GS二次小説 「せめて絶望のない世界をあなたに」



第016話 Side-SH

くそっ・・・どうしてだ・・・!



なんでこうなってしまった・・・・・・

私は唯・・・



唯・・・一緒にいたかった・・・・・・・・・・・・ただ、それだけだったのに・・・





今日が新月で良かった。
ふと頭に浮かんだ感想に私は苦笑する。

何を今更・・・新月じゃなくても今日と同じことをもう二週間も続けているというのに。

でも、それでも彼女に気付かれていないならそれでいいと私は思う。

いや、もしかしたら既に気付いているのかもしれない。
彼女は優しいから。知っていて知らない振りをしているのかもしれない。

だめだな。
いつもコレが終わると考えが悲観的になってしまう。
この行為だって本当は意味は無いのかもしれない・・・。
いや・・・・・・意味ならある。
この行為のおかげで私はまだここに立っていることが出来るのだから・・・



ああ、空が明るくなってきた。あと数時間もしないで彼女が起きてしまう。

そして私は彼女が目を覚ます前に自分の部屋に戻らなければならないことを思い出して、手に先ほどからずっと持っていたナイフを握りなおし村へと足を進めることにした。





先ほどまで私がいた場所が徐々に明るくなり、その細部が明らかになってくる。



そこには一杯にまで入れたお風呂の水をひっくり返したような水溜りが出来ていた。





しかしその水溜りは元は鮮やかな薔薇の色をしていたが、ソレは既に空気に触れどす黒く変色してしまっていたが・・・・・・・・・











あの新月から丁度二週間が経過した。

あれから益々私の身体はその本質を露呈しようと騒ぎ立ててくる。
一昨日はついに最愛の彼女を欲望のままに貪り、最悪の限りを尽くしてしまった。

「貴方が少しでも楽になるなら私は構わない・・・」

そう私の頭を抱きかかえながら囁いた彼女はとても優しい色をいていた。
その言葉を聞いた時、私は彼女に全てを打ち明けることを決心した。

彼女は既に予想はしていたらしく、村長から昔聞いた御伽話をしてくれた。

「貴方のことは皆には黙っていましょう」

最後に私のことを心配してくれた彼女はそう提案し私も同意した。
なぜならもしこの話が他の人に知れ渡れば私は良くて村から追放。悪ければ殺されてしまうから。

そんなことはさせない!
私は思った。
私はそんな死に方は嫌だし、それに私は既に自分の最期を考えていたのだから。

そしてその日、国が派遣してくれた自称精鋭部隊はついに村に戻ってくることは無かった。








さらに翌日。私と彼女は出会った。

一人は長い黒髪をバンダナで結うという大雑把な髪型だったが、それが彼の紅い瞳によく映えている・・・そう思った。
もう一人は付き添いということだが、私が部屋に入った瞬間に私の身体で起きていることを感じ取ったらしい。微かに表情がきつくなったのが私にはわかった。
その彼女は艶のある金の髪をポニーテールを九つに分けるという奇抜さでセットし、今回の仕事を請け負ってくれた男にしなだれていた。

彼女と私はあの日の出来事のみを彼らに伝えた。
曖昧な表現をなるべく避け、事実のみを伝えるようにしたが、はたしてそれで良かったのだろうか?
答えは分からなかったが、君影鏡耶と名乗った男性が言うことを纏めると大いに役に立つ情報だったらしい。

タマモと名乗った女性と部屋から出て行く姿を見送ると彼女が私に言った。

「ねぇ、あの人達で本当に大丈夫なのかしら」

「君は気付かなかったの?あの人達は一目で私のことを看破していた。だからきっと大丈夫だよ」

そう、彼らは国が派遣した人達ですら気付くことのなかったこの身体に気付いた。
つまりそれだけ実力があるのだと私は思った。

そして彼らなら私の望んでいることを与えてくれるかも知れないと・・・・・・



その日の、夜私は襲い来る本能を彼女にぶつけることで解消した。
そしてその後、私は決心を固め彼女に話す事にした。

「聞いて欲しいことがあるんだ・・・」

「何?」

私が真剣なのが分かったのだろう。彼女は幾分緊張した面持ちでベッドから起き上がり、私と向かいあった。

「今日、日が昇って再び沈めば満月になる。おそらくそのときが私が私として存在する最期の時になる」

「え・・・?ちょっと何を言うのよ」

「私にはわかるんだよ。今すぐ君をめちゃくちゃに壊したい私がそう言ってる。・・・・・・今日までだって」

「本当に・・・?」

「うん、本当だ。だから、君には私の最期の願いを聞いてもらいたい」

私はぎゅっと彼女の手を握り、彼女の返事を待った。

「最後の願い・・・・・・?私に出来ることなら・・・」

「君にしか出来ないことだ。・・・違う。君にして欲しいんだと思う」

その言葉に何か気付いたのだろうか。一瞬私と握り合っている彼女の手が震えた。

「・・・・・・・・・うん。・・・・・・言って」

「私を・・・・・・・・・私を君の手で・・・・・・・・・







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・殺して欲しい―――」









殺して欲しい。そう言ったとき、彼女は泣いていた。
声を出すこともせず、ただ夜中に雪が深深と降るようにそっと・・・優しく、けれどもその瞳は悲しそうに揺れていたが泣いていた。

