一人クライ死ネバ未ダ眠ッテイル力、起キルカト思ッテナ」
言いながらも鎧武者は紅玉に向かって一直線に歩いていく。
紅玉は何とか動こうとするが既に限界を過ぎ、血の気が無くなった顔で向かって来る鎧武者を見やった。
「や、やめろ・・・・・・くそ!・・・動け、動けよ俺!!・・・でないと紅玉さんが・・・頼むから・・・動いてくれよぉ・・・・・・」
未だ鈴の音も止まず、右腕も蒼く燃え挙がっている。
しかし肝心の身体は九峪の意志とは裏腹にピクリとも動かないでいた。
そして鎧武者は歩みを止め錆びた刀を振り上げた。
「何カ・・・言イ残スコトハ無イカ」
刀を振り下ろす直前、鎧武者はそんなことを言う。
そこことにいささか驚いた紅玉だったが、小さくいいえと言って目を閉じた。
紅玉はひどく落ち着いていた。
今目の前で振り上げられている刀が振り下ろされれば死ぬというのに、何故か不思議と恐怖は無かった。
未練はある。未だ耶麻台国の復興には時間がかるだろうし、香蘭も一人前とは言えない。
それになにより亡き夫の無念を叶えて挙げられなかった。
一秒が何時間にも感じられる。
思えば思うほど未練だらけの終わりだ。それでも何故か安心している自分がいる。
漠然とだが自分は死なないだろう・・・矛盾だらけの考えだが、そう確信している自分が何故かいる。
風を切る音がする。
おそらく刀を振り下ろした音だろう。
しかしいつまで経っても自分に襲い掛かってくる痛みは感じなかった。
やっぱり・・・
「これ以上は目覚めが悪くなりそうだったからな・・・悪いがお前には死んでもらう」
とても大きな存在を感じる。
九峪様があの蒼い炎を出したときに感じた存在なんて、今目の前で私を守ってくれた人から感じる存在感と比べたらまるで話しにならない。
ああ、先ほど感じた確信は間違いではなかった。
そして紅玉はゆっくりと瞳を開き、長い漆黒の髪を紅い布で纏めた男が鎧武者の一撃を大太刀で防いでいるのを見た。
「何者ダ貴様・・・」
「名乗るほどのものでもない。だがそうだな・・・「旅人」、とでも言っておこう」
突然現れて自分の一撃をやすやすと受け止めた男を見る鎧武者だったが、ばっと後ろに飛び退き自分の一撃を受け止めた男・・・鏡耶と距離を開けた。
「やっぱりな。・・・・・・タマモ!他の者の手当ては頼んだ!」
鏡耶の言葉を聴いたタマモは側にいた兎音の方に向かっていった。
何か言おうとする兎音に有無を言わさずヒーリングをかけるタマモから目を離し、鏡耶は鎧武者を警戒しつつも紅玉と目を合わせた。
「すまない。今怪我を治す。じっとしててくれ。それと怪我が治っても失った血はそのままだから無理をせず休んでてくれ」
そして鏡耶は文珠に「治」と籠め、紅玉に押し当てた。
一瞬の光の後、そこには傷どころか服まで直ってしまった紅玉がいた。
紅玉は自分に起きた現象にわけが分からなくなるが、おかしなところがないか無いか聞いてくる鏡耶に頭を下げた。
「ありがとうございます。ですがどうやって・・・?これほどの術は見たことが・・・」
しかしその言葉は唇に人差し指を当てられ最後まで言えなかった。
「それは企業秘密だ。それに先ほども言ったが、まだ無理をしないほうがいい。そこで休んでいろ」
どこかぶっきらぼうで冷たい言葉遣いだったが、紅玉にはとても優しく聞こえていた。
「さて。おい、神の遣い。お前もそこで休んでいろ。今俺の連れがお前の仲間を治療している。安心していいぞ」
「あ、あんたは一体・・・それに何で俺が神の遣いって・・・」
「そんなことは後でいいだろう。お前はそこで大人しくしていればいい」
問答無用で九峪の発言を封じる鏡耶だが、鎧武者の方に意識を戻した。
「さて、待たせてしまったようだな。これからは俺がお前の相手をしよう。・・・と言っても結果は見えてるがな」
そして天目一個を構える鏡耶。
「イイダロウ・・・後悔スルガイイ」
鎧武者も逆手に錆びた刀を持ち直し構える。
「・・・・・・させてみろ」
そして両者は一瞬の交差の後先ほどとは逆の位置で立っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・見事ダ・・・・・・」
そして数秒後には一本の折れた錆びた刀だけが残っていた。
それは本来ならありえなかった筈の邂逅。
しかし彼らは出会ってしまった。
それが未来に如何影響するかは彼らはもちろん誰も知らない。
もし知っている者がいるとすればそれは・・・・・・
無数の本が並ぶ何処だか分からない場所――――――
一人の男が空間に浮かぶ映像を楽しげに見ている。
男は映像に写る自分が送り込んだ二人をことを考えていた。
しかしおもむろに金に光る一冊の本を開いた。
そしてその本を数ページ読んで再び本を閉じた。
「完全無欠のハッピーエンド・・・唯一存在しないはずのソレをこの に見せてくれ」
あとがきのようなもの
どもども、一万HIT記念です。
ってもうかなり前に過ぎましたが・・・
いかにも続きそうな展開ですが、これはこれで終了です。
火魅子伝の連載は兵法に詳しくないとおそらく無理でしょうし、何より登場人物が尋常じゃありません。ですので、時間的には不連続な話を短編という形で掲載していこうと考えています。
さて、タマモも一緒なのですが・・・タマモがいると鏡耶が火魅子伝のサブキャラといちゃいちゃ出来ないことが判明・・・何とかしたいと思う今日この頃。
そしてやはり戦闘の描写が可笑しな程にへたれな自分に乾杯したいと思ったりも・・・
今回はこの辺で締めさせてもらいます。
それでは次回のあとがきのようなものでまた会いましょう。
ではでは。
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