「――――――しょうがないなぁ。私がいないと本当に何も出来ないんだから・・・・・・」

彼女はそう言い、泣きながら微笑んだ。







翌日、あの二人が仕事が完了したと言って戻ってきた。
彼らは私の元に来るだろうと確信して彼らを待っていた。

そして今、あの二人は私の前に座っている。

「分かっていると思うが、おそらく遅くとも三日以内に君はあの魔獣と同じ存在になる」

「いえ、今日の夜。満月が一番高くなったときでしょう」

「・・・・・・そうか。わかるのか?」

「これでも自分の身体のことですから・・・」

その後、いくつか彼の質問に答えた私は切り出した。

「貴方は私を退治しない。・・・違いますか?」

「何故?・・・と言ってもいいか?」

「貴方は残された者の気持ちと、残す者の気持ちの両方を知っていると思ったからです。それに貴方はプロだ」

その言葉に何を思ったのか分からないが、彼はそのとき確かに笑っていた。

「そうか」

「はい。それで貴方なら私が望む物を持っていると思ったのですが・・・ありますか?」

そして彼がくれたのは十四本の矢。
どんなに強い存在でもこの十四本すべてに貫かれた物は例外なく死を与えられる。
ただし一時間以内にという条件もあるが。
彼はそう説明しながら自分の影からその矢を取り出し、彼女に渡していた。
私ではなく彼女に渡すということは、どうやら全て分かっているらしい。
そして彼らはこの村から去っていった。





夜――――――

村のはずれ、私と彼女が初めて出会った丘の上で対峙する私と彼女。


パシンッ・・・!
・・・・・・ザシュ

矢が放たれ、私の身体に刺さっていく。
既に痛みを感じることが無かったのが救いだったが、どうしても彼女の顔を見ることは出来なかった。

「・・・・・・私一人ではどうやっても無理だった。傷を付けてもすぐに直ってしまうこの身体で自殺は無理だった」

パシンッ・・・!
・・・・・・ザシュ

パシンッ・・・!
・・・・・・ザシュ

「誰にも気付かれることなく死ねるのならそれでいいと思った」

・・・・・・キュオゥ・・・・・・・・・ザシュ

「でも、すでに侵され過ぎたこの身でそれは、過ぎた思いになってしまった」

・・・シュシュオォゥ・・・!
・・・・・・ザクッ・・・ザシュ・・・

「私は君を傷つけてまで生きたいとは思わない」

既に十三本が私の身体に突き刺さっている。
次の一射で私は死ぬことが出来る。
私は空に浮かぶ満月を最後の矢が刺さるまで見ていようと決めた。

最期こそこんな終わりだったが、思い返してみると悪くない人生だったと思う。
何しろ彼女に会うことが出来たのだから。

パシン・・・・・・

十四回目の矢が放たれる音がするが刺さる音はしなかった。
まさか外したのか?そう思ったが、次の瞬間に感じた衝撃に私は仰向けに倒れてしまっていた。

「・・・ダメ・・・・・・貴方が・・・貴方がいない世界は私にとって色が無いのと変わらないわ・・・」

ぶつかってきたモノの正体は彼女だった。
私は満月を見ていたから彼女がどんな顔をしているのか分からなかったが、想像することは容易かった。

「だから・・・・・・こんなことしか思い浮かばなかった。・・・ごめんね」

「私こそ君に謝らないといけないな・・・すまない。・・・・・・そしてありがとう」

銀色に輝く月が見える・・・・・・

そしてその月の輝きに隠れるように風を切り裂いて落ちてくる一本の矢・・・・・・

それが、私が見た最期の世界だった。













大切な者がいない世界にはどんな色の花が咲くのだろうか・・・・・・














あとがきのようなもの

読んでくださいました読者様、ありがとうございました。
第016話の番外、Side-SHはどうだったでしょうか?

初めて地の文を一人称で書いてみたのですが、今までのと比べるとどっちがいいですか?

SoundHorizonの世界観はとても好きで、車の中でも聞いては涙を流しそうになり、事故りそうになったりします。
特にこの話の元になった「恋人を射ち落した日」という曲は上位5位にランクインするほど気に入ってます。

いつまで経っても上手く文章を紡げないMirrorですが、これからも暖かい声援を期待してます。
応援お願いします。・・・・・・本当にお願いします・・・・・・

それでは短いですが、これにてあとがきのようなものを閉じさせていただきたいと思います。

また次のあとがきのようなもので・・・





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